「お金がない!」

 何とか葬儀の段取りは決まった。最近の流行で通夜はやらないことにして翌日納棺、明後日告別式ということに決まった。
 費用として200万円近いお金がかかる。もちろん今すぐ兄弟にそんなお金はない(こともないのだけど(笑))。父親の残したお金をあてにすることになる。入院費のときも問題になったがお金がどこにあるのか全くわからなかった。父親のズボンのポケットからお札と小銭入れが見つかったことから、どうやら父親は普段財布を使っていないようなのだ。
 どうしたものかと思っているとここで意外なことに母親が役に立った。母親がしっかりと通帳のありかを知っていたのだ。
 それでもまだ問題があった。通帳があっても印鑑がわからない(笑)。我が家では昔から印鑑のおいてある場所はだいたい決まっていたので印鑑だけならすぐに見つかった。何個も(笑)。いろいろなことに使われた歴代の印鑑がすべて同じ場所に保管してあったのだ。
 最近の通帳はセキュリティのために通帳に印影が載っていない。そのためどの印鑑が使われているのか見当もつかない(後でわかったことだが印鑑は通帳ごとに違っていた)。
 長男曰く、全部の印鑑を持って行って全部試してみるという冗談にもならないアイディアがでたが、いくらなんでもそれはまずいだろうと次男(私)。従兄弟によると新聞のお悔やみ欄に名前が載ると口座を凍結されてしまうという話だ。何がなんでも今日中にお金を集めなければならない。
 書斎のそれらしい場所を探して印影の載っている古い通帳を二冊見つけることができた。一つはすぐ近所のJAだったのでとりあえず次男(私)がお金をおろしに行ってみることに。
 全額おろしても葬儀代には足りないが、それでも結構な大金だ。それに本人ではない。ということもあり、恐る恐る全額ではなく半分ほどの金額を下ろして見る。何か言われるのではないかと内心びくびくしていたが以外とすんなり下ろすことができた。一安心。
 ところがいざ帰ろうとしたとき、銀行の偉そうな人が声をかけてきた。焦った。悪いことをしているわけではないのだけど(笑)。どうもJAの人は父親が亡くなったことを既に知っていたようだ。以前親戚が勤めていたこともあり、その関係で知ったのだろうか?さすが地域密着のJAか。
 半分ほどおろしてみたもののこれではお金が足りず、今度は長男がJAの別の支店に行って貯金を下ろしに行った。さすがにもう一度同じ支店というのは行きにくかった。決して悪いことをしているのではないつもりだ。でも他人の口座だし。
 別の支店へ行った長男は、そこでは身分証明書、それも故人のものを要求されたと言う。近所ではないゆえか。
 次男(私)はもう一つの通帳を持って県下では名の通った地銀へお金を下ろしに行く。そこでほぼ全額を下ろそうとするが、大金のため窓口で身分証明書の提示を求められた。免許証を提示し本人ではない、本人は昨夜なくなくなったと言うと、しばらくお待ちくださいという事になった。上司らしい人と相談して結局相続の手続きをしないと下ろせないとのこと。
 こういうのは普段だったらセキュリティに配慮していていい事なのだろうと思う。しかしすぐにお金が必要ないまこの時は、なんて融通の聞かない銀行だろうと勝手な事を思う(笑)。
 窓口担当者が上司に相談していたところをみると完全に規則化はされていないのだろうか。もしかしたら泣き落としとかしたら下ろせたのかもしれないと思った。