- 「湯灌」
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亡くなってから二日目、葬儀の前日が湯灌となった。
湯灌というのは遺体を清めて衣服を着替えさせること。ようするに「おくりびと」。その後に納棺となる。地域によっては清めのために本当に入浴させるところもあると言うが、この地域では清めと言っても清拭するのみ。
午後からの湯灌に備えていつものように母親を病院に迎えに行き外出許可をとる。部屋を片付けて早めに昼食をとって、お茶の準備。実際つぎからつぎへと来る親戚を迎えてその度にお茶をいれて。。。滅多に使わない、普段は邪魔でしかない来客用お茶碗総動員だった。
古い家屋である実家の玄関は広い。一坪ほどの広さがある。その玄関が来客者の靴で一杯になった。
午後になりいつもの葬儀社の営業と、湯灌担当の女性三人が到着。この三人を私は密かに”納棺キャンディーズ”と名付けました(笑)(実際は森三中+ピンクの電話といったところか(笑))
清めの前の衣装替えは映画のようにみんなが見ている前で手際良く着替えさせてくれるわけではなく、着替えの間は部屋の襖を閉めて(鶴の恩返し状態ということ)人目に触れないところでの作業だった。うちの父親の場合は全然問題なかったと思うが、中にはあまり見せられない状態の場合もあったりするだろうから、そのための配慮なのかもしれない。または企業秘密か?
着替えが終わったところで一同が呼び集められる。このとき死装束の説明をしてくれるのだが、その”納棺キャンディーズ”のコンビニの店員のようないちいち「させて頂きます〜」の口調には碧壁。葬儀社というのがつくづくサービス業なんだということを実感した。
この地域では清拭のとき各人が木の皮を割いたような紐を左肩に通して行うのが慣わしらしい。後はアルコールを浸した布で体の出ている部分を拭くだけ。別にアルコールで消毒というわけではなく、速く乾くからといことだと思う。
湯灌が終わると棺が運び込まれて、家族や親戚数人で体を持ち上げて棺に収める「納棺」。葬儀社の指示に従い数人で遺体を棺に収める。
棺桶は相当立派なも。なんだか昔と比べてだんだん立派(豪華というべきか)になってきている感じ。何でそうなったかは言わずもがな(笑)。24時間もたたないうちに灰になってしまうのだけど。
今まで遺体を寝かせていた布団は有料で処分させていただきますとのこと。死んだ人が寝ていた布団を誰も使いたがらないだろうということなのだ。あちらも商売なので当然といえば当然なのだがとにかく何をするのにもお金がかかる。
後で葬儀費用の明細を見たら1時間程度の湯灌にかかった費用は”あのお札10枚以上”だった。
親戚が帰ったあと従兄弟たちと明日の葬儀の打ち合わせ。受付を誰にやってもらうのか、お礼はどうするのかという話。隣保班用の受付と長男の会社関係の受付と別々に必要なのようだ。結婚式でもそうだけがいずれこういうことも業者がやるようになるのだろう。
夕方にはまた母親にホカホカ弁当の夕食を食べさせて病院へ送り届ける。長男と相談の上、今晩は明日に備えて二人とも家に帰ることにする。
父親(棺)を残し、次男(私)は三日ぶりにベッドで寝る。明日はまた忙しくなりそうな一日で、明後日はマラソン大会だった(笑)