「葬儀準備T」

 結局この時葬儀社の資料は見つからず、長男は一旦家に戻っていった。次男(私)は一旦アパートに帰り、簡単にシャワーを浴びてから戻る。このまま朝まで付き添うことにする。付き添うとは言ってもコタツに当たってテレビを見ているだけだったが(笑)。
 朝早くご近所のTさんが訪ねてきた。入院中から何かと心配してくれていたが亡くなったと連絡はしていない。従兄弟から話を聞いたのだろう。
 父親の顔を見て「まだ生きている見たいだね」といって、線香をあげて帰って行った。
 Tさんの家も一年ほど前に母親を亡くされていた直後ということもあり、この後も何かと面倒を見てもらうこととなる。
 そのうちに長男がやってきて、朝早くから従兄弟もきてくれたりと、これからおこなうべき”儀式”に向かって何かと忙しくなり始めたのだ。当然長男が喪主。いつの間に連絡したのか、母方の親戚も来てくれた。
 忙しくなり始めた長男に変わって次男(私)がまずやらなければならないことは、まだ父親が亡くなったことを知らない母親を病院に迎に行くことだった。気の重い役割だな〜。

 病院に行き母親に「ダメだった」と告げる。ところが母親は分かっているのかいないのか、多少の痴呆はあるとはいえ実に落ち着いたものだった。ちょっと気が楽になった。
 家に戻ると母親が帰ってきたと分かっているにもかかわらず何だか反応が薄い。なんだかそれどころではない感じ。Tさんご夫婦とTさんの紹介で葬儀業者が既に来ていたのだった。
 結局会員にになっていた葬儀社はわからず、Tさんの紹介でこの辺では割と名の知られている葬儀社に決めたようだった。
 ここで次男(私)は仕事先と会社に連絡。本当は休めるような状態ではなかったのだが、仕事先の責任者は大丈夫と言ってくれて、葬儀の日時や場所も教えて欲しいと。会社に電話をすると仕事のことは心配しなくていいからしっかり弔って上げてくださいといって、それ以外のことは何も聞かれなかったので、これ以上のことはないなと思った(笑)。

 父親と対面した母親は、やはり落ち着いたもの。そうはいっても入院の時点でこんなことになるとは思っていなかったと思う。いい程度にぼけていたのかもしれない。こちらとしては気が楽ではある。このあと告別式までの間、朝病院へ行って外出許可を取り、夜は食事をさせてから病院へ送り届けるという日々が続く。

 初めての「お葬式」の主催。祭壇だとか遺影だとかいろいろ決めること、やらなければならない手続きもあることだろう。
 長男と従兄弟、母親の甥、Tさんご夫婦、たいして役に立たない母親、もっと役に立ちそうも無い次男(笑)、そして葬儀社の営業を交えての打ち合わせとなった。
 この葬儀社の祭壇には「松・竹・梅」(実際はこんなコース名ではなかったはずだけど(笑))があって、松は結構な値段で、梅は安いが祭壇以外のもろもろの費用が全て実費となる。中間の値段の竹だとその色々なものが標準オプションとしてついて来るという値段設定。要するに竹を選びなさいということなのだろう(笑)。利益率がいいんだろうな、きっと。
 梅で”本当に必要なものだけ”を選んだほうが安かったかもしれないが、初めての事であり長男もそんなことを考える余裕はない。次男(私)としてはなるべくお金のかからない方向へ持って行こうとするが、喪主である長男は葬儀社のすすめる方向に傾いてしまう。
 不思議なのは初めてお世話になる業者なのにもかかわらず、もろもろの値段が会員価格であるということ。この会員価格の理由は後で判明する。
 祭壇に供えられる生花も10パーセントオフの会員価格。従兄は自分の分も含めて、他の親戚の名前で手頃な生花を注文するが、身内の次男(私)が同じ値段の物というわけにはいかず、ちょっと高いものを選ばざるを得ない(笑)のだった。
 それにしても葬式でよく見かけるあの果物と缶詰の詰め合わせというのは何なんだろか。何か意味があるのか?...。
 一番心配していた死亡届だが、これは葬儀社がやってくれるとの事。ふつうはもちろん有料だが竹ではコース料金に含まれている。また葬儀社の営業の人が、後で新聞社から「お悔やみ欄」の問い合わせがあるからとも言われた。