専門学校は安全な砂浜プロダクション
の現場は大海
― そうすると、たとえば絵に自信もあるし、演技もうまい生徒
には不満ということはないですか?
大塚生徒にはかなりの幅があって、すぐに使えそうなうまい
人もいれば、ロクに絵が描けなくて、何となく憧れて来ている
人もいるわけで、中には「どうやったら絵が描けますか」など
という人がいたりします。それが学校なのです。学校は本当に
優しくて、決して厳しいものではありません。入って来る若者
は学校と自分の未来に夢を託して来ます。で、来て学んでみ
ると「あ、こりやぼくの、私の仕事ではないな ……」と思う人
と、卒業後現場に飛び込んでみて似たような判断をする人…
… ま、色々いると思いますが、プロダクションは違います。こ
こで飯を食わなければならない、という厳しい現実があります
から、構えが違っている。学校ではそうは行きません。厳しく
出来ないのです。
学校の基本的な課題は全体として、ごく初歩的なきれいな
線や、中割りくらいは出来るようにして制作現場に送り出すこ
とで精一杯ですから、ケタはずれにうまい人は、やや不満を残
す可能性はあります。もし天才のような人がいたら学校では扱
いにくいかもしれませんね。まだ出会っていませんが……。
でもね、ぼくに言わせるとそういう人でも学校できちんとし
た基礎から教わることを勧めます。ぼくたちのやっているアニ
メーションは集団作業ですから、集団の中で自分の位置を見
つけながら、その才能を集団によって支えられる訓練をしてお
く必要があるのです。学校はその予行演習みたいな感じがしま
す。
と言うのはね、小さい時からアニメが好きで、絵もたくさん
描いて来た。で、学校に入ってみて「自分よりうまい奴がこん
なにもいる!」とか「自分ではうまいとは思ってなかったが、
周りはもっと下手くそだ!」とか、言い換えると、同世代の間
での自分の位置を発見する機会に恵まれるのです。才能という
のは相対的なもので、他と比較しながら確かめることの方が多
いのです。
現場はそうは行きませんね。少々うまい人でもキャリアのあ
る先輩にはかなわないものですから、下手で当然と思って納得
してしまう。納得してはいけないのです。
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