10月16日
母の命日。父と妹は墓参り。一人娘がもうこの世にいないことどころか、かつていたことすら忘れているばあちゃんのそばに身内がいないのもさびしいので、とまた感傷的に行動する。
今日は風呂の日。風呂上がりのばあちゃんは、ほんのり、ぼんやり。お土産の金太郎飴に、うまかねぇ。
カメラ向けて、笑って、と言うと、いぶかしげに答える。笑うかねぇ。
廊下を通る人々が気になる。誰だろ、わからんね。窓の外、鳥が飛び去るのも気になる。こっちから行ったつよ、そっちから行ったったいね。大体こっちから行ったと思うばってん。誰が、あるいは、なにが、どこからどこへ行ったという話をしているのか分からないが、手や首を振りながら、こっちから、そっちから、と繰り返し、ふと一点に目を定める。
これは何かい? 千代紙を張った紙箱から金太郎飴を取り出して、これば、ねぶってよかつか。
園長が顔を出したとたんに、いい笑顔。外面のよさは、あいかわらずだ。しかも、相手が「いい男」だと・・・。
母の北欧旅行の土産だった木製のブレスレットに興味を示す。これはなんね。ばあちゃんの腕にはめると、ほぉ、と言ってから、はずしてこちらに押しやる。またしばらくして、それは何かい? と聞くので、渡すと、自分で自分の左腕にはめて、肘近くまで引き上げ、おさまるところにおさまったのか、たちまち興味を失った。
わたしの名前、覚えてる? あんたが名や。覚えてない? 覚えてないね。
ベッドの上に置いてある袋を指さして、これはなんね。爪きりを見せると、うまかつかい。耳かきを見せると、自分で耳にあてがう。はたと左腕に気づいて、これあんたにしてやろかぁ、というので、ブレスレットをはめてもらった。
そろそろ、ご飯の時間だよ。ご飯? 誰がぁ、あんたがぁ? 私がぁ? うれしそうに笑った。
10月25・26日
11月7日
父と妹がばあちゃんに会いに行った。
ばあちゃんは、ほとんどずっと遠い世界にいたらしい。一瞬、父の顔を見て、なにか閃いたようだが、即座に無関心。何を話しかけても知らん顔。時折、口を開いても、全くキャッチボールにならない。
入れ歯をしていたそうだ。頭を支えきれないのか、眠っているわけでもないのに、つんのめるようにして車椅子。食べ物への関心だけは、いつもと変わりなし。