七回忌の前日、おじやおばと訪れたときのばあちゃんの正気に会いたくて、昼食時を襲うつもりが、1時を過ぎてしまい、昼食はとうの昔に終わり、ベッドの上で眠りこけていた。遅かった。
枕許のテレビでは、ゴルフ番組が流れていて、相当な音量だったが、もろともせずに夢の世界にいる。思わず、口元に手をやり、呼吸を確認してしまった。
1時半過ぎに、オムツ交換をしにスタッフが来たおかげで、目を覚まされた格好。セーターの上に、さらに、羽毛のベストを着たまま寝ていたが、目覚めを促すように、これは暑いから脱ごうね、えつさ〜ん、いいもの持ってるね。いい服だね、とほめてくれている。今日はいい天気だねぇ。10月ぐらいの気候だよ。へぇ、そうかい。
しばらく廊下に出て待っていた。部屋に入ると、まばたきもせずに、テレビに見入っている。声をかけても、首や目や口を動かすでもない。目の回りに目脂がこびりついているので、濡らしたタオルで湿してから取る。両まぶたがひっついてとれなくなるほど目を固く閉じる。なんとかして目を開けようとするとき、少しだけ笑った。あいかわらずテレビのほうを向いたままだ。
一言も発しない。そうこうしているうちに、また目を閉じた。ここで一眠りしたあと、もう少し覚醒するかもしれない。無理に起こされたのでは、そう簡単に目を覚まさないだろう。今度は、口もぱっくり開いたままだ。まさに小春日和だ。昼寝日和だ。本を読みながら起きるのを待つことにする。
どたどたと人がやってきた。園長だった。よっ、元気? という勢いに目が覚めたかと思ったら、すぐに眠る。一時間ほどすると、また目を開けたが、視線の先に体を持っていっても、表情が変わらない。
デジカメを向けると、少し反応して、微笑んだ。
今日は目が覚めそうにないみたい? と聞くと、うん、とうなずく。
じゃあ、またすぐ来るからね、バイバイと手を振ると、うん、と微笑む。
来週の日曜日に、介護保険制度の説明会があるので、それに出るつもりだから、今日の来訪は夢の中であったほうがいいかもしれない。訪問の頻度を増すと、混乱するみたいだから、と言い訳して、ほんとうに、これは言い訳だ。せめて一週間に一回来れば、このあいだの奇跡のような正気も頻度が高くなるかもしれないじゃないか。でも、物理的にそれはできない。だから、言い訳にしたがって、今日は夢の中、次の日曜日こそ、昼飯前を襲うぞ、とおみやげに持っていったスフレもそのまま持ち帰った。