「スカイブルーの神話」    作.匿名希望(とくな・よしもち、初出:1986 年7 月、2003年3月一部修正)

はじめに

 もう本の名前などは忘れてしまいましたが、数年前に書店で何気なく開いてみた哲
学か何かの本に、「神話とは自己にとって都合のよいように世界を構築したものであ
る」という意味のことが書いてあり、その場でなるほどと思って、その一節だけをメ
モにとっておいたことがあります。多分神話の定義にもいろいろあるのでしょうが、
この一見非常に自己中心的な定義は、この物語を書こうと思っていた私にとっては大
変説得力のあるものでした。いろいろな民族の共通自我を支える共同幻想としての神
話というものがかようなものならば、私の自己中心的な私的幻想としてのこの物語を
、私が神話と名づけるのも無理なからぬことと考えます。おそらく共同幻想なるもの
も、もとは誰かの私的幻想だったのでしょうから。
 さて、私は初めて彼女の存在を知った時のことをまるでついさっきの出来事のよう
にありありと思い出すことができます。それほどに彼女の出現は当時の、思春期初期
の私にとっては衝撃的な出来事でした。彼女はその一瞬に、子供番組の亜流の続編の
後半の傍役のしかも仮の姿であることを遥かに超えて、私の内面世界の主人公に収ま
ってしまったのでした。それから十年以上たってしまった今も、そのことにはまった
く変わりありません。しかし時の流れは彼女と私を取り巻く様々な状況を大きく変化
させてしまいました。印刷媒体やビデオの普及によって私は彼女の姿をいつでも見ら
れるようになりましたが、その反面画面からだけで得られる感動は減少しています。
時の流れが過去の様々なものを変容させてしまい、それをたまたま高く位置づけてい
た人間を寂しがらせるならば、人間は何かを書くか造るかしてその良きものを再構築
しなければならなくなります。ことほどさように人間の自我というものはもろいものなの
ですから。
 すべての物語が、神話なのかもしれません。
                               匿名希望

                    
目次

第一話「天使」
第二話「人造人間」
第三話「ビジンダー」
第四話「非情」
第五話「時計」
第六話「絵」
第七話「恐怖」
第八話「霧」
第九話「手紙」
第十話「空」
第十一話「脱出
第十二話「爆破」
第十三話「同士討ち」
第十四話「若者
第十五話「別れ」
第十六話「暁」
第十七話「人間」

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