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第12話 The Light of the world 必然性と偶然性 新月の水曜日
(Title Call:桑島法子)
あしか・・・・・桂川千絵
喜佐・・・・・・前田このみ
わか女・・・・・前田千亜紀
珊瑚・・・・・・桑島法子
勇魚・・・・・・桑島法子
(Reading:桂川千絵 as あしか)
青く塗られた古い木枠が夕暮れの光に反射して、
眠たげなジョイの頬を照らしていた。
喜佐ちゃんの作った美味しい晩ご飯を食べた後、
私たちはお茶を煎れて、テレビを見ていた。
「(喜佐)そういえばお喋り猫はどこにいったの?」
と喜佐ちゃんは思い出したようにいった。
「(あしか)そんなことない、眠いだけ。
ね、お姉ちゃん、今夜はジョイと一緒にねていい?」
(Reading:前田千亜紀 as わか女)
「(わか女)くしゅっ」
「(わか女)新月の水曜日? その日が来たら、貴方はどうなるの?」
私と喜佐ちゃんはキッチンにたって夕食の準備をしていた。
銅製の鍋からクリームシチューのいい匂いがしていた。
「(喜佐)あしか、きゅうりと茗荷を千切りにして」
わたしはうなづいて胡瓜に塩を振った。
その途中、私は指を切ったり、お皿を割ったりしてしまったので、
喜佐ちゃんは呆れて、
もうすわってなさい、と言った。
「(あしか)わか女さんのとこじゃないかな」
「(喜佐)あの人、猫アレルギーじゃなかったの」
「(あしか)なんかハーブとか置いておくと平気なんだって」と私は言った。
喜佐ちゃんはソファの上で膝を抱えて、細い顎を膝に乗せた。
「(喜佐)あの人、なにしている人なのかしら」
「(あしか)え?誰が?」
「(喜佐)わか女さん。変だと思わない?
だって都心にこんな大きな家を維持していくにはとてもお金がかかる筈よ、
でも働いてるようには見えないし‥‥」
「(あしか)お金もちなんじゃないの?わか女さん」と私は言った。
喜佐ちゃんはゆっくりと私を見て、「(喜佐)あしかはまだ子供ね」と言った。
「(喜佐)夜中に車がこの屋敷の前に停まる音がするの。
そして誰かがわか女さんのいる、母屋に入っていくの。
そして夜明け前にまた車が舞い戻って誰かがそっと帰ってゆく‥‥
見られるのを恐れているようにね。」
私は黙っていた。沈黙の合間に明るいコマーシャルソングが空しく響いた。
「(あしか)先に寝てもいい?」暫くして私は言った。
喜佐ちゃんは立ち上がってコーヒーカップをキッチンに運んだ。
「(あしか)おやすみなさい」
「(喜佐)あしか」水の流れる音にかき消される程の声でお姉ちゃんが私を呼んだ。
「(喜佐)なにか隠してない?」
「(あしか)‥‥どうして?」
「(喜佐)別に。なんか、今日元気ないから」
私は少し動揺して、それを隠そうと明るくそう告げた。
「(喜佐)ジョイの足をちゃんと拭いてよ。おやすみ」
とお姉ちゃんは言った。
「(珊瑚)ぴんぽん。お喋り猫からのお知らせよ。
あのねわか女、今夜、朔がくるのよ」
薔薇の香料を散らしたバスタブで目をつむっていると、
不意に喉の奥がかゆくなった。
目を開けるとバスルームの高窓にお喋り猫が座っていた。
「(わか女)朔?ああ、こないだ庭に落ちていた男の子‥‥
そう、じゃあケーキでも焼いたほうがいいかしら」
「(珊瑚)おもてなしなんかいいの。だって喜佐には内緒なの。何故って、
朔をみたら喜佐、また怒るでしょう。
だから喜佐に内緒であしかが朔を招待したの。
だって、今夜またハッカ色が埋めた骨を見に庭にくるから」
「(わか女)ハッカ色が埋めた骨を見にくるって
‥…どういうことなの?珊瑚ちゃん」
「(珊瑚/勇魚)庭に、あたしの骨が埋っているの」
お喋り猫の声のトーンが不均一に揺れた。
あどけない舌足らずな喋りが、綺麗な大人の発音に変わった。
「(勇魚)あたしの体の一部はこの庭に埋っているの。
あたしの骨はナオミの宝なの。
ナオミは死んでいるものをみると安心するの。
生きているものをみるより、死んでいるものをみていたほうが
自分の身体に魂が宿っているのを感じられるから」
「(わか女)今、貴方は珊瑚ではないのね ・・・・貴方はあの雨の夜、
私の夢に侵入してきたひと、そうでしょう?
貴方の名前は、((勇魚)私の名前は)勇魚」
「(勇魚)新月の水曜日が近づいている」と、勇魚は言った。
「(勇魚)約束したの、森君と。新月の水曜日に会おうって。
ずっと昔‥‥私がまだ少女だった頃、交わした約束。
それを今、果たしに来たの」
「(わか女)何故今になって、貴方は来たの?
ナオミやお喋り猫に宿って、何故声だけを伝えに来るの?
だって、貴方の身体はもうない‥‥((勇魚)わか女、眠りなさい)」
猫は、灰色の曙光に照らされて赤い瞳で私を見た。
私は裸の腕を抱いた。
「(勇魚)あなたは眠ることが仕事だから。
そして私と、ナオミの夢を見て。(珊瑚)罪を贖って」
勇魚の声は消滅し再びお喋り猫が現れ、
「(珊瑚)ふふっ」
と笑った。
そして次の瞬間、ひらりと草むらに飛び去った。
流砂のように息を詰まらせる強い眠りが、私の内側を不意に襲った。
私は立ち上がった。
水滴がタイルに散らばり広がっていくのを目の端でとらえながら、
私はもつれる足をひきずって、天蓋付きのベッドにたどり着き、
倒れるように眠りに落ちた。
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〈第11話
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