東京星に、行こう‐SCENARIO#2


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第2話 髪が指先までのびた綺麗で残酷な女の子、
    盗んだミルク …喋る子猫(Title Call:桑島法子)

     珊瑚・・・・・・桑島法子
     あしか・・・・・桂川千絵
     ナオミ・・・・・豊嶋真千子
     喜佐・・・・・・前田このみ


(Reading:桂川千絵 as あしか)

「(珊瑚)にゃむ、みゃむ、にあ…」
(このあとも猫の鳴き声続く、千亜紀ちゃんも小声で一緒に鳴いて下さい。)
子猫は草の葉蔭にぐったりと横たわり、 抱き上げると、 耳や口元から黒い蟻がパラパラとこぼれ落ちた。
「(ナオミ)死にかけの匂いがする‥‥」と見知らぬ女の子が言った。
真直ぐな髪が、肩から指先まで歌うように流れていた。
「(ナオミ)私と同じ匂い…」
「(あしか)あなた ‥‥誰?」
私はうずくまり、子猫を抱いたまま少女を見上げた。
彼女は、季節を読み間違えたような薄いハッカ色の服を着ていた。
アーモンド型の瞳は赤く蔭り、その美しさは私の胸を強く揺さぶった。
「(ナオミ)どうするの? その猫。 あたしが壊そうか」
彼女は私の声など聞こえなかったようにつぶやいた。
鳴き声はさらに小さくなっていた。
不意に彼女は私の手を蹴った。
地面に叩き付けられた猫は、小さく叫ぶと動かなくなった。
「(あしか)何てことするの!?」
「(ナオミ)その猫、壊れかけだもの。どうせ 死ぬもの
そんなの、壊しちやえばいいのよ」
彼女は踵をかえすと、光の葉の繁みに消えた。

私は泣きながら離れに戻るとお姉ちゃんを起こした。
お姉ちゃんは寝起きの不機嫌な顔でじっと猫を見つめた。
「(喜佐)お湯をわかして」
「(あしか)お姉ちゃん、助けてあげて」
「(喜佐)わかってるわよ、だからお湯わかして。やるだけ、やるから」
お姉ちゃんは熱いタオルで子猫の体を拭き、 目やにをぬぐい、砂糖水で口元を湿らせた。 子猫が微かに呻き声をあげた。
「(あしか)大丈夫? 死んじゃう?」
「(喜佐)あしか、子猫とベッドに入って、あなたの体温で温めてあげて。 私はミルクを持ってくるから」
お姉ちゃんはそう言うと、外へでた。

私は夢中で子猫を抱きしめた。
「(珊瑚)みやぁ…」
子猫の脈打つ心臓の鼓動が私の胸に響いた。
あしか、耳を澄ましてごらん、という父の声を私は聞いた。
私はふと、その鼓動が胸の内側にある王国の鍵のように感じた。

私は瞬間、眠りに落ちた。暫くすると、静かに扉が開いた。
お姉ちゃんが腕いっぱいに牛乳瓶を抱えて戻ってきた。
「(あしか)そんなにいっぱいは飲めないよ」と私は言った。
「(喜佐)いいのよ、タダだから」
「(あしか)タダ?」
「(喜佐)盗んだの」
「(あしか)盗んだって、どこから?」
「(喜佐)牛乳屋に決まってるでしょ」
お姉ちゃんはキッチンでミルクパンをみつけると、ミルクを温めた。
そんな些細な道具を黙って用意してくれた叔母の優しさに、 そっと触れる思いがした。
お姉ちゃんはスポイトを取り出すと、子猫にミルクを飲ませた。
反応のなかった子猫の体に、すこしずつ温もりが戻りはじめ、 猫は再び鳴き声をたて、‥‥目を開いた。
珊瑚のように、赤い瞳だった。
「(あしか)ミルク、おいしい?」と私は言った。
「(珊瑚)まあまあ」と、猫が言った。


(Reading:桑島法子 as 珊瑚)

あたしの喋る声をきいて、その子は黙った。
ばかみたい、猫だって喋れるのよ、 とあたしはスポイトでミルクを飲みながら、言った。
生まれてそうそう、ひどい目にあっちゃった。
ハッカ色ってサイテーね。今度逢ったら、絶対仕返ししてやるわ。
でもね、あたしはほんとはすごくいい子なの。
可愛そうな子猫のあたしを、あんたはう〜んと可愛がっていいわ。
なんたってあたしはほかの猫とは違うの。
特別なお喋り猫なんですからね。
あたしはそれだけ言うと、 びっくりして口もきけないでいる女の子の蜂蜜のように甘いその膝で、 眠りに落ちた。


(Reading:桂川千絵 as あしか)

「(わか女)くしゅっ。‥‥あたし、猫アレルギーなの。猫がいるでしょう」
叔母が戸口から顔を出した。
「(あしか)わか女さん、この猫‥‥喋るの」
「(わか女)喋る猫って、時々いるの。 四葉のクローバーみたいにね」とおばさんが何でもなさそうに言った。

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第1話「東京星に、いこう‐ストーリー」のページ第3話


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