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GENESIS APOCRYPHON




【概要】


 ガイナックスのアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で言及されていた「死海文書」とは何か?

 「死海文書」は、死海のほとりクムランの洞窟で発見された文書で、1947年にその存在が世界に知られた。「クムラン教団」と呼ばれる、イエスと同時代に存在したユダヤ教の教団が残した文書がこの「死海文書」である。

 「死海文書」は、ユダヤ教の一派が残した文書でありながら、現在の旧約聖書には収められていない文書を、多数、含んでいた。
 この文書群は、ユダヤ人国家(現在のイスラエル)樹立をめぐってパレスチナが騒然としている時代に、パレスチナ・ヨルダンの境界地域で発見され、その存在が明らかになったものである。そののちのこの文書の研究はキリスト教徒を中心とする研究チームによって行われたが、研究成果の公表はもとより、テキスト本文の公表も大幅に遅れた。

 そのような事情からこの文書にはさまざまな「疑惑」が持たれてきた。なかでも、この「死海文書」のなかに、いずれかの段階で失われた――または意図的に隠匿された文書があるのではないかという「死海文書隠匿説」は、国際研究チームの「秘密主義」的な文書公開に対する態度ともあいまって、今日まで根強く残っているようだ。『新世紀エヴァンゲリオン』での「死海文書」の扱いも、この「隠匿説」をネタにしているようである(ただし文書自体の公開は近年になって果たされた)。

 聖書的な経典でありながら、聖書外の文書とされるものを、広義の「外典」と呼ぶ。「外典」を多く含む「死海文書」について考えるには、まずそれを「外典」としているキリスト教自体からアプローチしてみるという方法があろうかと思う。

 この文章は、キリスト教についても「死海文書」についてもよく知らない『エヴァンゲリオン』のファンが、『エヴァンゲリオン』攻略の「奇手」としてキリスト教や死海文書をめぐる状況について考えた「中間報告」である。



初出:『珊瑚舎通信』96年春「さよなら晴海」号
 ・今回、HTML文書化するにあたり、改訂を施しました。
 ・ただし、『新世紀エヴァンゲリオン』については、24話放映時点での感想に手を加えていません。



著者:清瀬 六朗



【目次】

 1章  ・「エヴァンゲリオン」(「エウアンゲリオン」)とは「福音」または「福音書」のことである。

 2章  ・「創世記」と「福音書」の『聖書』のなかでの位置づけについて。

 3章  ・『聖書』を読めば「原罪」を信じる「旧約」世界の人びとはなかなか救われない存在であったという印象を受ける。しかし「新たな契約」の可能性もつねに信じられていた。イエスによる「人類補完」はそうした「新たな契約」のかたちをとって現れた。

 4章  ・「死海文書」の概要。

 5章  ・「死海文書」をめぐる予備知識。

 6章  ・「死海文書」をめぐっては数々の疑惑が持たれてきた。なぜ「死海文書」はそうした「想像力」をかき立てる存在でありつづけたのか?

 7章  ・「死海文書」を残した「クムラン教団」とはどのようなものだったと考えられているか?

 8章  ・「死海文書」や「クムラン教団」をめぐる「トンデモ」的な説をめぐって。

 9章  ・『聖書』世界の他宗教の神について(バアル・イシュタル・ベル・マルドゥクなど)。また、いわゆる東方三博士(バルタザル・メルキオル・ガスパル=キャスパー)について。

 10章  ・「ヨハネの黙示録」と成立後のキリスト教界。成立直後のキリスト教徒は、いますぐにでも世界は終末を迎えると信じていた。それがなかなかやってこないという問題は「終末遅延」の問題と呼ばれ、キリスト教の転換に大きな役割を果たした。「666」や「ハルマゲドン」は「ヨハネの黙示録」ではどう表現されているかについても紹介。

 11章  ・『聖書』の文体について。とくに(広義の)口語訳と文語訳のちがい。

 12章  ・『新世紀エヴァンゲリオン』について。『エヴァンゲリオン』をめぐるさまざまな批評と、その批評に対する筆者の意見。






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