知らず零れ落ちた言葉は小さな波紋となって唇から広がり、ゆらゆらと漂う美しき金色の髪を揺らす。そして、それは何時の間にか握り締めていた右手や壁にぶつかって消え去った。
 淡い光に包まれたエントリープラグインテリア。その中でセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーはゆっくりと二度瞬きを繰り返す。
 どうしようもなく隔絶された世界の中で外界へと開いた唯一の窓。電子の輝き。その中に映る真白き羽根を持つ白きモノたち。ふわりと宙を舞い、弐号機の頭上を舞い巡る。

天使、テンシ、展翅。
天の喇叭
【ラッパ】を吹き鳴らす。

 死の翼をその背に、永久機関をその身の裡に。

永遠って、なに?
 悪魔に魅入られたかのように幼く見えるアスカの横顔。白く太い線が地上へと軌跡を結ぶ。立て続けに起こる重い着地音。悲しいほど小さな血煙が吹き上がる。踏み潰され、原形を失い、肉塊と化す戦自隊員たち。翼を持つモノと持たざるモノとの間の深い間隙。天から地へと舞い下りる天使はやはりみな堕天使なのだろうか。
 やがてー
 ゆっくりとアスカの口元が動いた。柔らかな唇からピンク色の舌がのぞき、唇をなぞる。上唇を左から右へ、下唇を右から左へ。濡れた粘膜が光を散らす。キッと見上げるアスカの瞳。その意志力。そのカリスマ。その気高さ。
 アスカの頬をバッテリー残存時間表示パネルの光が照らしている。

3:52

 見ていて、ママ。バカシンジなんかとは違うってことを見せつけてやるんだから。私だけでも充分に闘える。充分役に立ってみせる。だって、私にはママがついていてくれるもの。だから、見て。私を見て、ママ。


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