「そう、わかったわ」
 奇妙なトーンのミサトの声に続き、連続した小さな音がやけに大きくエントリープラグ内に響いた。金属音。何かを装填する音。
「ミサトッ!」
 アスカの表情が強張る。強気な瞳に忍び寄る覆いようもない不安の影。まさか、この音は。
「………」
 ミサトは何も喋らない。嫌な沈黙。こんな沈黙は耐えられない。そういえば、バカシンジはどうしているのだろう。ミサトの側にはいないのか。まだ一度も声を聞いてはいない。
「ちょっとミサト、どうしたっていうのよ!」
 沈黙を破って口をついた言葉は知らず語尾が震えていた。言いようのない焦燥感が淡い炎と化してアスカの全身を包んでいる。
「………」
「ミサトッ!」
 黙して語らぬミサトに言葉を叩きつけるアスカ。言葉が熱を持つのなら、火傷をするような苛烈さで、アスカは叫んだ。
「………アスカ、言ったはずよ。これは命令だって」
 かすかな吐息の後に必死に感情を押し殺した声が続く。一語一語搾り出すように。ミサトの声もかすかに震えを帯びていた。
「シンジ君を連れて初号機の元に行きなさい。そして、二人で生き延びるのよ。これが私からの最後の命令よ。生き延びるためにはこうするしかないの。命令に従わない場合は、ここでシンジ君の心臓を………」
 いや、イヤ、嫌。聞きたくない。わずかに開いた唇がぶるぶると小さく震えている。耳を塞ぎたかったが、両手はまるで操縦桿に貼りついたかのように微動だにしなかった。思いがけぬ衝撃に身体が麻痺している。心臓の音がうるさい。
「……撃ち抜くわよ」
 静かに、しかし、断固としてミサトは恐るべき言葉を告げた。
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