- 「深夜の大掃除」
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父親が亡くなった後、病院としては一刻も早く遺体を引き取ってもらいたいようだった。一応病院からも業者を紹介できますとのこと。いきなりこんなことになって他につてがあるわけでもなし、頼むしかない。
明日以降のことに備えて時間が時間でもありひとまず従兄弟には帰ってもらう。次男(私)は長男にアパートに送ってもらいスーツを着替えてから実家へ行き、遺体受け入れの準備をすることにして、その間遺体の引き取りは長男ひとりに任せることにした。
従兄弟がいてくれたので父方の親戚への連絡は大丈夫だろう。母方の親戚へはどうするかということになった。もう遅いので長男は朝になってからにしようと言う。こういう連絡はむしろこんな時間の方がいいのではないかと次男(私)は思ったりした。
長男が父親が以前何処かの葬儀社の会員になったと言っていたことを思い出したが、社名も覚えおらず、場所も近所ではないらしい。役に立たない情報だった(笑)
次男(私)は着替えてから実家へ向かう。実家の居間に続く寝室を片付けて父親を受け入れる準備をする。とにかくとりあえずその辺に置いてあるものは手当たりしだい押入れか別の部屋に”隠す”。片付けながら部屋をよく見ると意外と掃除がされていない。両親が入院以来一ヶ月ぶりとは言え結構埃がたまっている。母親はもともとかなりまめな性格だったので、掃除だけは行き届いているものと思っていたが、やはり歳をとるとこうなるのも仕方が無いことか。そういえばいつの頃からか、寝室も万年床状態であった。
掃除機をかけようとするが、この家の掃除機はなかなか使いにくい。吸い口の交換も見つからず細かいところが掃除できない。仕方がないのでアパートに戻って自分の掃除機を取ってくる。
一旦掃除を始めるとあちこちが気になってくる。多分ほとんど掃除をしていない床の間など、置物をどかすと埃だらけ。タンスの上も埃だらけだ。普段実家に来ても全然気にしないのに(笑)。
掃除の合間に台所でカップラーメンを発見。こんなときにもかかわらずお湯を沸かす(笑)私であった。お湯を注いで1口、2口食べながら掃除をしている最中に遺体到着。まだ一時間もたっていないのに(笑)
庭に大層な車が入ってきて葬儀屋か?もしかしたらただの搬送業者がもしれないが、タンカのようなものに載せた遺体を運び込む。我が家の宗教を知ってか知らずか(笑)何も聞かずに、布団を敷いて父親を北枕にして寝かせる。ドライアイスを置いて顔には布が被せられる。我が家では初めてだがいつもの姿だった。
ちなみに、車で五分もかからない病院から家まで遺体を運ぶのにかかった費用(料金)が五万五千円というのは安くない金額だと思った(そうはいっても自分で車に乗せて運ぶのは法律上できないらしい)。
長男が戻ってからさらに兄弟で部屋の大掃除が始まる。しかしこれはどちらかというと父親のためというよりは、これから大勢くるであろう弔問客のためである。少々汚れている方が年寄りの終のすみかとしてはらしいような気もするが、それよりも世間体に重きを置くのが我が家の家訓(笑)なのだ。次男(私)が見つけた以上に細かいところの埃を見つける長男。父親が横たわる中その回りを真夜中にもかかわらずガーガーと音を立て二台の掃除機が動き回る。ところがこの家の電力はたった二台の掃除機に耐えきれず直ぐにブレーカーが落ちてしまった。掃除機って意外と電力を食うものだ。
掃除機二台は諦めて、長男は不確かな情報を元に父親が会員だという葬儀屋の資料を探す。父親の書斎兼ほぼ物置のような部屋を探すがそれらしいものは見つからない。何とか町の業者というのを手掛かりにインターネットで検索して該当するいくつかの業者に電話をかけるが、深夜でコンピューターが使えないのでわからないとのこと。
線香立てを置く台もない。まさか”ダンボール箱の上にお盆”というわけにもいくまい。長男がどこからかそれらしい台を見つけてきが、これは本当は何なんだろう?
もろもろのこの場に"不要"なものを別の部屋に運び、押入れに押し込んで何とか体裁を整える。時間は朝の4時になっていた。