そんなシンジの様子を見て訝しげな表情を浮かべるアスカ。しかし、そんな自分を省みてハッとなる。バカ、何考えてるのよ、アスカ。あんな奴のことなんてどうだっていいじゃない。
 アスカは半ば機械的に弐号機を2人の盾となる位置に移動させ、エントリープラグを排出し、ハッチを開いた。
 ほどなくして、うなだれたままのシンジを引きずったミサトが顔を見せる。
 L.C.L.の揺らめきの向こう側にアスカが見える。こちらを見上げるアスカの、その複雑な表情。
「さあ、乗りなさい、シンジ君」
 相変わらず表情を見せぬシンジ。少し戸惑ったような顔のアスカ。
 
助けてよ、誰か僕を助けてよ。
 ドン!ドン!ドンッ!

 重い爆音が上がる。
 近いッ!
 態勢を立て直した戦自隊員たちが剥き出しになったエントリープラグ目掛けて攻撃を開始したのだ。
「ミサトッ!」
 アスカが思わず余裕のない声を上げる。
「ちぃっ」
 ミサトはシンジをかばうように動き、L.C.L.の中にシンジを叩き落とす。
「!」
 アスカの視界が一瞬真紅に染まったように見えたが、やがてすぐにシンジが間近に落ちてきて、アスカの目の前はシンジでいっぱいになった。

「早くハッチを閉めて、さっさと行きなさい!」
 絞り出すようなミサトの声が遠くに聞こえる。

 ポチャン。
 銃撃の喧騒の中でその小さな水音だけがやけに大きくアスカの耳に届いた。


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