ばあちゃんも生きとるよ!
   

2016年11月

11月7日

昨日、昼から晩まで、天井が吹き抜けになっている居間で、高校時代の友人たちと飲んだ。

床暖房の暖気と人いきれで、寝る頃には、家中があたたまっていたのだろう。寝室の天井裏でネズミが運動会を始めて、眠れなくなった。枕元で走り回っているかのよう。

11月13日

運動会はあの一晩だけのことだったのか。

築50年以上経つ家に、家より古びた姉妹で住んでいる。両親、母方の祖母、娘二人の五人で暮らしていた頃、テレビ裏のケーブルが囓られたり、夜更かしをして壁の中から物音を聞いたり、母、祖母、父と亡くなったあとも、常駐する人が不在となってしばらくは、糞を見つけたりした。

こないだまで、そんなこと、すっかり忘れていた。

近所で、リフォームが始まってすぐのことだったから、一時避難してきたのかもしれない。

とタカをくくっていたら、傍若無人になってきた。

天井に向かって話す。天井板を叩く。天井にハッカ油をスプレーする。場当たり的にやり過ごせるんじゃないかと思っていたが、そうは問屋が卸さない。

ネズミ 天井裏 運動会

傍若無人 ハッカ

11月22日

12:50

福島で大きな地震があったので、友人にお見舞いメールを送った。

天井裏にネズミが出て、六匹捕まえた、と言う。家のことを話したら、「ネズミぺったんこ」を送る、と言う。

それは何かと聞き返すと、ゴキブリホイホイのネズミ版で、毒入り餌を置いた周りを粘着テープで固めて、ネズミがかかるのを待つんだそうだ。送ろうかと再度聞かれたが、絶対に自力では回収できないから要らない、と断る。

バルサン様のもので煙を焚いて追い出すのもあるらしいが、若い頃、天井裏にひょいと上がっていたのが嘘のように、いまや、忌避剤などを仕掛けるために天井裏の様子を覗くのにさえ、尻込みする。

昨日も、寝入りばなに運動会が始まり、なぜこんな時間に?と話しかけたら音が止んだが、暫くするとまた運動会が始まり、昼間にしてよ、夜中に上がってこないでよ、と呟いたら、音がやんだのか、自分が眠ってしまったのか、なんて、その友人に言うと、うちの母親がね、ネズミ退治の話は小声でしなくちゃね、って言ってる、人間の話を聞いてるんだって、と言う。

夜中に上がってこないで!と叫んでみた。

11月24日

罠かけちゃうぞー、と呟いたら、静まった。

11月26日

一晩中ラジオをつけていたから、夜中にネズミが動いていたのかどうかは分からないが、眠りは、ますます浅くなる。

退治 罠

ひそひそ話

11月28日

0:03

いつも2時ごろ音を立て始めるので、早く寝てしまおうと二階に上がって、ラジオをつけたら、まもなくガサゴソ。いつになく激しい。これじゃもう眠れない。いつどこから出てくるかしれない。

天井を布団叩きでつついたり、ぶつぶつ言ったりしたが、埒が空かない。どんどん音がひどくなる。観念して起き直り、忌避装置や忌避剤についてネットで調べていたら、鈴が鳴るような金属的な音がしたかと思うと、いつもの場所から少し押入れの方に移動して、消えた。

0:52

どこかよそに行ってしまったのか、いま起きたところなのか、2時過ぎに戻ってくるのか。

台所には、じゃが芋をむき出しのまま置いてあるが、数年前にリフォームしたばかりだから、ネズミが出てくる隙間はない。いや、ゴキブリはいたし、ネズミだって分からない。ちょっと降りてみよう。

1:42

また音を立て始めたので、ラジオをつけたが、意に介さず、ガサガサガサガサ。そのうち飛び出してくるんじゃないか。

眠れぬあいだ、ドイツの作家シーラッハの『テロ』に続いて、『是非ともつづけよう』を読んだ。ネズミを怖がっている場合じゃない。iPadを開けて、シーラッハの他の作品をネットで買い、メモ用紙にネズミ騒動を書き始めた。

ラジオではジェフ・ベックが流れている。買い物をしていたら、じき3時だ。ネズミはどこかに去ったのか、ギターの音で掻き消されているのか、分からないが、このまま眠らないでいるわけにもいかない。眠剤をのんだ。

あっ、またなんか聞こえた。

忌避装置『ペストコントロ』や忌避剤『ねずみ小僧』の口コミの中に、「ネズミの運動会」「大騒ぎ」「オリンピック」などと書いてあった。さっきまでの騒ぎは、まさにオリンピックだ。運動会以上の傍若無人さ。たった今は、ジェフ・ベックの一人舞台。

ほとんど眠れぬまま朝になった。早朝、目に入った床下通風口の欠けているところに応急処置をした。近所のホームセンターの人に、週末、見に来てもらうことにした。

ねずみ小僧 オリンピック シーラッハ

超音波 高周波

11月29日

0:46

昨日、0時すぎにオリンピックが始まって、なかなか眠れず、4時近くに寝た。

朝一番で、区役所の衛生課に行った。侵入口の探し方や塞ぎ方、対処法や業者統括センターについて書かれたパンフレットを貰ってきた。ネズミ捕りをお貸しできます、と言われたが断った。夏場と違ってこの季節なら乾燥しているから大丈夫ですよ、とも勧められたが、ぞっとしながら首を横に振る。

ネットで調べたのより安い、超音波発信忌避装置『ねずみ音波防除器』というのが新宿東急ハンズにあったので、ハッカ由来の忌避剤『ねずみ小僧』と正露丸臭のする忌避剤『ネコ・チュー逃げる 木タール』とともに買った。

レジの店員に、こういうグッズを使ったことがあるかと聞いたら、ない、古い家に住んでいたことがある、子猫を貰って飼ったら、すぐにネズミが居なくなった、ネズミ捕りには猫が一番ではないか、雑種の猫が、という返事。

夜、寝室のクローゼットに延長コードをひきこんで、いつもやかましくなる天井の真下に、高周波発生装置を置いた。忌避剤は、昼間明るいうちに天井裏を開けて、置くことにする。

18:16

近頃、野良猫を見かけない。野良猫狩りでもやったのか。

ネズミ捕り 高周波発生装置 正露丸臭 東急ハンズ

猫と鼠

11月30日

朝、寝室の押入れから布団を出して、天板を恐る恐る押し上げて、『ねずみ小僧』を、上がり口近くと板の上に一つずつ置いた。

大屋根の南北に通風口が大きく開いているので、南風や北風の加減で天板がずれる。屋根裏の点検口でもあるから釘付けするわけにもいかず、天板をガムテープで何箇所か止めておいた。今回は、忌避剤を置いたあと、透き間なく幾重にも目貼りした。

01:09

食事や風呂を終え、あれから初めて二階に上がった。高周波の音は聞こえるような気もするが、ネズミの音らしきものはない。さて、何時まで、何日まで、いつまで、効き目があるのか。

と思っていたら、一時半、ガサガサと始まってしまった。

ラジオをつけて、本を読もうとしたら、心臓がドキドキしてきた。

01:57

ガリガリと音がした。

諦めて、眠剤をのんだ。

NHKラジオの2時からの番組は、5時までやるのだそうだ。演歌を紹介するのが似合いそうなアナウンサーが、昨日のジェフ・ベックに続いて、ジョージ・ハリスンを語っている。そういうのが似つかわしくないように思われるのは、声の質なのか、話し方なのか、それらから想像される容姿のせいなのか。

風が強い。ネズミが大挙して飛んで来たみたい。

寝る前、台所にいたら、カサっと音がした。口の開いたゴミ袋が気になり、ギュッと閉めた。カササと音がする。ビニール袋そのものが、ねじれから戻る際に音を立てているだけなのか、その中に何か生き物が入っているのか、分からない。袋を二重にして、口をきっちり閉じ、しばらく凝視し、灯りを消した。冷蔵庫の辺りで音がした。灯りはつけずに、聞き耳を立てたが、もう音は聞こえなかった。

寝室のテレビを消して、天井裏に向き合う前から、びびってる。びびったまま、聞こえない音を聞く。ガサガサ。風の音。ジョージ・ハリスン。

3時過ぎに灯りを消す。ラジオはつけとく。

がりがり 聞こえない音

何の音