いずれにしても、本当は基礎的な訓練はプロダクションでやらなければならない仕事なんですが、最
近では新人の教育をやっているプロダクションは幾つもないのです。どのプロダクションでも教師が出
来るくらいの人は忙しくて、そんなことやっていられない。入って来たら即、中割りから始めなければ
ならない……。ですから現在では専門学校がその肩代わりをして若い人を制作現場に送り込んでい
るのが実情です。
― そうすると専門学校に行っても、就職してもふるいにかけられる……。また、専門学校出とそう
でない人がプロダクションに一緒に入ると、かなりのハンディがあるということになりますか?
大塚その通りです。プロダクションに入っていきなり本番と言われると(まずクリーンアップから始
めるのですが)きれいな線が描けるまで何ヶ月もかかる人もいますが、そんなには待ってくれませんか
ら、既にその訓練をした人と、していない人の差は歴然です。この段階で随分ふるいにかけられてし
まいます。とても半年は待ってくれません。ですから、昔は結構上手な絵が描けるのに動画の線に馴
染めないで去って行った人の数は数え切れません。もったいないケースも沢山あったと思います。ラフ
な原画は上手なのにクリーンアップはまるで駄目とかね。
学校の訓練というのはこの点をカバーしているのです。言ってみれば陽当たりのいい砂浜で亀の卵
を孵して、少なくとも波打ち際まで歩いて行けるところまでの授業です。プロの現場は、言わば海の
ようなもので、そこでの生存競争に生き残るかどうかまでは学校では見届けられないのです。しかし、
代々木アニメというのはその点で非常によくケアしていると思います。
生徒の中からベテラン輩出を夢見る「先生」という仕事
大塚そう言えば、昨年高畑村塾(東小金井村塾)(注2 9)で五時間講義みたいなことをやらせてもら
いましたが、高畑さんの講義を毎週聞いている人たちですから大分緊張しました。
― あれ、ぼくも聞きたかったですよ。大塚先生の話ですから、生徒諸君も緊張して聞くでしょう?
大塚そうでもありません。高畑塾ではぼくの作品歴についてよく知っている人が多い感じでしたが、
代々木では時々講義の前に「私は大塚と言いますが、名前を聞いたことがある人は手を上げて下さ
い」と聞いてみることがあります。すると四分の一くらいしか手が上がらないこともあります。一八〜
一九の若い人たちですから、現役で活躍してない限り覚えてもらえません。十年前で八歳ですから
ね! それ以前に活躍した―という程度では知らなくて当然です。「太陽の王子」「長靴をはいた猫」
(注 3 0 )
といった作品は教室中誰も知らないこともあります。あの世代の間で広く知られていようと思え
ば、現にヒット作を連発しているくらいでないと……。
―ヘえ〜っ。それでも、大塚さんが関わられた作品は、今でもリピートで放映されていますから、知
っている人は多いんじゃないでしょうか。
大塚ええ、それが四分の一という数字だと思います。四分の一が知っているというのは大変な数
で、リピートやビデオの普及のせいでしょう。それが返ってぼくを緊張させているのです。下手なこと
は言えないと ……。しかし、昔話をしに来たわけではないので、自分の経験を理論的に整理して、現
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