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代々木アニメーション学院の講義 「絵を動かすことに向き合うには」

― ところで、先ほどのお話にもありましたが、大塚さんは現在「代々木アニメーション学院」(注2 7

教鞭をとっておられるわけですが、授業内容や生徒さんの反応などについてお伺い出来ますか?


大塚学校というものの性格を理解するまでに二〜三年かかりましたね。はじめのうちはスムーズに

動かすにはどうするかとか、画面構成のコツとかプロのアニメーターの秘伝みたいなことを大演説で喋

っていましたが、そのうちに、どうもこれは違うのではないか……と思って、改めて若い先生方の授

業内容を見せてもらいましたら、全くアニメーションを知らない人に噛んで含めるような丁寧なカリキ

ュラムが組んであって、模写、クリーンアップ、中割り(注 2 8 )、詰め方、合成、ときちんと初歩的な段

階を踏んでいるんですね。何ヶ月もかけた粘り強いカリキュラムです。

ただし、先程から言っているように日本のアニメの現場では動きはさほど重視されない。格好いい

きれいな絵が描ける人を求めていますから、教育方針もそれに対応しているわけで、その中でぼくは

「動かすことの面白さ」を語りかけるようにしています。そういう考え方もあるのだ、という感じでね。

ですから初期の講義は一年生にはすぐには理解しがたい内容だったかもしれません。そこで少し方

針を変えて、色々な例をあげて「どうやって絵を動かすことに向き合うか」といった非常にプリミテ

ィブ(素朴な、初歩的な)な話をし、次に白紙に絵を描くことの面白さと難しさ、動きを作り出し

て行くことの原点といったことなどを、あまり難しく考えないでやるにはどうしたらいいか…… など

を中心に話して、何とかして一人でもこの仕事に馴染んでもらうように心がけています。これもまだ

試行錯誤の段階ですが……。ぼくが担当するのは一年生です。


― 動かすのが本当のアニメーションだ、そうであるべきだ、と教えられて現場に入った人が極度に枚

数を制限された現場の仕事に入ると欲求不満にならないでしょうか。それに学校は確か二年制ですよ

ね ?ある程度基礎をやった二年生の方が教えやすくはありませんか?


大塚欲求不満になって欲しいですね。現状に満足しない人を育てるのは大切ではないでしょうか。

現場では若い人のエネルギーが突き上げないと状況は変わりません。劇場でも観客がアニメにもっと

要求してくれないと質は上がりません。どう変わるかは、これからの人が決めることですが、とにかく

現在のアニメでいいのだとは思って欲しくないのです。

第二の点についてはあとで話すことになると思いますが、「この二年間で、可能な限り絵をたくさん

描いて欲しい」まずこれだけは言っておきたい…… という一点で一年生を担当しています。二年にな

ってからでは遅過ぎるということもありますから…… あのくらいの年の時は、やろうと思えば一年で

スケッチブックの十冊や二十冊分くらいの絵が描けるし、必死で描きためれば自分ではっきり分かる

ほど上達するものなのです。天才でない限り、これ以外に上達の近道はないし、学生時代にはそれ出

来るからです。

当たり前の話ですが、現代という時代は溢れるほどの情報に恵まれていますから、見たり聞いたり

しているだけで、上手になるような錯覚に陥る危険注も溢れているのです。映画やビデオをいっぱい

見て豊富な「知識」があっても、それと描く能力は連動しないのです。