東京星に、行こう‐SCENARIO#14


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第14話 あとひとつきで消滅するナオミの命 最後の言葉
     小沢詩学への手紙
     (Title Call:桑島法子)

     あしか・・・・・桂川千絵
     朔・・・・・・・前田このみ
     わか女・・・・・前田千亜紀
     ナオミ・・・・・豊嶋真千子
     勇魚・・・・・・桑島法子
     珊瑚・・・・・・桑島法子
     森・・・・・・・桑島法子


(Reading:桂川千絵 as あしか)

楡の木の種子が、月に照らされて揺れ、
そして私のまわりにぱらぱらと落ちた。ジョイが低く唸った。
「(あしか)誰?」
「(朔)僕だよ」
「(あしか)朔さん?」
「(朔)そう、僕だよ、あしかちゃん」
葉むらをかきわけると、 高い鉄柵の向こう側に、 白いTシャツにジーンズ姿の、彼がたっていた。
おみやげ、と彼はいって、青いりぼんを私の髪に結んでくれた。
「(あしか)ね、朔さんが探してる、薄荷色のワンピースをきた女の子は…」
「(朔)ナオミ」
「(あしか)そう、ナオミちゃんは、本当に今夜私の庭にくるのかしら」
「(朔)わからない‥‥ でも、もしあの骨が、勇魚の骨だとしたら、
ナオミはきっとくる。勇魚はナオミにとって、
母親のように無条件にナオミに愛をくれた、たったひとりの人だから」
「(あしか)勇魚って、誰なの?」
「(朔)ナオミの主治医、草薙森先生の、最後の恋人
・・・・入っても、いい?」私が頷くと、 彼はひらりと鉄柵を越えて庭に舞い降りた。枝葉が足音を吸い込んだ。
ジョイは上半身を地面すれすれに近づけ、唸り続けていた。
「(あしか)ジョイ、いいのよ、朔はあたしのお友達だから」
彼は少し微笑むと蜂蜜色のジョイの頭を撫でた。
私たちは骨を埋めた場所まで歩いた。
「(あしか)赤ちゃん猫の珊瑚ちゃんを見つけたとき、 ナオミちゃんは死にかけている珊瑚ちゃんを蹴ったの。
壊れかけのものは壊したほうがいいって、ナオミちゃんは言った。
あれはどういう意味なの?朔さん、ナオミちゃんはどんな子なの?」
「(朔)わがままで、残酷な女の子。そして、壊れかけている…
ナオミの心臓に埋め込まれたペースメーカーはあと一月で
その機能を停止してしまう‥‥
その小さな機械を取り替える手術を受けないと、ナオミはあと
一月で死ぬんだ。でも、ナオミは病室から、僕の前から消えてしまった。
((ナオミ)壊れかけだもの、どうせ死ぬもの)」
「(あしか)ナオミちゃんは、死ぬつもりなの?」
私の言葉に朔さんは足を止めた。
「(朔)そんなことはさせない」
((ナオミ)朔、あたしに触れて。あたしを強く求めて)


(Reading:前田千亜紀 as わか女)

夢の底で、私は飛行機から飛び降りた。空に落ちて行く。
雲の上に髪が指先まである綺麗な女の子が、薄荷色の服を着て立っていた。 「(わか女)ナオミ、翼をどこにおいてきたの?あなたは天使だったのね」
と私はナオミの清らかな美しさに打たれて言った。
「(ナオミ)あたしは天使なんかじゃない ‥‥傷跡がいっぱい」
「(わか女)あなたがつけた傷じゃないわ。ナオミ、私は夢をみたの。
夢の中のあなたはまだ幼くて、意識を失った勇魚を護る森の言葉に
真実を感じて愛を求めていた。
なのに何故今のあなたは死、そればかりを探しているの?」
「(ナオミ)草薙先生が勇魚を殺したから ・・・・勇魚は生きていたのに。
喋ることができなくても、動けなくても、勇魚は生きていた…
あたしの側にいてくれた・・・
ナオミがナオミでいるだけで愛してくれた。
パパも朔も、あたしの前から消えてしまったけど、 勇魚だけはあたしの側にいてくれた。 なのに、草薙先生が勇魚の切開された気管に入れられた呼吸器を抜いて、 勇魚の命を絶ってしまった。
その時からね、ナオミの内側は壊れてしまったの。」
((勇魚)壊さないっていったのに、嘘つきね、森君)


(Reading:桂川千絵 as あしか)

私と朔さんは流星が星空を突っ切って きらめくネオンサインのビルの群れに落ちて行くのを眺めた。 そしてもう一度、かすかな期待をこめて骨を埋めたはずの地面をみた。
「(珊瑚)骨はもらっていく、珊瑚登場」 というクレヨンで書かれた紙きれが土埃に汚れて置かれていた。 「(あしか)珊瑚ちゃんたら、いつ字が書けるようになったのかしら」 と私は呆れて言った。
ジョイが前足で土を掘り返していた。
「(朔)なにかが埋っている…」と朔さんが言った。
「(あしか)なぁに?」
「(朔)ノートだ… 動物園襲撃計画‥‥S.クサナギ‥‥ 小沢詩学へ」
「(あしか)小沢詩学?パパのことが書いてあるの?」…
「(朔)わからない、小沢詩学へ、君がこのノートを読むことは多分ないだろう、
(朔/森)新月の水曜日の動物園襲撃から永い永い年月が経ってしまった。
(森)僕は勇魚を失い、探し続け、 そして、ようやく再び勇魚を手にいれることができた。 けれど勇魚は損なわれ、 僕は愛を、勇魚に対して永い間抱き続けてきた気持ちの行く先を喪失しつつある…
詩学、君はまだ陸をその手に抱いているのか?
僕の腕の中に勇魚がいる。
抱きしめても、彼女は微笑んではくれない。
僕と、17才で自ら死を選んだ僕の兄、水が愛した勇魚の綺麗な声も、
今はもう、聞くことはできない。
指先と瞼の開閉だけが勇魚に残された最後の動作だ。
((勇魚)森君、森君の声しか聞きたくない)
けれど詩学、それでも僕は勇魚だけを愛している。
彼女は僕の最初の恋人で、最後の恋人だから。
((勇魚)‥‥キスして)
詩学、君は考えたことがあるか?
君が激しく求め、その全てを護りたいと願う相手からの最後の願いが
自分を殺してほしい、と言われることになるのを。
勇魚は波のように不意に寄せる意識のなかで、 わずかに残された指先と瞼の開閉で、僕に声を伝える。
((勇魚)森君‥‥声を聞いて)
切ない、殺して、と。
詩学、耳を澄ませて、言葉と言葉の間に何が聞こえるか教えてくれ。
僕は勇魚を殺すべきなんだろうか‥…」

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