1時30分に着いた。オムツ交換の時間だった。カーテンの中から、男声が聞こえる。ばあちゃんもしきりに答えている。
カーテンが開くと、満面の笑顔。
うれしそうだねぇ、やっぱりお兄さんに相手してもらうとうれしいよねぇ、と言うと、ご家族が見えたと声だけでも分かるんですよ、ほら、うれしそう、よかったぁ、と青年。
一ヶ月に二回は、ばあちゃんに会いに来ているつもりだったが、近ごろ、一ヶ月に一回だ。時には、二ヶ月ぐらい間が空くこともある。スタッフからしてみれば、なかなかやって来ない家族の部類に入るだろう。
青年はしきりに、家族来訪の効果を説いたが、違うと思うなぁ。ばあちゃんの稀に見る笑顔のわけは・・・。
青年が去ったあと、まもなく、テレビの昼メロの隣で、ばあちゃんは口をパカッと開けて眠り始めた。今日は帰るまでこのままだろうか。昼食後の昼寝。きもちいいだろう。ベッドの傍らに腰かけて、本を読み始めた。1時間半経った頃、やっとお目覚め。
ボランティアの女の子がおやつを持ってきた。ベッドを椅子の背のようになるまで立て、足のほうも心持ち高くする。チョコまんを小さくちぎっては、ばあちゃんの口の中に。
しあわせなこと。
半分ぐらい食べたところで、粉っぽさにむせた。あとは、持ってきたムースで引き受けることにした。
彼女にまきば園の感想を聞くと、スタッフの出入りの激しさに驚きはしたものの、他の彼女が知っている施設とは違い、時間で追い立てられることがない。時間割をこなすために、余裕なく走りまわるようなことがない。時間がゆったり流れているところがいい、と言っていた。放牧の牧場だもんねぇ。
かぼちゃのムースをきれいに食べた。うまかねぇ。
何の味がした? 首を傾げている。かぼちゃの味じゃなかった?
か・ぼ・ちゃ、かぁ。うまかねぇ。
いつも普通名詞もうろ覚えになったような調子でいるが、このときは違った。ああ、あのほくほくしたかぼちゃたいねぇと実物を実感しながら、復唱したように聞こえた。そろそろかぼちゃの季節でっせぇ。ばあちゃんの煮物を思い出す。
また目がしょぼしょぼしてきた。おやつのあとの食休みか。思わず、くしゃみが出た。風邪でも引いたのか、ばあちゃんにうつしたら大変だ。
そこで早めに引き上げた。