「市町村地域福祉計画における住民参加手法について」
平成14年度第1回市町村等情報交換会(2002年8月19日神奈川県福祉部地域福祉推進課主催)での講演記録
足柄上保健福祉事務所副主幹
(日本社会事業大学大学院 社会福祉学研究科)
菊 池 健 志
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ご紹介に預かりました菊池と申します。
私は、現在、足柄上保健福祉事務所に在籍しておりますが、昨年よりお休みをいただいて、学生をやっております。
たまたま、平成13年度の県の地域福祉推進モデル事業に平塚市の私が在住している花水地区が含まれておりましたので、せっかくの機会でもありますので、県職員としてではなく、一住民として、このワーキンググループに参加させていただきました。
保健福祉事務所でも、地域福祉関連事業の担当をさせていただいておりましたが、全くそれらの立場を離れて、一市民の目でメンバーとして参加させていただいたことは、大変恵まれた機会でありましたし、そこで感じたこと、地域福祉の可能性のようなものを強く感じましたので、日頃市民のみなさんと直接、接しておられるみなさまには、僭越とは、存じますが、そうした観点から、今日はなんらかの参考にしていただける情報をご提供できればと思っております。
さて、本日お集まりの皆様は、各市町村の福祉のまちづくりや地域福祉を所管する方々、あるいは、社会福祉協議会のご担当の方々と伺っております。介護保険法を皮切りとする一連の社会福祉基礎構造改革の流れの中で、介護保険事業計画の改訂や支援費支給制度への対応など、そうでなくてもお忙しいところへきて、地域福祉計画と、なんとも、つかみ所のない話で、本音のところ、それどころではないとお感じの方も、いらっしゃるのではないかと思われます。また、これまで、地域福祉の推進の中核として、ご尽力いただいてこられた社会福祉協議会の方からすれば、今さら・・・とお感じになられている面もおありじゃないかと思われます。
こうした疑問への答は、先ほどご紹介のありました、神奈川県社会福祉審議会の答申「地域福祉の推進について」の中でも、たいへん詳細に触れられているところですが、本日ご指示いただいたお題の「住民参加」が、そもそも、なぜ、それほど重要なのか、どんな意味をもつのか、ということに関連しますので、少しだけ触れさせていただきます。
1 地域福祉計画に求められているもの
【表1】に、市町村地域福祉計画に盛り込むべき事項の一部抜粋をのせてございますので、ちょっとご覧下さい。
| 【表1】 |
| ● 市町村地域福祉計画に盛り込むべき事項 「市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定指針の在り方について (一人ひとりの地域住民への訴え)<概要>」(H14年1月28日社会保障審議会福祉部会)から一部抜粋 (1) 地域における福祉サービスの適切な利用の促進に関する事項 ○ 目標の提示 地域の生活課題に関する調査「ニーズ調査」 ○ 目標達成のための戦略 エ サービス利用に結びついていない要支援者への対応 要支援者発見機能の充実、近隣の地域住民等地域福祉 活動等充実・支援 (2) 地域における社会福祉を目的とする事業の健全な発達に関する事項 ○ 多様なサービスの参入促進及び公私協働の実現 ○ 福祉、保健、医療と生活関連分野との連携方策 (3) 地域福祉に関する活動への住民の参加の促進に関する事項 ○ 地域住民、ボランティア団体、NPO法人等の活動への支援 情報、知識、技術の習得、活動拠点に関する支援 地域住民の自主的な活動と公共的サービスの連携 ○ 住民等の意識の向上と主体的参加の促進 地域住民、サービス利用者の自立 住民等の主体的な生活者、地域の構成員としての意識の向上 住民等の交流会、勉強会等の開催 ※太字はワーキンググループによる直接的成果や、その議論の 過程から有効な情報を得られることが期待される事項 |
| 【表2】 |
| ●平塚モデルのワーキンググループの主な活動実績(13年度分のみ) ・3チーム別討議(自主企画のべ44回) ・地域団体へのアンケート調査(64団体) ・地域活動団体との情報交換会開催(5回) ・福祉マップ作成、配付、利用者調査実施 ・地域内福祉施設・活動への訪問調査(6所) ・学校訪問と生徒から聞取り調査(3所) ・独自ホームページの開設(約200P) ・全戸配付ニュースレターの作成(1回) ・地域FM局での活動紹介(3回) ・地区報告会開催(地域住民等参加約170名) |
| 【表3】 |
| ●ワーキンググループの成果 1 地域課題調査活動の主体的な企画実施 2 地域課題を自らの課題として捉える主体意識醸成 3 継続的な地域実践活動への動機付けと発展 4 内発的主体的参画が活動意欲に大きく影響することへの住民の認識 5 既存の地域組織や市行政との融和的連携の模索 6 住民相互の口コミ等による効果的な情報の伝達 7 既存の福祉コミュニティ形成層とは違う若年層、主婦、企業OB等の参画 |
まず、冒頭に「地域の生活課題に関する調査「ニーズ調査」」というのが出てまいります。
ちょっと待ってくれと、生活課題ってなんだ、福祉課題じゃないのという疑問がわいてくるわけです。だって、生活課題と言えば、「隣の子どもがうるさい」とか、「道路の側溝がこわれているから歩きにくいだとか」、「空き地が草ぼうぼうで困るとか」、「定年退職でお父さんが毎日家にいて困るとか」・・・それこそ何が出てくるかわからないわけです。そもそも、どうやって、そんなニーズ調査するんだって思ってしまうわけでございます。
私も行政マンのはしくれですから、考えただけでも、そんなニーズ調査はぞっとするわけです。なぜ、「福祉課題」ではなくて、「生活課題」なんでしょうか。
それから、「地域住民等地域福祉活動等充実・支援」。これも、もう、こんなこと申し上げると、行政マンとしては失格なのですが、いつも、様々なご要望をいただく、というか、がんがん突き上げられてしまう、地域の団体のみなさんなんかが、パッと頭に浮かんじゃったりするんです。地域には、様々な本当に熱心な活動があるわけですが、それらが必ずしも一致しているわけではない、利害関係なんかも、実は複雑に絡んでたりして、正直、障らぬなんとやら・・なんていう状況もあったりするわけです。
そして、さらに最後の方には、「住民等の意識の向上」、「地域住民、サービス利用者の自立」なんて書いてある。なんか市民にけんか売ってるようなもんです。
私が担当者だったら、まず、なんとか避けてとおりたいところです。そもそも、なんだかきれいごとというか、立派なお題目ではあるけれど、とても、無理無理、無難な落としどころを探すことを考えます。
さて、冗談はさておき、ここには、既に福祉行政の課題として認知されている課題からの拡大、つまり、生活課題とか、要支援者発見といったアウトリーチケースとか、住民活動支援 等といったものが書かれています。言い換えれば、実は、既存の高齢者、障害者、児童といった領域別の計画に無い部分、この部分が地域福祉計画の本体になるわけです。計画に地域福祉計画という題名をつけるためには、この部分に触れざるを得ないわけです。
2 制度と生活課題
ところが、例えば生活課題なんですが、こういう課題は、既に行政にも寄せられているわけです。私も、ケースワーカーをさせていただいことがありますが、一人暮らしのおばあちゃんのうちの庭が草ぼうぼうで、何とかして欲しい」なんて話はしょっちゅうでしたし、普段はなんともないんだけど体調不良時だけ買い物して欲しいとか、障害をお持ちの方から、ごくまれに車いすからの転倒したとき、いちいちヘルパーさんを呼ぶわけにもいかないし、救急車っていうのも大げさだしなんとかしてなんて、相談もありました。介護保険の家事援助の制限事項の例を挙げるまでもなく、そもそも、生活課題の全てを、福祉制度で対応するなんてできっこないわけです。
しかし、つまり、こうした課題は新しい課題か?ということなんです。これまでどう対処されていたか?って言えば、結局できないことの多くは、ご近所の方が助け合ったり、見るに見かねて、支援してくださったりしているわけです。行政はちっともねぇなんて感じでございます。それすら無い方は、どうしていたか、ワーカーが制度の枠を越えて、なんとかしていたとか、良心的なヘルパーさんが、ボランティアで対応していたとか・・。
実は、住民参加のワーキンググループでも、こうした話題は、がんがん出ました。もちろん、行政批判もありました。でも、結局のところ、小さな地域の中でのできごとです。あそこの山田さんが、こんなことで困ってたみたいよっていう話が出ると、制度の批判とか行政への不満も一応、お約束で出るんですけど、結局、手っ取り早く、顔が見えているだけに、何とかしちゃいましょうという話になっていくわけです。それは、高齢者の課題でも、障害者の課題でもなくて、山田さんや鈴木さんの課題なわけです。
それと一方では、地域の奥様方から、うちの旦那、退職して、することもなくて、一日中うちの中にいて困ってるから、使ってよって話が出てくるわけです。邪魔だから、地域のためとかなんとかプライドくすぐって、なんとか引っ張りだしてよって。こういうご時世を反映してか、想像以上にそういう方がいらっしゃるようなんです。明日は、我が身で全然笑えないですけど。生活課題って、もう、課題が出ると同時に、かなり需要と供給が結びついちゃうんです。
今回のモデル事業では、「行政の地域福祉計画を考えるワーキンググループ」ではなくて、「地域のコミュニティづくりを考えるワーキンググループ」でしたから、話し合いが繰り返されるうちに、結構、需要と供給が結びついていくのがみえてくるわけです。
ここに市町村地域福祉計画策定の困難性を乗り越えるヒントがあるのかも知れないと感じるわけです。
ちょっと待てよと。需要と供給が結びついているなら、いいじゃないと。何も行政が頸を突っ込むことないんじゃないかって思いませんか。
ワーキンググループに市民として参加して、実感したのですが、どうやら、おおすじは、そうなんです。たぶん、長年地域づくりに携わってこられた社会福祉協議会の方などは、もう、そんなこと、あったり前のことだとお感じかもしれません。
ただ、これも当たり前のことですが、行政は、それをこれまで把握する機会がなかった。もし、地域福祉計画の中で、そういう地域の中の、すでにこれまでも行われている市民同士の、ごく自然な助け合いをうまく位置付けられれば、制度に乗らなくて、ワーカーが四苦八苦してきたような、いわゆる生活課題とやらは随分解消できそうなんです。
ここまで、お話しを進めさせていただいて、そんなにうまくいくものか・・・と、ちょっと、眉唾に感じておられる方もいらっしゃると思います。
これも、確かに、そうなんです。そもそも、公募に応募して、ワーキンググループに参加されるような方は、正直申し上げて、意識の高い方が多いです。地域全体で見れば、需要と供給は必ずしも、うまく結びついているとは言えません。つまり、そこが1970年代以来の地域福祉の大命題なんです。
ただ、言えることは、私も含めて、行政の立場からみると、まず、入り口の「生活課題」という視点で、行政要望の噴出をおそれてしまって腰が引けてしまいます。でも、その点は、案外解消の道があるみたいだということなんです。
じゃあ、その大命題、うまく結びついていない需要と供給を結びつける仕組み、市民同士の支え合いの仕組みをどうやって作るのか。
実は、平塚のワーキンググループでは、もう行政そっちのけで、そのことが話題にのぼり、住民自身がその対策を模索しています。そこには、行政には、できないことを、自らの頭で検討しているという、なんか誇りのようなものすら感じるのであります。もしかすると、今さら行政が地域福祉を言う、最大の効果は、ここら辺にあるのではないかと思うのであります。
3 市町村地域福祉計画策定の困難性を乗り越えるヒント
さて、困難性を乗り越えるヒントなんて、大変大仰で恐縮なんですが、レジュメに3つ書かせていただきました。今申し上げたことは、(1)と(2)になると思うんです。
福祉課題から生活課題へと視点を置き換えることは、それほど、恐ろしいことではなくて、かえって、市民からみれば身近な、自分の問題として置き換えられることで、主体的に考えることができるということです。
しかしこれは、例えば、「このたび、行政で地域福祉計画を作ることになりました、ついては、生活課題を挙げてください、地域住民は自立して、その上で、行政の役割が何か考えてください・・・」と、行政が上から、いや、そんなつもりは無いのですが、市民からするとそう言う風に感じるような投げ方をしていては、やっぱり、それは恐ろしい結果になりそうです。つまり、行政計画策定への住民参加ではなくて、住民による地域福祉コミュニティづくりそのものからのスタートなんです。ですから、住民参加ではなくて、住民が主体で当たり前なんです。
(3)市民主体性の維持のところに、独断、依存的姿勢、表層的決着等をどのように避けるか。と書きました。行政の立場でこんなこと言うと怒られそうなせりふですが、これは、一市民の立場に立っても感じたことです。
自分たち自身で、地域の中の生活課題を見つけ、その対策を検討し始めると、ごく当たり前に、自分たちで、その解決策を検討したくなりました。できるだけよい答をみつけるための、そういう環境が欲しいと感じました。そのためには、例えば、グループワークについての支援とか、調査の仕方、これも別にそんなに難しいことではなく、インタビューを行う時の礼儀とか、アンケートの組み立て方とか、極簡単な方法です、そういうことのレクチャーとか、記録や印刷といった事務作業等の支援が必要です。
この辺は、行政の得意分野ですから大いに役割が果たせます。頼りになる行政で、面目躍如でもあります。
あとは、市民からすると、市民を信頼してもらえばいいんです。でもこれって、結構、難しいです。市民の側に立ってみると、行政の姿勢が上に見えることがよくわかります。
そこに「市民は素人か」と書きましたが、専門家も行政担当者も、私たち、ここにいらっしゃる方全員が市民です。それに、各地域の人間関係とか、生活課題なんていうことについては、市民が一番専門家なんです。
それと、「市民活動は不合理か」とも書きました。これは、市民として参加していて感じた最大の収穫なのですが、例えば、ワーキンググループの議論でも、話題があっちいったり、こっち行ったり、ぐるぐる回る。意思決定も、なんだか非常にあいまいで。でも、そこにはちゃんと意味があって、結論的に言えば、これは多様性への対応の結果みたいなんです。地域って、大変混沌とした社会なわけですから。行政内部や、法人組織のような合目的的な意思決定は通用しないんです。一見不合理のようですが、その意思決定のスピードやあいまいさが、最も実態に忠実なわけです。無理に多数決で、明快な答を出したところで、ひっくり返るだけです。要するに、実は最も合理的な方法が選択されているんです。
余計なことのようですが、市民を信頼するための視点として重要だと思ったので、触れさせていただきました。
さて、実際の進め方については、現在、大変うまく行っている、(これは、今のところですけれど、)そして、とても主体的にすすんでいる平塚のワーキンググループの進め方から大いにヒントが得られました。これについては、後ほど触れさせていただきます。
それと、計画策定の担当者としての、もう一つの大きな課題は、計画の策定にどう反映させるかということです。地域づくりが、先行するのはいいのですが、結局、計画にどう反映させていくかが、わからなければ、これは仕事にはなりません。
これが、(2)の課題把握のための新しい手法の模索です。
これは、平塚の活動に参加していて、今度は行政関係者の視点ですが、悩んだところなんです。何せ、議論はあっちこっちだし、結論は出たのか出ないのかわからないような状況ですから。だいたい、もともと、計画づくりのための住民参加ではないですから、そんなこと知ったことじゃありませんし。
しかし、議論の中には、まさにこれは、核心だと思わせるような発言や、目からうろこが落ちるような鋭い視点がいっぱい出てくるのです。これを拾わない手はありません。
レジュメに「量的調査(アンケート)などでは把握しにくい要素をどう把握するか。」と書きました。調査というと、まず、思い浮かぶのは、アンケート調査ですね。恐らく、地域の生活課題に関する調査も、真っ先に思い浮かぶのは、アンケート調査でしょう。これに、対して質的調査という考え方があります。この手法を応用して、議論の内容を分析してみました。これは、平塚市さんで採用されているものではなく、私個人が、やってみたという次元のものですが、ワーキンググループの議論をそれなりに、計画策定の過程に利用することができるものと思います。
4 ワーキンググループを実施する場合の具体的手法
さて、随分、前置きが長くなりました。
というと語弊があるのですが、実は、ここまでのお話しに、幾ばくかでも、御賛同いただければ、これ以降は大した内容では無いのです。そういうスタンスで、市民の主体的な活動と連携が取れれば、どんな方法でも良いわけです。
ただ、ワーキンググループを設定することは、それだけでも大変なご負担と思われますので、なんらかの参考になればと思います。
| 【表4】 |
| ●ワーキンググループが有効に展開した要因(活動から直接抽出) 1 主体性の尊重や自由な意見の表出、市民感覚に近いことなどによる活動のしやすさに効果のあった要因 ・個人参加 ・ワーキンググループ方式 ・市民公募 ・主体性の最大限の尊重 ・公募の際の活動経験 ・知識不問の明確な提示 2 主体的活動の意義を強調する効果のあった要因 ・自主運営 ・課題を提示しないこと ・成果を求めないスタンス ・拘束性の低い組織 ・自主的広報活動 3 活動の安定性や混乱の除去に効果のあった要因 ・地域への活動報告目標の設定 ・第三者によるオーソライズ ・事務的部分への協力 ・市民や専門家等の評価のフィードバック ・発言のし易さへの配慮 ・発展的展開の可能性を誘導する第三者 4 多様性による新たな発見などモチベーションを高める効果のあった要因 ・グルーピングの工夫 ・簡易な調査手法の提示 ・小学校区程度の小地域の設定 ・援助されることへの精神的負担の提示 ・一定期間の活動の継続設定・議論の過程の蓄積 ・議論展開の脆弱さへの補足 ・議論の展開の分析結果のフィードバック |
まず、「(1)何がワーキンググループの効果的展開に寄与したか。」でありますが、これは、平塚市さんの『花水地区福祉コミュニティづくり-H13年度神奈川県地域福祉推進モデル事業報告書-』(WEB版は平塚市役所のこことここ)の中にも分析されているものなのですが、私は、さらにワーキンググループの記録の展開から、やはり、質的研究の手法を応用して、直接要因分析を行ってみました。その結果が【表4】、それを設定する側の立場から場面ごとに並べ替えたものが【表5】
になります。
ここにあることは、グループワークの基本原理に沿うもので、社会福祉協議会の方などは、よく心得ていらっしゃる事項がほとんどかと思われます。ただ、行政の行う住民参加としてのワーキンググループでは、必ずしも、一般的とは言えないもの、例えば、「成果を求めないスタンス」ものもありますので参考になると思います。
一貫しているのは、参加者の主体性の尊重なんですが、これも、結構、難しいものです。
主体性の尊重をうたっているのですが、全く関与していないかというと、実は、大いに関与しています。例えば、課題を提示せず成果も求めないことや、拘束性の低い組織構成は、自ずと主体性を持たざるを得ないことになりますし、個人参加原則や公募の際の活動経験・知識不問の明確な提示などは、既存の団体や職制からの立場を離れるだけでなく、既成概念にとらわれない意識への変革の誘因になっていましたし、例えば、援助されることへの精神的負担の提示とありますが、これは、初期に、メンバーがなじむためというような理由で、助け助けられゲームという形でやっているのですが、こうしたこととか、広報の自主的運営などは、議論の視点に大きな影響を与えています。
ここに上げさせていただいたものは、一見どうでもよさそうなものもあるのですが、実は、相互に影響しあっていることが、議論の展開過程の分析の中で、明らかになりました。
続いて、「Aデータの活用について」です。
ワーキンググループ活動の逐語的記録の分析例を順を追って、【表6】【図1】
に示させていただきました。これは、質的研究手法を応用したもので、理屈はかなり難しいのですが、作業的にはパズルみたいで、意外と楽しいものです。
【表6】
の左側のエピソードは、ワーキンググループの議論の逐語記録を発言ごとに区切ったものです。ここで、重要なのは、逐語記録が残っていることです。せっかく、ワーキンググループで、すばらしいデータが得られているのに逐語記録が残ることは、少ないのではないかと思います。ちょっと大変な作業ですが、ここを頑張っておくことは、ワーキンググループを生かす重要な要素になります。平塚の場合は、傍聴している職員を中心に、大学生などがこの記録の作成に、随分協力してくれていました。パソコンを直接持ち込んで、打ち込んでいくくらいのことは、最近の学生さんにとっては、たやすいことのようです。
さて、表の右側のコード1というのは、要するに発言の趣旨を一言で言うと・・・と言ったものです。ここが一番難しいところなのですが、あまり、難しく考えず、まず、インデックスをつけるつもりでやっていきます。ただし、これは後でばらばらにしてしまいますので、バラバラにしても意味が通じるようにしておきます。
さて、先に【図2】
をご覧下さい。
ワーキンググループに見られた意見交換の構造というやつです。大体、こういうブレーンストーミング的な議論の展開は、このような形になるのだと思うのですが、逐語記録の中にこうした構造を持つ部分が、何カ所か現れていました。
つまり、最初に話題提示とでもいう発言によって「具体的関心・疑問」が提示されます。続いて、それについて共通の認識を持とうとする、あるいは、掘り下げようとする「分析・課題の認識」が行われます。そして、解決策の提案のような発言が行われます。そこで、あ〜そうだそうだ、ということになれば、新しい概念として意識されたものが、提案や要求になっていきますし、でも・・・、いや、ちょっと待てよ、こういう場合は、などという新たな関心・疑問につながる場合もあります。すると、そこから、また同じルーチンが繰り返されていきます。独断傾向や、依存的決着の傾向が強いと、このルーチンは発展せず、すぐ、提案や要求になって、ややもすると表層的なものとなってしまいます。ここで、先ほどのワーキンググループの要因で上げたいくつかの要素の意味がわかっていただけるかと思います。議論のすべての部分がこういう形になることはないでしょうし、それこそ、生々流転、あっち飛びこっち飛びなわけですから、もちろん、きれいにこのように並んでいないことも多々あります。でも、記録を少し鳥瞰的に読んでいけば、案外とこういう構造がみつかるものと思います。
【図1】
は、【表6】
の部分の、この構造を図にしたものです。これは、クロスチーム(H13の活動記録はこのWEBのここ)というところの記録で私は参加していないチームなのですが、逐語記録からだけで分析しました。こうなると、わかりやすくなると思うのですが、先ほどのルーチンに沿って、議論が深まっていることがわかります。
さて、これがどう活用できるかですが、【図3】
をちょっと、ご覧下さい。これは、平塚市の住民実態調査(平塚市役所のここ)つまりアンケート調査の結果が前段に書いてあるのですが、アンケートの調査結果から、『地域での福祉活動への参加意欲は高く助けたいという人は多いが、逆に、地域へ気軽に助けを求めたい人は少ないという、ギャップがうかがわれる』(平塚市役所のここ)という分析をしています。でも、なんで、そこにギャップがあるんだろうか、とか、さらにそのギャップの原因になる要素の背景はなんだろうか、などという複層的なことまでは、アンケート調査で把握することは非常に困難な訳です。さらに、その解決方法については、どうしたらいいだろうか、などという設問をしても、複雑な要因が絡む課題となると、それこそ、表層的な提案に終わってしまうことでしょう。この点、ワーキンググループの逐語記録から起こしたデータは、複層的な実情をそのまま説明しています。解決の提案までは、行かなくても、課題の背景を含めた実情把握のデータとしては大変貴重なことがおわかりいただけるでしょう。
【図1】をご覧いただくと、話題はまさにアンケート調査と同じ課題意識からですが、課題分析では、「信頼関係の構築の必要性」や「サービスの依頼目手の陰に潜む本来目的」や、「援助を受けることの世代間相違」にまで及び、そこから、「拒否する方の気持ちを溶かすボランティア」という発想が生まれて、さらに実際のそのアプローチを想定した議論から、「日中独居という形によるニーズの潜在化」や意識変革、さらには公私の役割分担、情報の伝達効率性にまで言及しています。この議論は、最初のコマにC13と振ってあるように、この前にこうしたルーチンの固まりが、13あるわけですし、この後ろにもずっと続いています。後は、実証性の課題は残りますが、これは市民自身による議論ですから強いです。表層的になりがちなアンケート調査より、よっぽど説得力がありますし、また、アンケートを設計するためのデータにすることで、実証性をたかめることもできますし、専門家なども含めた策定委員会などによるオーソライズが得られれば、そのまま、ニーズ調査の結果として、計画に活用することも可能でしょう。また、先ほど、ご説明いただきました答申の中に、地域福祉推進の基本的方向とか、具体的対策とか、メニューもあるわけでして、この中で、各地域市町村の実状に沿ったものをアレンジする際の根拠としても利用できるのではないかと思うわけでございます。
さて、時間も残り少なくなってきましたので、最後に(3)その他として、三項目だけふれさせてください。
第一に「既存組織や、行政内部のコンセンサス」の確保の重要性です。【図4】
をご覧下さい。この点については、常套手段ではありますが、平塚市では、そこに書きましたように大変丁寧に、なおかつ、同時進行的に、これを進められたことが、相乗効果を生んだものと思われますし、それが結果的に担当者、担当部局にとっても応援態勢になったことだろうと思われます。
第二に地区の選定と全域展開の問題です。これは、市町村の規模や、地域の実情にもよりますが、どんな場合でも、基本的には、せいぜい、小学校区規模が1ユニットであるに越したことはないということです。小学校区は、歩いていける範囲であるだけでなく、小学校を通じた子ども同士、親同士のコミュニティが比較的成立しているからです。地域福祉コミュニティづくりとしては、それを全地区に展開していかなければならないと思いますが、計画の策定のために、どこか、1カ所やりやすい地区をモデル的に、まずは、着手してみることは、意義があると思います。全地区への展開は、それこそ、計画の中に位置付けていくことも可能ですから。
最後に、「効率的実施と人材の活用の工夫」です。ファシリテーターや、記録作業など、人手と作業も多少はかかります。しかし、先ほどもちらっと触れましたが、専門家も、家に帰れば、市民です。学生も市民です。公務員も市民です。活動日の設定と、公募広報などの工夫次第では、そうした方の参加を得ることも可能だと思われます。
また、市町村によっては、社会福祉協議会さんの地域づくり関連事業などの中に、そうした事業を実施されているところもあるかも知れません。あるいは、町村などでは、自治会の中にそうした機構があるところがあるかも知れません。そうしたところでは、あらたにワーキンググループとして立ち上げなくてもいいのだと思います。
そもそも、地域の中に、既にあるものを位置付けることが目的なのですから。
さて、まとまりのない話でしたが、以上でございます。平塚のモデル事業は、まだ、過程であり、今後どう展開するかも、未知数ですが、きっと、他の市町村の方にも参考にしていただける事項が沢山あると思われますので、詳しくは、平塚市さんの報告書もご覧頂ければと思います。また、他のモデル事業につきましても、先日のシンポジュームに伺い、プロセスは違っても、いずれも本日の前段で申し上げたような点について、共感いただけるような成果を出されており、それぞれに、大変参考になるものでございました。是非、ご覧頂ければと思います。
それから、質的研究などを利用した分析等については、本日は、時間の都合で、さわりだけでございましたが、もう少し、わかりやすく、まとめたものも作ろうと思っておりますので、ご興味をお持ちの方は、お問い合わせ下さい。
これからが、本番で大変お忙しくなることと思いますが、是非、住民の方に本当に身近な行政であっていただく意味でも、このチャンスをうまくご利用いただければと願いまして、私のお話を終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。
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