りんどう湖

1997の秋 パート4


今年は、秋の那須路


10月27日朝

 7時起床。コマチさんとトナミさんはお風呂に行き、残された幾分若い二人は、朝食時間ぎりぎりまで眠りを貪る。

 廊下がざわついてきたので、部屋を出ると、車椅子が押し出され、そのうえに、半分眠ったような顔がのっかっている。最上階までエレベーターであがる。朝食は、ほかの客に交じって、好みの食べ物を各自取り分けるバイキング方式だ。ばあちゃんの分は、車椅子を押してくれたスタッフのヒラドさんが、和食を中心に用意していた。四人席にもう一人、スタッフのナカちゃんが座り、ばあちゃん以外はみなパン食となった。

 自分の分だけ人とは様子が違う。まわりを見回して、不安げにつぶやく。「何を食べたらよかと?」「パン食べたいの?」「うんにゃぁ、メシがよかばってん、なんば食べたらよかかと思うて」「ばあちゃんのは目の前にあるじゃない、それとこれとは同じものだし」「ほぉ、これはうまそうたいねぇ」なにかの煮物を口にいれ、ガムを吐き出すように盆の上に食い残しを並べる。「固かねぇ」と言いながら、また、同じものを皿から選って口にいれる。残念ながら、ばあちゃんの目にうまそうに見える料理は、なかなか噛み切れないものが多かった。

 空いているテーブルにまきば園のメンバーが席をとる。食事介助を必要とするテーブルのスタッフには、ゆっくり食べる暇もない。手で食べる人、ぼろぼろこぼす人、口に入れたものを吐き出す人、食べながら眠る人、椅子を離れて歩き出す人、見知らぬ隣のテーブルの人たちに自己紹介を始める人。スタッフにしてみれば、食事介助は日頃のルーチンだが、旅先とあってばあちゃんたちもいささか興奮気味だし、眠れぬ夜を眠らぬ夜に切り換えて、若さを発揮した上での朝でもあったから、みな眠たげで、それに反して、ばあちゃんたちは元気だった。

 騒々しく、車椅子に囲まれた、身繕いの不思議なテーブルを見る世間の目。ニコニコ笑いながらばあちゃんたちに話しかけたり、眉をひそめて顔を背けたり、窺うようにちらりとくれた目を下に落としたり、スタッフをねぎらったり、そしておそらく、妙な集団に出くわしたなという印象をひそかに抱いている。

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