夢から、さめない‐SCENARIO#7


(注)このシナリオは、著作権者である MADARA PROJECT の許可を得て
   ここに掲載するものです。このページの記載内容の全部及び一部の
   複製を禁じます。


第7話

     陸・・・・・・前田このみ
     詩学・・・・・前田このみ


(Reading:前田このみ as 詩学)

四時限目の予鈴が鳴った。
僕達はしゃべるのをやめ、 席を立ち、 廊下へと散っていく。
僕達の通う高校は単位制をとっているので、 僕達は教室で先生の来るのをじっと待っているわけにもいかず、 自らの選択した時間割に合わせて教室を移動していく。
次の授業に選択した教室が今いる場所の近くなら問題はないけど、 運が悪く旧校舎から新校舎へ、 しかも1階から4階へ移動しなければならない場合もあった。
僕達はみんな、 教科書やノートを抱えて、 校舎内を駆けめぐるのが毎日の日課となっていた。
次の授業は音楽だったので、 僕は本鈴が鳴り始めてからも比較的ゆったりした足取りで階段を上がっていった。
チャイムとともに、 鳴り響く足音の数も消えていく。
だけど、僕の頭上からかなり強い足音が聞こえ始めた。
そうとう慌てているんだろうな。 と、僕は思った。
階段を二段飛びに降りているのだ。
エアークッションのきいたバッシュでも履いていないと、 足首を痛めることになりそうなほど、 大きくジャンプしている。
2階に上がりきり、 踊り場に飛び出た時、 階段を半階分飛び降りて来る恵庭陸の姿が僕の目に飛び込んできた。
僕はびっくりした。
彼女は、 かなり短いスカートをはいていた。
危ない。 と、僕は言いかけたけど、 もう遅く、 恵庭陸の身体はふわりと宙に浮き、 一瞬後には僕の身体の上へ覆いかぶさるように落ちてきた。
何が起きたのか、 その時にはよく分からなかった。
気がつくと、 僕と彼女は重なるように横たわり、 僕達のまわりには教科書やノートが散らばり、 そして僕達は彼女の持っていた真っ白い小麦粉を頭からかぶって、 雪だるまみたいになっていた。
「(陸)もう、あかんわ」と、 しばらくたって恵庭陸は、 あの微妙なイントネーションで小さく叫んだ。
「(陸)もうこれでクッキー作られへん」
「(詩学)クッキー?」と、 僕は聞き返した。
「(陸)調理実習で作るの、楽しみにしとったのに」
「(詩学)慌てるからだろ」
「(陸)仕方ないやんか、前の時間体育やったんやから」
「(詩学)重いよ、ダイエットしろ」と、 僕は言った。
彼女の胸が、 僕の腹の上にあった。
「(陸)太ってへんもん」と、 彼女は頬をふくらませ、 僕を見上げた。
それから、 起き上がろうと上体を上げたが、 ひじを押さえてうずくまった。
小麦粉を全身にかぶり、 白い顔で保健室に現れた僕ら二人を見て、 保健室のお姉さんはかなり驚いていた。
彼女は結局、 病院に行って腕のレントゲンを撮ってもらった。
小さいヒビが入りかけていたが、 ギブスをするほどではなかった。

数日後、 僕は恵庭陸に呼び出された。
「(陸)これ、あげる」と、 彼女は僕に薄いブルーの包み紙を手渡し、 小声で、 「(陸)ごめんね、ダイエットするから」 と呟いて、 階段を踊り場を駆け降りて行った。
チョコレートやバニラの甘い香りのクッキーの底に、 一枚のカードが入っていた。
カードには右上がりの字で小さく、 「見えた?」と書いてあった。
「(詩学)見えてへん」と、 僕は言って、 クッキーを口に放り込んだ。


Copyright (c) 1996 MADARA PROJECT. All rights reserved.


第6話「夢から、さめない‐ストーリー」のページ第8話


kz-naoki@yk.rim.or.jp