脊髄反射のように間髪入れずアスカは大声で決めつけた。そうせずにはいられなかった。思考は既に混乱の極みにあり、僅かばかりではあるが視界が水飴のようにぐんにゃりと歪み始める。なぜミサトはそんな馬鹿げたことをするのか?なぜ私はこんなにも動揺しているのか?バカシンジなんてどうでもいいはずなのに。私には加持さんさえいればいいのに。加持さんさえいればいいのに。加持さんさえ。→嘘。加持さんはもういない。『加持さんはもういないんだよッ』 うるさい!バカシンジの癖に知った風な口きかないでよ。だいたい、なんでバカシンジなんかが出てくるのよ。
ダンッ!
銃声が轟いた。思考の迷宮にとらわれていたアスカを一気に現実に引き戻すそれは銃声だった。
「ミサトォッ!」
アスカが衝動に駆られて叫ぶ。思わず身を乗り出した。上の歯と下の歯がカチカチとぶつかって、音を立てている。
「次は外さないわ。わかった、アスカ?」
氷柱のごとく冷徹なミサトの声。無慈悲な脅迫者のルーチンをミサトは使っていた。だが、頭に血が上っているアスカでなければ気付いただろう。その声はわずかに揺れていた。
「……狂ってる。狂ってるわ、ミサト」
「もう一度言うわ。シンジ君とともに初号機の元に急ぎなさい。そして、弐号機が初号機よりも優れてるってことを証明して頂戴」
「………」
いったいどれくらいの時が流れただろう。
果たして、永遠の一瞬の後に世界が再び動き始めた、ゆっくりと。
アスカは目を閉じ、どんよりと曇った天井を見上げ、ゆっくりと肺の中の空気を吐き出した。