東京星に、行こう‐SCENARIO#5


(注)このシナリオは、著作権者である MADARA PROJECT の許可を得て
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第5話 地面の下の柔らかな鳩 ガラスの胸骨 動物園再襲撃
    (Title Call:桑島法子)

     珊瑚・・・・・・桑島法子
     ナオミ・・・・・豊嶋真千子
     朔・・・・・・・前田このみ


(Reading:桑島法子 as 珊瑚)

ハッカ色は華奢な身体で月の光りに照らされた枝をしならせていた。
幾葉かの葉がひらひらと闇の奥に散っていた。
「(ナオミ)その場所には、あたしが埋めた骨が埋ってる‥‥」
ハッカ色は足を揺らした。白いサンダルが宙に弧を描いて
あたしが浅く掘りかえした地面の上に落ちた。
「(珊瑚)埋めたのは、ハッカ色のカラダの骨?」と、あたしは聞いた。
「(ナオミ)あたしはまだ骨になってない。‥‥壊れかけているけど」
「(珊瑚)でもあんたの胸の骨、欠けてる」
「(ナオミ)‥‥何故、そう思うの?」
ハッカ色の赤く陰った目がいぶかるようにあたしを見つめた。
「(珊瑚)耳を澄ますと聞こえるもの」とあたしは言ってやった。
「(ナオミ)何が聞こえるの?」
「(珊瑚)あんたの心臓の音も、
その動きを助けるために埋められた機械の音も。
その振動にこだましてるのは
生まれた時に授けられた本物の骨じゃない。
あんたは作り物のガラスの骨を本物の骨の代わりに胸に埋めてる。
だって、音が全然違うもの」
あたしはそう言うと、トイレの準備の為に地面を深く掘り返した。
柔らかな鳩のような白い骨のかけらが月の光りに反射して
鈍く光った。


(Reading:前田このみ as 朔)

階段教室の窓から鈍色に濁った給水塔が見えた。
高くそびえるポプラの緑が空に淡く溶け出していた。
僕は小さくため息をついた。退屈な授業だった。
教科書は古く、理論は10年前のまま置き去りにされ、
教師の話もそれと同様使い古しだった。
生徒はまばらで大抵は眠っているか、
小声で喋っているかのどちらかだった。
僕の斜め前の女だけが授業を聴いていた。
銀フレームの眼鏡を掛け、ワンレングスの髪をかきあげながら
熱心にノートをとっていた。
その静寂を破るように僕の携帯のベルが鳴った。
教室にいる全員が振り返って僕を見た。

「(朔)もしもし?」
「(ナオミ)朔?あたし。 夜、動物園に来て」
「(朔)ナオミ?」
「(ナオミ)あのお喋り猫があたしの骨を盗もうとしてるの。
朔、仕返し して」
「(朔)骨? 骨ってなんのこと・・・」
(S,E)ツー、ツーという通話音
それきり電話は切れた。
僕は慌てて教室を出た。


(Reading:豊嶋真千子)

世界の体制化は、形のみにかかわるのではなく、
さまざまな感覚的性質をも巻き込んで生じる。
その過程であたし達はみえるもの/さらにみえないものを獲得する
‥…


(Reading:前田このみ as 朔)

僕はこの数ヵ月のナオミの不在の期間中、 僕とナオミが過ごした時間より何倍も強いナオミの存在を感じていた。
ナオミはある日突然、僕の前から姿を消したのだ。
彼女は家族を持たなかったので、僕は幾日も眠らずに彼女を探した。
ナオミは僕の行動をあざ笑うように、不意に僕の前に立ち現われ、
音を響かせ、次の瞬間 金の指輪のように水底に消えてゆく。
僕は部屋に戻って冷蔵庫からビールを取り出して飲んだ。
そして月が完全に頭の真上に昇るのを確認してから 自転車で“動物園”へと向かった。

動物園は静まり返っていた。
広々とした芝生と花壇が並ぶ柵の向こう側から
涼しい5月の風が吹いていた。
「(ナオミ)朔、来て」
どこからかまたナオミの声がした。
「(ナオミ)あたしはここよ。朔、あたしが欲しいなら 中に、来て」
僕はため息をついて、白い鉄柵に手を掛け、 ひらりと動物園の内側へと飛び降りた。
ナオミは大きな楡の木の下にうずくまり、じっと夜をみていた。
「(ナオミ)朔…」
彼女の顔は苦痛に歪んでいた。
「(ナオミ)朔‥‥ 胸が苦しいの 朔‥‥」
「(朔)ナオミ、胸をみせて」
僕は服をはだけた。ナオミの機械人形のような薄い体が
青い月の薄明りににじんだ。
僕は彼女の胸に体を寄せ、静かに囁く心臓の音に耳を澄ませた。

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第4話「東京星に、いこう‐ストーリー」のページ第6話


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