T イスラームの文化
1.イスラーム文明の特徴 | |
(1)融合文明 | Aイスラーム文明は、先行する西アジアのメソポタミア、エジプト、ヘレニズムの各文明と、征服者として登場したアラブ人のもたらしたイスラーム教とアラビア語が融合して成立した。 →補足 |
(2)普遍的文明 | Bイスラーム文明はイスラーム教を核として、民族文化を超えた普遍性をもつ。イスラームの拡大に伴い、各地の地域的・民族的特徴を加えてより普遍性を強めた。 →補足 |
(3)世界的広がり | Cイスラーム文明はアラビア半島から起こって西アジアに広がったものであるが、西アジアにとどまらず、周辺のヨーロッパや中国の文明にも大きな影響を与えた。 →補足 |
2.イスラーム法 | |
a ハディース
b シャリーア c ウラマー d カーディー |
ムハンマドの言行録。コーランと並んでイスラーム法の基準となる。 イスラーム法のこと。コーランとハディースに基づき、信仰内容、儀礼から、国家の行政、家族、身分、商取引などあらゆる分野で体系化されている。 コーランとハディースを解釈し、シャリーアの維持にあたる神学・法学者。またひろくイスラーム法学を修めた知識人を言う。 シャリーアに基づいて裁判を行う裁判官。ウラマーから選ばれる。 |
3.イスラーム都市 | |
a モスク その建築の特徴は b マドラサ 代表的なもの f スーク |
礼拝堂。一般信者の信仰・学問・教育の場。 A丸屋根、説教壇とミフラーブがあり、まわりにミナレット(光塔)を配す。 イスラーム神学、法学の研究、教育にあたる学院。ウラマーの養成機関。c ワクフ(寄付) によって運営さえる。 ファーティマ朝のd アズハル学院 (カイロに建設。現在も国立総合大学として存続。) セルジューク朝のe ニザーミーヤ学院 (バグダード.。その他各都市に多数建設。) 市場。都市の中心部、モスクの近くの商業地域。ペルシア語ではバザール。 イスラーム都市文明はイスラーム帝国の整備された交通路により、遠隔地に伝わった。 |
4.イスラームの学問体系 | |
a 固有の学問 f 外来の学問 i 知恵の館 その意義 例を挙げよ |
『コーラン』と『ハディース』を根拠とするアラブ人の伝統的学問。 ・アラビア語のb 言語学 と、コーランの解釈からc 神学 ・d 法学 が発達。 ・ムハンマドの伝承研究からe 歴史学 が発達。(後出) g ギリシア 、h インド などアラビア以外から入ってきた学問。 哲学・医学・天文学・幾何学・光学・地理学、など。 j バグダード に作られた研究所。 A多くのギリシア語文献がアラビア語に翻訳されイスラームの学問の中心となった。 k エウクレイデス の『幾何学原本』などもここで翻訳。 → イベリア半島のトレドの翻訳学校で、アラビア語からラテン語に翻訳され、 ヨーロッパに伝えられた。(後述) |
5.イスラーム神秘主義 | |
a スーフィズム その意味 |
10世紀ごろから、都市の庶民、農民のあいだに広がる。 A イスラームの形式的な理解を避け、内面的な「神との一体感」を求める信仰。 |
b 神秘主義教団 その意義 |
12世紀ごろから現れた、特定の修行者(聖者)をあがめる教団。 B 次第に神秘主義者がイスラーム文明の担い手となった。また彼らの活動によって、イスラームがアフリカ、インド、東南アジア、中国に広まった。 |
6.イスラームの科学 | |
・インドの影響 ・ヨーロッパへの影響 イスラーム起源の用語 e フワーリズミー f オマル=ハイヤーム i イブン=シーナー |
医学・天文学・数学の書物を学び、a 十進法 、b ゼロの概念 を取り入れ、c アラビア数字 を生み出した。 d 錬金術 ・光学などでの実験的手法は、ヨーロッパに伝えられ、近代科学に影響を与えた。 科学用語にはイスラーム起源が多い。 A アルコール、アルカリ、アルケミー、アルジェブラ などなど 9世紀アッバース朝の数学者。代数学、三角法の創始。天文学の研究など。 11〜12世紀 セルジューク朝の人。イラン系。数学・天文学の研究。 太陽暦(1079年を紀元とするg ジャラーリー暦 )の作成。 文学者としては『h ルバイヤート 』(四行詩集)の詩人としても有名。 ラテン名j アヴィケンナ 。11世紀、イラン人。ブハラの人。ブワイフ朝などに仕える。 ギリシャのヒポクラテス、ローマのガレノスと並びヨーロッパ医学の祖とされ、 その著『k 医学典範 』は16世紀まで医学校の教科書とされた。 |
7.イスラームの学問 | |
・哲学 |
「外来の学問」としてギリシアのa アリストテレス哲学 を取り入れ、従来のイスラーム神学と融合させた。 → ヨーロッパに伝えられる。 |
b ガザーリー |
11世紀 セルジューク朝、ニザーミーヤ学院の教授。イラン系スンナ派ウラマー。ギリシア哲学に学び、合理的客観的なスンナ派の神学を大成。 その後、神秘主義に変わり、各地を放浪、スーフィズムの理論化を図る。 |
c イブン=ルシュド その影響 |
ラテン名d アヴェロエス 。12世紀、e コルドバ 出身。 ムワッヒド朝に仕えa アリストテレス哲学 をアラビア語に翻訳。 ラテン語に訳されてヨーロッパに紹介され、中世のf スコラ哲学 に影響を与えた。 |
・歴史学 g タバリー |
イスラームの「固有の学問」として発達。 9世紀のイラン系神学者、歴史学者。コーランの注釈書『タフシール』、および 年代記的世界史『預言者と諸王の歴史』を著す。 |
h イブン=ハルドゥーン
その歴史観 |
14世紀 北アフリカのチュニス出身。i 『世界史序説』 を著す。 A都市と遊牧民の交渉を中心に王朝興亡の法則性を探った。 |
j ラシード=アッディーン k イブン=バットゥータ |
13世紀末 イル=ハン国のガザン=ハンに仕え、モンゴル人の歴史『集史』を著す。 14世紀 モロッコ出身の旅行家 l 『三大陸周遊記』 を著す。 → アフリカ、ヨーロッパ、アジアにまたがる大旅行を行う。元代の中国まで行く。 |
8.イスラームの芸術 | |
a 『千夜一夜物語』 c 『シャー=ナーメ』 ・モスク建築 f ミニアチュール h アラベスク ・イスラーム美術の特色 |
アッバース朝のb ハールーン=アッラシード 時代を舞台にした説話集。 インド・イラン・アラビア・ギリシアなどの説話を集大成したもの。 ガズナ朝のd フィルドゥシー がイラン人のササン朝までの歴史を、ペルシア語で書いた 長編叙事詩。『王の書』ともいう。 代表的なモスク建築はイェルサレムのe 岩のドーム (ウマイヤ朝)など。 多彩で装飾的な微細な技法を用いた絵画。イラン文化の伝統と中国絵画の影響を受けた g イル=ハン国 時代に発達。 →次のティムールやムガル帝国に継承された。 イスラームのモスクなどの装飾に用いられた装飾文様。 A 偶像崇拝をきびしく禁止していたため、創造的写実的な絵画・彫刻は発達せず 装飾的な細密画やアラベスク模様、アラビア文字の書写などが発達した。 →補足 |
9.中世ヨーロッパのキリスト教世界に対する影響 | |
a トレドの翻訳学校 e 製紙法の伝来 その伝来ルートは |
12〜13世紀 イベリア半島のb カスティーリャ王国 の都。 バグダードのc 「知恵の館」 でギリシア語からアラビア語に翻訳された文献が、 ここでd ラテン語 に翻訳されヨーロッパに知られた。 751年 f タラス河畔の戦い の時、g 唐 軍の捕虜から伝えられた。 A サマルカンド →バグダード →カイロ →イベリア半島・シチリア島 →ヨーロッパ ヨーロッパでは13世紀から羊皮紙にかわり紙が使用されるようになった。 |
U イスラーム文化の地域的展開
1. イラン=イスラーム文化 | |
・説明 |
A 10〜13世紀、アッバース朝が衰退し、イラン系・トルコ系・モンゴル系のイスラーム政権が生まれた時代に、イラン人の知識人が担い手となった文化。 |
・主な内容 | ・ブワイフ朝など:a イブン=シーナー ・ガズナ朝:b フィルドゥシー ・セルジューク朝:c ニザーム=アルムルク 、d オマル=ハイヤーム など ・イル=ハン国:e ラシード=アッディーン などがイラン系 |
2. トルコ=イスラーム文化 | |
・説明 |
B イラン=イスラーム文化が、中央アジア・トルキスタンのトルコ人に伝えられ、14〜15世紀のティムール朝の時代に栄えた文化。 |
・主な内容 | ・都f サマルカンド やヘラートのモスク建築。g ミニアチュール の発達。 h ウルグ=ベク による学問の保護、天文台の建設など。天文学、暦法の発達。 |
3. インド=イスラーム文化 | |
・説明 |
C 13世紀のデリー=スルタン朝から本格化したインドへのイスラームの浸透によりヒンドゥー文化と融合して成立した文化。16〜17世紀のムガル帝国で繁栄。 |
・主な内容 | ・i ウルドゥー語 の成立 ・j ムガル絵画 ・建築:奴隷王朝のクトゥヴ=ミナール ムガル帝国のk タージ=マハル |
※ティムール朝、ムガル帝国については、別講で説明します。