父親の入院

 十二月中旬、父親が突然の腹痛で入院することになった。
 私は両親とは別に暮らしていて、週に一度様子見程度に実家に顔を出す程度だった。直ぐ隣に長男夫婦の家があったのでそれほど心配する必要も無かったのだ。もっともそのとき長男は単身赴任で隣県で一人暮らしてをしており、土日だけ自分の家に戻って来ていた。
 私が昼過ぎに実家に顔を出すと家には母親しかいなかった。父親が昨夜急に腹痛で苦しみだしたため、今朝になって長男に連れられて病院へ行ったとの事。
 しばらくして病院から戻ってきた父親は相当苦しそうではあったのだが、その日が日曜日ということで入院ができず、とりあえず点滴をしてなんとか我慢をしていた。
 それからはあわただしく翌日の入院の準備が始まり、私は入院用の買い物に薬局・スーパーを回った。まあ両親とも入院は初めてではないのでだいたい何を用意したらいいかはわかっていた。
 しかし一つ大きな問題があった。父親を入院させるとなると、母親のことを考えなければならない。
 母親は毎日インシュリンを注射しなければななかったのだが、どうも最近それが一人では危ういようなのだ。薬の量とか、時には注射をしたことを忘れてしまうことがあるという。そのため以前から父親がすべてそれらの面倒を見ていたのだ。
 長男は実家のすぐ隣に家を構えているものの、現在は妻・子供を置いて隣県に単身赴任中。次男(私)は実家から多少離れたアパートに一人暮らしで、仕事は都内まで通っていた。両親とも二人で生活するには全くなんの問題なかったので、すべて任せきりにしていたのだった。それがいざ父親がいなくなるというと母親の面倒を見られる人がいないのであった。
 そのため本当は必要ないのだけれど、(無理やり)母親を入院させることにした。以前から何度か入院をすることはあったのだが、しかしこれは母親本人ではなく病院側の問題である。はたして入院の必要の無い人を入院させてくれるのだろうか。以前も入院したことのあるその病院に頼んでみるしかない。父親が入院するのと同じ病院ならよかったのだが、母親のかかりつけは少し離れた別の病院だった。
 結局息子が二人居ても何の役にも立たないのであった(笑)
 ちなみに実家の隣に住む兄嫁はもろもろの事情により一切使用不可(笑)

 結局長男が付き添い二人を入院させることになった。私はとても仕事を休める状態ではなかく過去の入院時も一度も立ち会ったことが無かったので、こういうことには全くなれていないのだった。
 翌日午前、長男に連絡を入れて父親の様子を聞くと結果は”腸閉塞”ということで、最低年内一杯は入院生活だろうという程度のことだった。母親も何とか入院させることが出来てやれやれと思っていた。

 ところが夕方になり、帰りの電車の中で突然電話が鳴った。長男からだった。電車の中では聞き取りにくいし満員でもあったので帰ってからかけ直そうかとも思ったが、今頃何事かという不吉な予感もあったので電話に出ると、父親が急遽緊急手術が必要との話。なんでも体内のカリウム濃度が高く、非常に危険な状態であるという。
 満員電車の中であまり立ち入った話はできなかったのだが、医者から万が一の時は覚悟してほしいと言われ、緊急手術とかいう話になったらしい。しかし今日いきなりそんな手術をするかは決断できず、親戚(従兄)にも来てもらって話し合った結果、ひとまず今日は様子を見ることにしたらしい。
 長男は、翌日はどうしても仕事に出なければならないので、明日私に手術の立会いをして欲しいとのこと。なんと、いきなり万が一のことが起こりうるような手術の立ち合いをしなければならなくなってしまったのだった。
 やむ得ずその晩仕事先の責任者に連絡をして、明日は休ませてもらうことにした。万が一のことが起こった場合は数日間休まなければならなくなり、現在の仕事の進捗を考えると離れるのが難しい時期でもあった。会社にも連絡をしてもしもの時には現在の作業を中断するようなことになるかもしれない旨連絡を入れる。幸い仕事の方は心配しないでも客先と話をつけてくれると言ってはくれたのだったが。

 翌日朝、覚悟をきめて病院へ行く。長男から聞いた番号の病室に入ると、腸閉塞のためか管を使って排泄物を取り出している様子。しかし前日緊急手術とかいいっていた割には緊迫感がなく、父親も意識ははっきりしていた。あれ?(笑)
 長男の連絡が中途半端で、てっきり今日一番に手術をするのかと思って看護師さんに聞いてみたら、どうもそうではないらしい。ちょうど昨日も来てくれていた親戚(従兄)が来てくれたので、担当医に改めて説明をしてもらおうということになった。
 その担当医がなかなか見つからず、やっと捕まえて説明をお願いする。パソコンのある担当医の部屋で説明を受ける。いろいろな検査結果がディスプレイに表示されるが、もろもろの数値が良くないらしい。腎臓の数値も悪く、場合によっては透析が必要になるかも知れないとも言われた。また年齢を考えると、高齢者の手術は特に足に来るので術後歩けるようになるかどうかも難しいらしい。手術は必要だが、年齢を考えるといずれにしても危険であるということだ。
 結局このままでも危険な状態は変わらないので、やはり手術をうやりましょうということになった。
 結果、次男(私)がもろもろの書類にサインをすることになった。万が一のことを考えると”俺(次男)のサインでいいのか”と思いつつサインするのであった。
 おまけに今日は手術予定がが立て込んでいるので、父親の手術は午後以降になるとのこと。緊急手術という話はなんだったんだ?(笑)