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陸・・・・・・・前田このみ
詩学・・・・・・前田千亜紀
(Reading:前田千亜紀 as 詩学)
眩い8月の太陽が風景に強い陰影をつけていた。
ハイウェイにたつと、遠くに海が見えた。
それは湾になっており、
貝殻のように岸がそれを囲み、
その向こう岸には四角い家やら煙突のたった工場やらが建ち並び、
そしてそれを優しく見下ろす蒼い山並みが続いていた。
僕達は旅を続けた。
ヒッチハイクは思いの外好調に進んだ。
宅配便を運ぶトラックに載せて貰ったり、
小旅行をするカップルのワゴンに載せて貰ったりした。
そんな風に一日が過ぎていった。
僕達は青森についた。
山の傾斜地にあるその場所は温泉が出るらしく、
硫黄泉の湯の香りが立ち昇っていた。
僕には楽しい記憶なんかないんだよ、陸。
僕は思いつく限りの友人連中に電話して資金調達に励んだ。
そのかいあって青函連絡船の切符が買えた。
僕らは船の出航時間を待つ間、二人でベンチに並んで海を見ていた。
旅の疲れで僕らは寄り添って眠っていた。
僕たちは篭から逃げ出した猫を探して歩き回った。
そして古い動物園に行き当たった。
ある時、親指を差し出しているとタクシーが停まった。
「すみません違うんです。僕達ヒッチハイクしているんです」
「どこまで?」運転主はしわだらけの笑顔で尋ねた。
「函館まで」
「何しに?」
「猫を届けに行くんです」と言って篭を見せると彼は乗りなよ、
途中までいってあげるから、と言った。
料金はいいから。あたしは猫が好きでね。
「猫をあげる千絵ちゃんの友達の名前はなんて言うの?」
僕は偶然見つけた共同湯につかりながら目隠しの岩越しに陸に話しかけた。
「わか女ちゃん」陸が言った。
「お母さんが再婚してね、引っ越したんだって
・・・・ちょっと、こっちみちゃだめよ。
・・・あ、そういえばわか女ちゃんてちょっと小沢君に似てるかも。
髪がさらさらで黒目がちのつぶらな瞳で・・・・」
「・・・・・・」
「小沢くん?どうかした?」
「・・・陸、肩に去年の水着のあとが残ってる。」
「やだっ、みちゃだめっていったじゃない!」
「嘘だよ」
僕は湯に浮かんだ鮮やかな緑の葉をすくって散らした。
葉は滑るように水の底をくるくると舞った。
葉蔭から陸の足の先がみえた。
つるつるした裸足の爪先。
それは僕の目の前できゅっと伸びてそれからゆっくりと水の底に沈んだ。
「船に乗ったら明日は函館につくよ。
陸は函館にいったことはある?」
「ないよ。
だから楽しみなの。
猫を届けたら時計台を見て、とうもろこし食べようね」
「時計台は札幌にあるんだよ。
それに思ったより綺麗じゃないし」
「小沢君、函館にいったことあるの?」
「1年くらい、いた事がある」
「へえ?
小沢君って、ずっと東京にいたのかと思ってた」
「まだ小さい頃さ。
5歳くらいかな。
でも住んでたわけじゃくって、長期の旅行者として滞在していた」
「ふうん?
あとは何処に行ったの?」
「色々。
ハワイとか」
「そう。
楽しい思い出がいっぱいあるっていいよね」
陸は岩だなの隙間から左手を差し出して、僕の手に指をからめた。
「ちょっとのぼせちゃった・・・
でも気持ちいい・・・ みて小沢君、星がすごく綺麗・・・・」
僕は陸の吐息を聴きながら満天の星を数えた。
僕の母親はね、
それから僕を捨てて遠い場所にいって、
10年以上も帰ることもなくついこないだね、
死んだんだ・・・・
そして子猫ちゃんが行方不明になった。
「猫の声がする・・・」と陸は言った。
「猫じゃないかもしれないよ」
「ううん、あれは子猫ちゃんの声よ。
陸はあの子のママなんだもの、あの子の声が分かるの。
子猫ちゃんはこの動物園に迷いこんであたし達の助けを求めているのよ」
やれやれ、と僕はため息をついた。
つまり僕達は動物園襲撃をするはめに陥ったのだった。
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|「子猫ちゃんを連れて旅に出よう‐ストーリー」のページ|
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