まずはじめに、現行少年法は、福祉法の全法体系の中で特に非行のある少年に対する福祉を実現するための法律である。そして実体法としての少年法は、犯罪=刑罰、非行=処分(制裁措置)の図式を否定し、要保護性に対応した処遇を要求する。故に、罪を犯した少年に対しても、刑事処分よりも保護処分が適当であると判断すべきである。しかし、凶悪犯罪に対しては以下のような対応が規定されている。
年長少年(18歳,19歳)の凶悪犯(殺人,強盗,放火,強姦)は、少年法第3条1項1号により、「犯罪少年」と規定される。同法20条により家庭裁判所は、保護処分よりは刑罰(刑事処分)が適当と判断される場合は、家庭裁判所の決定により事件を検察官に送致し刑事裁判にかけることができる。この場合、少年が16歳以上であるため20条の但し書きは適用されない。
具体的には、家庭裁判所先議・保護処分優先主義によるため検察官または司法警察員から家庭裁判所に送致され(41,42条)、家庭裁判所においては原則として保護事件として処理する。ただ例外的に、検察官送致決定のとき16歳以上の少年の犯した死刑・懲役・禁固にあたる罪の事件についてだけは、調査の結果刑事処分が相当と判断した場合には、これを検察官に送致する(20条)。検察官は、家庭裁判所から送致を受けた事件については原則として公訴を提起しなければならないとされている(45条5号)。
また捜査の結果、罰金以上の刑にあたる事件は、すべて警察から家庭裁判所へ直送され(41条)、禁固以上の刑にあたる事件は検察官に送致され(刑事訴訟法246条,犯罪捜査規範207条)、犯罪の嫌疑があると思料されるものは、すべて家庭裁判所に送致される(42条[全件送致主義])。検察官に送致された事件について、事件当時18歳未満であった場合、死刑相当なら無期刑に緩和される。ただし、18歳と19歳の年長少年には、その保護規定がない。
少年の刑事事件は少年の保護事件に対応する概念だが、家庭裁判所に事件が受理されるまでの「発見過程」における少年の犯罪事件(捜査中の少年事件)をも刑事事件としている。少年保護事件の目標は保護処分を中心とする少年保護の方法を決定することであり、少年刑事事件の目標は家庭裁判所が調査または審判の結果、刑事処分が相当と判断して犯罪少年の事件を検察官に送致して刑事処分を適用することである。
家庭裁判所は刑事処分相当と判断される場合に、16歳以上の死刑・懲役・禁固にあたる罪を犯した少年を検察官に送致するわけだが、家庭裁判所の行なう刑事処分相当性判断が、刑事事件について検察官が行なう起訴相当の判断とどこが異なるのかという疑問が存在する。家庭裁判所が先議する意義は、保護処分その他の処分を選択する場合と同様に、人格主義的判断を基礎において、調査に基づいて把握した少年の要保護性に基づいて、多様な処遇手段の中から対応するものを選択できることにある。
# 1994/08