「…やるわ、私」

 操縦棹を握るアスカの両手に力がこもる。知らず汗ばむ両の手。小さな白い手。静寂。全身の発条を撓め、真紅の獣が今、優美な跳躍をせんとした、まさにその時、甲高い電子音がエントリープラグ内に響いた。着信の合図だ。

「アスカ、聞こえる?
 すぐにシンジ君と合流して、初号機の元へと急いで頂戴」
「!」

 衝撃が物理的な痛みを伴って全身を貫き、数瞬遅れて憎悪の炎が身を焦がす。小さく口を開くが、言葉が出てこない。
 なにを言ってるの、ミサトは。
 世界が色を失い、ひび割れていく。
 シンジだけいればいいって言うの?
 私なんていなくてもかまわないって言うの?
 私は、私はあっ……。

 神経網に激流が走り、やり場のない憤りが少女の視界を白く染めた。


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