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観客もアニメーションとはそういうものだ、と思っているわけですから、ぼくみたいに、そんなスケジ

ュールでは出来ません、と言ったら、さっさと別の人を連れて来るだけです。局のプロデューサーでさ

えフル・アニメーションは「前世代の遺物」と思っているかもしれません。

制作会社も、そのスタッフに充分な予算とスケジュールをあげて、よく動く映画を作れば確実に元

が取れるというのなら、出来るでしょうが、その保証は誰も出来ませんからね……。これは何も「ル

パン」だけではなくて、それがマーケット・メカニズムだと思った方がいいと思います。


人気番組の視聴者は「釣られた魚」 それを目当てに続編が作られる

大塚話を元に戻して、ものすごく雑なことを言いましょうか。「トトロ」(注1 8)を宮崎さん以外の誰か

が四分の一の予算で造ったとします。宣伝費も半分以下にしましょう。でも、すごい人気だと思いま

す。キャラクターが少々違っていても、性格さえも宮崎卜トロでなくても人は見ます。問違いなく宮

崎さんが釣り上げておいた魚が行列を作るのです。今ぼくが言ったような手法でも大丈夫です。

あの作品は「樹を大切にしよう」という強いメッセージがあって、いろんな人の解釈を受け入れて

も大丈夫な骨格と普遍性を持っていますから、別の人が続けたとしても、ある程度面白いものが出来

るでしょう。あの宮崎さんの卜トロが描けるということでアニメーターはいくらでも集まります。

ぼく個人は、日本の子供達のためにも可能な限り優秀なスタッフを集めて、そうして欲しいと思い

ますがね。もちろん、宮崎さんはどう考えるかは別として言っているわけですが ……。

ま、そういうわけで、人気番組の視聴者は、言い方は意地悪に間こえますが、「釣られた魚」なの

です。パートU、Vなんてのは全部その「魚」目当てと言っていいでしょう。ぼくや大隅さんの時の

「ルパン」には「これから釣りに行こう」という気分がありました。宮崎さんは永遠に釣りをしている

と考えてみてはどうでしょうか。


― う〜……ムム ……。「トトロ」はそうですね……。でも、何だかぼくたちが魚だと言われているよ

うで寂しいような気分になりましたが……。率直に言って、もう一度あの「カリオストロ」のような

「ルパン」を見たいというのは皆の願いだとは思いますが……。


大塚ぼくは、別の分野ではしばしば「釣られる側」にいます。魚としては大きい方です。しかし、

この仕事では釣り上げる側にいるものですから、クールに見てしまうのですが、なぜか日本でもアメリ

カでも懐古趣味が幅をきかせていますね。アメリカでは三〇年代の「ルーニー・チューン」(注 1 9 )

「バットマン」(注 2 0)「スーパーマン」(注 2 1)が大人気、日本でも「ウルトラセブン」(注 2 2)

「ゴジラ」(注 2 3)、二〇年も前の「ルパン」が大手を振って生きているというのは何か社会的な

原因がありますね。ぼくらの歳の者は懐古趣味は好きですから文句は言いませんが、三〇代の若い人が

「あの頃は良かった」と言っているのは気になります。社会心理学者に聞いてみたいです。

もしかすると、聴視者が保守的になっていて、知名度も高く安定した企画でないと通りにくいと

か、制作システムが官僚化して、視聴率第一主義の無難な路線にしがみついていて、新しいものが出

てきにくい状況にあるのかもしれない。あるいはぼくにも一般視聴者にも見えてないけど、新しい素敵

な作品が出て来ているのかもしれない……。そうであるべきだし、そうならなければ日本のアニメは前

へ進めません。