雁谷哲を起点とするいくつかの考察

[Home Page]

 え〜、以下の文は、昭和60年頃に私が参加していた同人誌に寄稿した一文です。文章表現に少しだけ手も加えていますが、中身はほとんど変わっていません。読めばわかりますが、注を多用した上にもたれる文体を使用しています。
 ただ、書いてから10年くらいたったために、さらに注が必要になったので、補注を☆で、元々の注を★でしめしてあります。
 感想などいただけると嬉しいです。


 雁谷哲は、最近ではビッグ・コミック・スピリッツの「美味しんぼ」がよく知られていますが、昔はサンデーの「男組」とか、漫画ゴラクの「野望の王国」なんかがよく話題になった、まんがの原作者です。僕が、雁谷哲に興味を持つのは、前にもAF[☆1]に書いたことがあるけど、面白さもさることながら多くの作品に共通した主張のがみられるためです。

 例えば、「男組」[★1]だと神竜剛次が、「貴様ら大衆は醜い豚だ。俺の理想を叩き込んでやる。」といういうようなことをよくいうわけです。つまり、神竜剛次は、第二次対戦後の大衆社会に強い疑問・憤りをもっているわけで、自分の背後にいる「影の総理」[★2]から与えられた権力を使って自分の理想社会を作りだそうとしているわけです。

 高校生である神竜剛次(そう、じつに神竜は高校生なのです)は、「豚のような大衆」を「指導・教育」(どちらもカッコをつけずにはいられませんが)するためにまず完全に支配しようとします。 そこで手始めに関東一円の高校を暴力で支配していき、青雲学園という高校をほぼ支配したところで、青雲学園の校長から依頼を受けて、神竜と対抗するために青雲学園に登校することになった、主人公の流全次郎と激突するというのが「男組」の発端です。

 この作品は生身の暴力を主題の一つにしていて、なかなか面白かったもんです。(池上遼一の絵もなかなかよかった。)なぜか、「美味しんぼ」では暴力が出てきませんけど雁谷哲というとほとんど暴力を主題にした作品[★3]ばっかりだったのです。

 ところで、この神竜のもっているような、戦後社会への強い疑問は、他の作品でもいくつか見受けられます。例えば、昔ビッグ・コミックに連載された「黒の鍵」はM資金[★4]をモデルにしたD資金というものがあって、それを運営しているD機構という秘密組織があり、主人公のジョルジュ・ダンテは新聞記者(だったかな?それとも新聞社の社主だったかな?)だった実の父親がD資金とD機構について調査をしたために一家皆殺しにあいかけたという設定ではじまる復讐劇なのですが、そのD機構の総裁はどうみても天皇[☆2](陛下をつけるべきなのかな?)で、結局復讐はならずしておわってしまう[★5]わけですわけです。

 このD機構の総裁が天皇であることや、影の総理のことを考えると、雁谷哲の頭の中には、「戦前の日本を破滅させた支配者達は、戦後もしぶとく生き残っていて今も日本を支配しており、彼らが、今の社会を醜くしている元凶だ」という構図があるように見受けられます。この構図はかっての左翼の皆さんも持っていたのではないかと思いますが、暴力団等の取り上げ方をみていると、全共闘を横目で見ていた右翼という気がします。が、一部の右翼もこのような考えを持っている[★6]ことも間違いのないところです。まあ、この人が左翼でもあんまり驚きませんが。

 で、最近の雁谷哲の傾向、つまり食い物に対するこだわりを見ると、数年前から同じような動きが左翼のほうでもあるのです。僕が知っているのは一例ですが、それは、(革マルの濫觴の一人)の太田竜[☆3](いまは、革命家と自称しているらしい)氏のの玄米食運動です。
 もっともこの人はすでに左翼ではないかも[★7]しれませんが。

 このように食事をかいして右翼と左翼が接点を持ちはじめているのです。まあ、右翼と左翼の違いなんてもともとあんまりないもんで、特にやることは(というより思っていることというべきか)は同じで、テロ好きなところはそっくりです。
 違うところは自らの正統性をなにに求めるか、ぐらいなもんです。まあ、「そこがちがんうだ」とあの人達は大声でいうでしょうがね。

 しかし問題は、この食い物の分野では右翼のみなさんに一日の長があることで、左翼のみなさんが右翼にとりこまれてしまいかねないのです。もっとも日本では、左翼が右翼になってしまうことはよくある[★8]ことですが。 で左翼が右翼になるとバランスがとれなくなって世間も右へ動いてしまうというのが、戦前あったことなわけで、なんとなく薄気味悪くなってくるわけです。それと、気になるのが、右翼の背後にチラホラする裏神道の皆さんなのですね。最近、金井南龍[★9]という人物は、インテリと目される人達の間に浸透していまして、元YMOの教授[★10]なんかは、かなり影響を受けてるみいたなのです。昔、大本教[★11]がたどった道を、結局日本全体がたどることになったこと[★12]を考えると、僕なんかは、結構怖い気がするんです。無事に生きていけるかな。


[Home Page]