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第15話 お喋り猫の予言 詩人は枕の結び目を解く 遠い記憶
(Title Call:桑島法子)
喜佐・・・・・・前田このみ
珊瑚・・・・・・桑島法子
ナツヲ・・・・・桑島法子
森・・・・・・・桑島法子
ナオミ・・・・・豊嶋真千子
勇魚・・・・・・桑島法子
(Reading:前田このみ as 喜佐)
遠い月が青い窓の格子の隙間に浮かんでいる。
私は真夜中に目をさました。
「(珊瑚)詩人がきたよ」どこからかお喋り猫の声がした。
(Reading:桂川千絵 as あしか)
「(あしか)草薙森さんの投函されなかったパパへの手紙はまだ続くの?」
と訊ねると、朔さんはゆっくりとうなづく。
「(あしか)続きをよんで」と私はその腕に額を寄せた。
(Reading:桑島法子 as 森)
死に直面して天に目を向ける、そこには誰もいない。
私は手探りで闇の階段を降り、玄関のドアを開けた。
予言通り、詩人がそこに立っていた。「(ナツヲ)きぃちゃん、
わか女をしらない?いないんだ、どこにも。」
「(喜佐)こんな夜中にわか女さんを探してるなんて、
一体どんな用事があるのかしら。不潔ね。知らないわ」
沈黙。詩人の灰色の瞳が蒼く沈んだ。
これをみて、と詩人は透明なガラス瓶を差し出した。
ガラス瓶の中には薄荷色の蝶が銀の粉を散らして羽を震わせていた。
「(ナツヲ)それからこれはわか女の枕。」詩人は枕の結び目を解く。
中から小さく砕かれた骨が音を立てて床に落ちた。
「(ナツヲ)君はわか女の仕事を知っている?」
私は首を振った。詩人は少しの間のあと、私に告げた。
「(ナツヲ)彼女はお金を貰って他者と寝ることを職業にしている」
私は足元の骨を爪先で潰した。いやな感触が残った。
「(ナツヲ)でも、それは性的なことを意味してるんじゃないんだ、
わか女は他者と眠り、その夢を購っているんだ・・・・・」
「(喜佐)何をいっているのかわからないわ ‥‥この骨は人間の骨なの?」
詩人は答える代わりにガラス瓶の蓋を開けた。
薄荷色の蝶が飛び立った。私はドアを閉めた。
「(ナツヲ)きぃちゃん、わか女は君のお父さんの書いた小説を全部読んだよ、
(囁く様に小さく)そして君達の家族に憧れていた。」
「(喜佐)わか女さんの母親は私たちの父を捨てたわ。
わか女さんは本当なら父に与えられるはずの愛情を全て手にした。
私たちに憧れるなんて欺瞞よ」
「(ナツヲ)‥‥でもきぃちゃん、
君は君のお母さんの願いを受け入れて、東京にきたんでしょう?
君のお母さんの願いはわか女と君のお父さんを和解させることだった、
そうなんでしょう、きぃちゃん‥…」
「(喜佐)何故そんなことまで貴方は知っているの!」
私は扉を開けて詩人の胸を思いきり打った。
「(喜佐)貴方やわか女さんは、なんなの?
この屋敷は全然リアルじゃない。
何故猫が喋らなければいけないの?
そうよ、父はわか女さんを嫌っていた、
優しく微笑んでいても父の心の深い場所で、
父はわか女さんの母親を許してはいなかった。
でも自分の母親を許せない父は罪悪感に苦しんでいた。
妹を愛したくて、愛せずに死んでしまった。
母はそんな父をずっと支えてきたのよ!
私がその遺志を継いで、どうしていけないの?
あなたは何故、私の心に踏み込んでくるの?」
「(ナツヲ)君が好きだから。
小沢詩学の物語の中で君は光に包まれていた。
僕とわか女は君と、小沢詩学の物語に憧れ続けているんだよ」
詩人は私の両手首を包むと静かにキスをする。
薄荷色の蝶の羽が大きく開いた。
「(喜佐)父は死んだわ。物語はもう終わり。‥‥帰って」
繰り返される沈黙。詩人の足音が遠ざかる。
そして私はもう一つの静寂に気付く。
「(喜佐)あしか? ‥‥ジョイ?どこなの?」
青い鳥籠は空だ。あしかもジョイも姿を消して、いなかった。
詩学、新月の水曜日に僕は勇魚に死を与える。
生は平等ではない。だが死は誰の上にも平等に訪れる。
(勇魚)解放して、
という勇魚の願いに死を授けることが勇魚に対する愛だと信じた。
勇魚の呼吸が早くなり、静かに停止する。
綺麗な僕だけの勇魚。君はもう自由だ。
「(ナオミ)自由なんかじゃない」
ナオミが立っていた。
「(ナオミ)草薙先生、勇魚を愛してるといったのは嘘だったのね。」
「(森)嘘じゃない、でも勇魚をこれ以上傷つけたくなかった」
「(ナオミ)ちがうわ、草薙先生は逃げたのよ、勇魚から」
ナオミは裸足のまま勇魚に歩み寄り、心臓の音に耳を澄ませた。
「(ナオミ)勇魚は傷ついていた。
助けを求めていたのに、勇魚は草薙先生に癒されることを望んでいたのに」
「(森)だから僕は‥‥」
「(ナオミ)死は癒しなんかじゃない!
‥…草薙先生、勇魚の声が聞こえなかったの?
たすけて、と叫ぶ声が何故聞こえないの?
耳を澄ませば勇魚の声が聞こえるはずなのに。
何故 愛の代わりに傷を与えるの?
勇魚が本当に死を望んでいたのではないことに
何故気付いてあげられなかったの?」
「(森)勇魚が本当に望んでいたこと?」
「(ナオミ)勇魚の願いは、勇魚が勇魚のままで愛されること‥‥
その祈りはナオミの祈りと共鳴した。
草薙先生、ナオミはパパに愛してほしかった。
勇魚はただ草薙先生に愛されたかった‥…
勇魚は死なんて望んでいない・・・・・」
ナオミの瞳は赤く燃えて、涙が泉のようにあふれてゆく。
僕は勇魚の胸に触れる。
鼓動は響かない。
彼女の声は二度と僕に届かない。
「(森)勇魚、君は死を望んではいなかったのか?
だとしたら僕のしたことは‥…」
僕は激しい恐怖に襲われた。僕は勇魚を喪失してしまったのだ。
永遠に。自らの手で。
「(ナオミ)あっ‥‥」ナオミが胸をおさえて床に倒れ落ちた。
僕は急いでナオミにニトロを注射する。
ナオミは睫毛を伏せたまま、勇魚の声で
「(二人で)壊さないっていったのに、嘘つきね、森くん‥‥」
と歌うように優しく言った。
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〈第14話
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