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近藤君の思い出

文/ 柳沢 きみお 氏


  「近藤喜文さん追悼文集 近藤さんのいた風景」 の再版(2000年6月30日発行)に際して、当研究所は近藤さんが高校時代に所属していた美術部の先輩であり、現在人気漫画家の柳沢きみおさんに原稿を依頼しました。しかし、残念ながら柳沢さんの原稿が届いたのは再版誌の完成直後で、誌面に掲載することは出来ませんでした。御本人の了承を得て、ここで公開させて頂きます。

やなぎさわ・きみお
1948年9月26日、新潟県五泉市生まれ。1970年漫画家としてデビュー。1979年「翔んだカップル」で講談社漫画賞受賞。代表作「女だらけ」「すくらんぶるエッグ」「月とスッポン」「瑠璃色ゼネレーション」など多数。


近藤君の思い出


 近藤君の思い出となりますと、最初にそちら(※注―当研究所)からの便りが届いた時に、そんな部員がいたっけ、と正直戸惑ってしまい、何も思い出せないのでは、と焦りました。
 私が高校三年の時に確かに美術部の部長をやっていましたが、部長といっても、同級の男は三人しかいなく、おまけに部室ではろくに絵も描かずに、パンなどを食べては野球やったり、の遊んでばっかりで、 無意味な青春を謳歌しつつ、何も芸術的な事はしていなかった思い出ばかりです。
 確か近藤君は私が三年の時に、新入生として入部されたと思うのですが、三年生は夏休み前に引退していたので、一年生との交流は、残念ながらあまり思い出にないのです。
 ただあの頃を思い出し初めてみたら、痩せてヒョロリとした、口数が少なく、いつもにこやかにしていた近藤君の姿が鮮明に思い出され、ああ、あの彼が、と胸が熱くなりました。
 あの彼がそんな有名なアニメーターになっていたのか、しかも同時期にあんな田舎の高校の小さな美術部に将来、アニメやマンガで食べていくことにる二人が偶然にも居合わせていたのかと、なんだか物語のような不思議な感動と、私より若い彼が、もうこの世にサヨナラしてたのかと人生のはかなさと切なさを感じてしまいました。
 いつも一人で机にしがみついている孤独の作業の私と比べて(スタッフはいますが)仲間に囲まれて仕事をしていた近藤君の写真の数々を見ていたらうらやましくも感じました。
 御冥福を祈ります。

2000年6月14日水曜
柳沢 きみお


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