4月下旬、右目のまわりに青たん。
左目のあたりは赤たん。顔のはんぶんが、黄色い。
喧嘩でもしたの?
誰かに殴られたの?
ボクシングでもしたの?
去年の秋、激しい喧嘩をした相手が近くを通りかかった。
うちに帰りたいねぇ。どこにおるとかねぇ。そんなに遠いかねぇ。
でも、つうっとその道ば行くと、すぐじゃろ?
7月初旬。また転倒。
夜、トイレの前で転んでいたそうだ。
唇の内側も少し切ったのか、唇も腫れている。
額にバンソコ。痛そうだね、と言うと、
どうにかなっとるとかい?
8月初旬。大きなタンコブ。
左半分黄色。目のまわりが、青かったり、赤かったり。
段々に悪うなったったいねぇ。
器量も悪うなるし。
ばあちゃんの向かいにいる新しい同居者。
あれこれ雑談に花が咲く。
ふらっと入って来た、じいさん、一人。
物も言わずに、ベッドの回りを胡乱気に歩き回る。
よく来るねぇ、この男も。
女ばっかりのところに入って来て。
駄目だよ。薄気味悪い。
ちゃきちゃきの江戸っ子ばあさんが、
歯切れのいい言葉で、迷いこんだじいさんを追い出した。
なんばしよらすとじゃろかぁ、と言いたげに、
外へ外へと手を振るばかりの、ばあちゃんだった。
5月3日、文化の日。
実に実に真剣な顔で言う。
じぇんじぇん覚えとらん。
バカんごたる。
どぎゃんかしとる。
もうすぐ、死ぬのかなぁ。
誰だって死ぬけんね、まあ、早いか遅いかの問題たい。
えっ、わしは、90ってやぁ。そぎゃんなるとか。
じぇんじぇん知らんかったぁ。
6月初旬。
えっちゃん、今日来てる人、誰? ねぇ、誰?
8月、熊本から甥っ子がばあちゃんに会いに来た。
ヒデちゃん、来たんでしょ?
ヒデちゃんねぇ、思い出さんねぇ。
じいちゃんが死んで、数年熊本に住んでいた。
その時、ヒデちゃんと同居して以来、
ヒデちゃんの三人息子の長男が、
東京で所帯を持ち、母にその住まいの相談をしたり、
母が緊急入院して、ばあちゃんの面倒を見てくれるに至るまで、
深く長いつきあいだった。
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