病院のセキュリティ

 翌週、平日の夜10時過ぎという時間に病院に行く。こんな時間でも病院の入口で誰にとめられることもなく、ナースセンターの前を通っても何も言われない。父親の部屋に出入りするのも自由にできた。面会時間は一応8時までのはずなのだが。
 家族としてはもちろん煩わしくなくていいのだが、セキュリティの面から考えたらいかがなものか。
 普段仕事の時は常に首からIDカードをぶら下げて、どこにいくにもいちいちカードをセンサーにかざして出入りしているものにとって、このフリーパスぶりは大丈夫なのだろうかと思う。大病院とはいっても所詮田舎の病院だからこんなものなのだろうか。日本特有の”何か問題が起こってからでないと対処出来ない”文化なんじゃなかろうか。こんなときだから家族としては世話が無くていいんだけどさ。この時は洗濯物(着替えたパジャマとか)を回収してそのまま帰宅。

 週末に今度は洗濯したものをもって病院に行く。容態は変わらず。
 この頃母親の分も含めた入院費が問題になってくる。老人医療費は基本的に無料だが、父親はこんな状態ということもあり個室なので差額ベッド料などの費用が掛かる。長男、次男(私)とも入院費を建て替えるほどの余裕はない。薄情なのではなく、そもそも父親はお金がないわけではないのだ。ただしお金がどこにあるのかわからないのだった。通帳がどこにあるのか、どこの銀行に預けているのかすらわからなかった。
 財布にキャッシュカードがあるだろうと考えて、父親の財布を探してみるが見つからない。もっともカードがあったところで暗証番号がわからないのだが、その前に財布そのものが見つからなかった。入院のときに持ち込んだ少ない荷物の中を探してみるが財布やお金は見当たらない。
 病院のセキュリティを考えると、もしかしたら盗まれたんじゃないかと一瞬考えたりもした。