ようかんを半分ぐらい食べたところで、飽きたらしい。耳かきしようか、と聞くと、今度は、ああ、と同意。ぐっさぁ(たくさん)あろう。ほら、こんなにあったよ。ほんなこつ(本当だ)。

右耳を探っているうちに、ばあちゃんの顔がゆがんだ。痛い? 肩の痛さぁ。左に大きくかしいで右首を伸ばすだけ伸ばしていたせいだろうか。右肩が痛いというので、なるべくまっすぐになるように、両脇に手を差し入れて体を立て直させる。どう? うん、と痛みのことなどすっかり忘れたような顔をしている。左の耳掃除。ぐっさぁ、あっどう(あるだろう)。ほら。ほんなこつ。

左にかしいでいることが多いのかもしれない。左のほうが耳も目も、かすがより多くたまっている。

濡らしたタオルで目のまわりをぬぐう。まつげにこびりついた目脂がかちかちにかたまっている。ふやかして少しずつ目脂をとる。ばあちゃんが、寒天をふやかして、冷や菓子を作ってくれたころのことを思い出す。

スタッフのお姉さんが入ってくる。こんにちは。ちょっと暑いかもしれないけれど、空気を入れ換えましょうね。窓の上方を開け、ドアが閉まらないようにし、廊下の窓も少し開け、簡易トイレを持ち去ると、おかげさまで、空気が入れ換わった。

うとうとしていたばあちゃんが、目を覚ます。目脂とも脂粒ともイボともしれないものが、目につく。タオルをもう一度しめらして、ふやかして、ぬぐうと、すっきり取れた。目を覚ましたついでに、顔や首筋を拭く。目には見えなかったような食べ物のかすや汁気がそこかしこについていたようで、美人になった。

すっきりしたでしょ。うん。

そしてまた、眠っている。

しかめたような目のあたりは、皺の数に違いはあるけれど、母に似ている。自分も顔をしかめたとき、こんなふうになるのだろうか。そういえば、妹もこんな表情をする。

行田市立忍中の男の子が書いたポスターのようなもの。名前、趣味、イラストなどを書いた下に、毎月がんばりますのでよろしく、とある。誰にあてて書かれたものでもなく、時候の挨拶もばあちゃんたちへの具体的なメッセージもない。これはいったい何だろう。

あ、痛〜っ。目を覚まして、今度は足の先が痛いと言う。靴下を脱がすと、左足の指の関節のあたりが、二三箇所赤くなっている。引き出しに入っていたオイラックスを塗って、これでどうでしょうと聞くと、うなずいて、また眠る。

とまもなく、足が痛いと言いながら、また靴下をずらして掻き始めた。痒いんでしょ? かゆいの〜〜〜。指の腹でこすると、落ち着いた。

しばらくすると、あ〜あとしかめるので、尻っぺたが痛い? と聞くと、今日はじめて笑いながら、尻っぺたの痛さ〜〜〜。さすると、ああ、便所に行きたくなってきた。便所はどこかねぇ。とそわそわし始める。もうずっとおむつだ。足腰が立たなくなったので、便器に座らせることもできない。そのままにしていていいよ、すぐに綺麗にしに来てくれる。ええっ、このまんまでかぁ〜、と言ううちに、だんだん臭ってきた。

どうなるんだろうねぇという哀しげな声をさえぎるように、廊下にブザーが鳴り始め、誰かの独り言が聞こえてきて、気がまぎれたのか、落ち着いた。

そろそろおむつ交換、そして、夕食だろう。

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