少年法は、非行のある少年に刑罰を課すためではなく、保護するための法律である。「少年の健全育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行なう」のである。
非行少年は、性格と環境の両面で問題があり(悪い子供であると同時に、かわいそうな子供である)、成人犯罪者と比べて立ち直る可能性が高いとされている。非行観には、他人に迷惑をかけるという意味での「侵害性」(侵害原理)と、少年自身を傷つけるという意味での「自損性」(保護原理)の対立があり、どちらを重視するかによって、その取り扱いが異なってくる。
少年法は犯罪・触法・虞犯の三類型を非行とし、それぞれ犯罪少年・触法少年・虞犯少年を「非行少年」と定め、それに対する特別の取り扱いを定めている(1・3条)。実体法として、犯罪=刑罰、非行=処分(制裁措置)の図式を否定し、要保護性に応じた処遇を要求する。少年法は福祉法の全法体系の中で、特に非行のある少年に対する福祉を実現するための法律である。
家庭裁判所が少年事件を受理すると、その事件は保護事件として、少年法が定める手続き(少年保護事件手続)に従って調査・審判過程が進行することになる。ここで当該少年に別の犯罪事実・虞犯事実が判明した場合に、同一保護事件として審判の対象となるのか、または不告不理の原則(刑事訴訟法247条)により改めて立件しない限り審判の対象とはならないのかが問題となる。
少年保護事件手続には不告不理の原則の適用があるべきだが、適用の前提となる「事件」の概念が問題となる。調査・審判の対象は非行事実と要保護性である。どちらも事件の特定に密接にかかわっていることから、不告不理の原則は当該少年だけでなく、その少年の個々の事実にも適用される。
従って少年法7条1項の趣旨は、別の非行事実が発見されても本項の報告によって立件しない限り、審判の対象とされないと解すべきである。非行事実が犯罪であった場合は、捜査機関に通報して正式な送致手続によって受理するのが適当であり、虞犯の場合は本項の報告により正式に受理すべきである。
対象者(少年)が「非行のある少年」であるか否かの判断(非行事実存否に対する判断)は、裁判官の法律的判断に基づき、そのための資料収集活動を「法的調査」という。家庭裁判所調査官の「社会調査」も非行事実についての調査を行なうが、これは非行発生のメカニズムを知ることによって少年の要保護性を判断するためである。
法的調査は非行事実の存否を法的に認定するために資料を収集するので、社会調査とは性格が異なる。社会調査は人格調査の性格も持ち、少年や関係者との信頼に基づくものであるから、その調査が非行事実の存否を認定するために行なわれてはいけない。
裁判官はまず、事件受理の段階において手元にある法律記録および証拠物の調査に基づいて非行事実の存在を認定するのが合理的であると思料するときは、その判断により観護措置を決定したり調査命令を出したりする。この、非行事実の存在を認定するのが合理的であるか否かの判断が蓋然的心証である。社会調査が開始されていても、否認事件を含め、非行事実の存在に疑問がある場合は非行事実認定の手続きを先行させなければならない。
家庭裁判所は法的調査によって、非行事実の存在(非行のある少年)を認定する。要保護性は、そうした少年に対して少年が非行を克服して成長発達をとげるために、どのような援助(処遇)を与えたらよいか、という判断の材料となる。要保護性に関する調査は家裁調査官が行なう「社会調査」の形式で行なわれ、その性質は「人格調査」であり「科学調査」である。また、ケースワーク機能としての面もみられる。
要保護性は、もともとは保護の必要性を示す広い概念である。少年法における要保護性概念の中心となる要素は「犯罪的危険性」(累非行性、非行反復性)である。通説では、これに矯正可能性、保護相当性の二つが加わっている。
しかし非行事実の軽重や、その社会的影響という判断要素は要保護性という概念に適応しない上に、保護処分の要件としての客観性を欠く。家裁調査官の科学調査の対象である要保護性を「評価概念」とすることには問題がある。
要保護性は、審判条件・非行事実と共に保護処分決定の要件の一つである。その要件としては、証拠の優越の程度の確信の心証が必要である。その概念については、保護処分を言い渡すための実質的要件となる。一般的には、保護処分以外の終局決定は要保護性がない場合に行なわれる決定であると理解するが、一方で「要保護性の程度」が問題とされるという問題が存在する。
「試験観察」とは少年法25条に定める「家庭裁判所調査官の観察」のことであり、保護観察とは別のものである。家裁が少年を保護処分に付す蓋然性は認められるが、終局処分の決定を相当期間猶予し、家裁調査官に少年を観察させ、あわせて助言・補導等の措置を講じ、反応をみた上で終局決定を行なう中間的措置である。
試験観察制度は、欧米先進諸国の少年司法制度発展の原動力となってきた「プロベーション」と共通する。プロベーションとは「最終処分留保による心理的効果を利用して、指導・監督を行ない、心理強制によって保護・更生の意欲を高め、社会復帰を効果あらしめようとする措置」である。現行少年法の保護観察は終局処分であるから、プロベーションの本質に欠ける。
試験観察とプロベーションの違いとして、試験観察は試験的・中間的処分として長期にわたることができないため、処遇として徹底させる上で制約が伴うことが挙げられる。試験観察制度は終局決定のための資料収集を目的とする調査活動の一部であるが、同時に調査活動自体が処遇としての効果をあげることが期待されているという独自性を持つ。
検察官送致には、年齢超過を理由に行なわれる形式的検察官送致と、少年の非行事実と要保護性を検討し刑事処分相当と認めた上で行なわれる実質的検察官送致とがある。実質的検察官送致とは、家庭裁判所は死刑・懲役・禁固にあたる事件について調査・審判の結果、罪質・情状に照らして刑事処分相当と認めるときは検察官に送致しなければならないが、これを「20条送致」または「逆送」という。
この決定は実体的裁判であり、審判条件の他に形式的要件と実質的要件が必要である。16歳に満たない少年は除かれるが、決定時において16歳以上であればよいので、犯行時に16歳未満でもかまわない。ただし、14歳未満の行為は犯罪にならない。
官憲側の肯定的証拠による蓋然的心証があればよいとするのが多数説であるが、少年の要保護性に応じた終局処分の一つであると考えるならば、否認事件を含めて非行事実の存在について合理的な疑いを超える確信の心証がなければならないとするべきである。
刑事処分相当性には、二つの見解がある。その対立の根源は「罪質及び罪状に照らして」という法文が示している判断基準にある。刑事処分相当の判断は行為法的判断を基礎に行なわれる。それには、行為法的概念と要保護性の概念の関係の理解が必要である。
通説には、保護処分による保護不能ではないが事案の性質・社会への影響等から刑事処分に付す方がより相当であるとする立場と、保護処分を優先し保護不能の場合に限って認める立場とがある。
実務においては「罪質及び情状に照らして」と規定されていることや、社会防衛や一般予防の見地から、保護不能に限らず少年の年齢や事案の大小に応じて検送が行なわれている。また、必らずしも刑事処分選択が重い処分とみなされているわけではない。
しかし、通説的見解と運用に対しては、それが通常の刑事事件について検察官が行なう起訴相当の判断とどこが違うのかという問題が存在する。家裁が先議する意味は、少年の要保護性に基づいて行なわれることにある。
少年の健全育成という少年法の目的は少年法20条においても認められるべきであるから、実質的要件として「保護不能」の他に「保護可能だが保護不適」(=保護相当性の欠如)という要件は認められない。ただし、社会感情が少年の社会復帰を妨げる要因になる場合は、少年の利益を考慮して検察官送致を行なう必要がある。