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高畑勲・大塚康生・叶精二・藤本一勇 著
「王と鳥
 スタジオジブリの原点


発行:(株)大月書店
大月書店 新刊案内
ISBN:4-272-61219-0
本体価格:1500円
96ページ(カラー32ページ)
2006年8月2日発売


高畑勲・宮崎駿に影響を与えたフランスアニメーション映画の傑作

気をつけたまえ。
この国は今、罠だらけだからな。

フランスの国民的映画監督ポール・グリモーと
『天井桟敷の人々』のジャック・プレヴェールの
ファンタジーが現代へ放つ警告。


『王と鳥』監督ポール・グリモーの言葉

私たちは私たちの最もしあわせな夢々に生命(いのち)を与えることができますが、その一方で、私たちのもろもろの悪夢が現実にならないために、できる限りのことをしなければならないと思います。
私はいつも私たちの映画を見てくれるであろう人々に思いをはせます。私たちが彼らに言おうとしたことのすべて、私たちが種を播いたすべて、それらは映画が終わって灯りがともった時に、あとかたもなく消え去ってしまうものではありません。一本のフィルムに終りはないのです。まさに観客の心のうちでこそ、それは歩み続け、種がひとつでもあれば、その種が芽を出しはじめるのですから。


フランスアニメーション映画の傑作『王と鳥』(監督:ポール・グリモー 脚本:ジャック・プレヴェール、ポール・グリモー)。高畑勲の字幕で2006年スタジオジブリ洋画提供作品として日本初公開されるこの映画の魅力、その歴史的な影響、作品に込められた意味など、映画『王と鳥』をより楽しく、より深く知るための1冊。映画『王と鳥』からの画像をふんだんに使ったあらすじや、グリモー監督手描きの『王と鳥』イメージスケッチ・絵コンテも多数収録。『王と鳥』に登場する王様の演技のおもしろさを大塚康生が解説するページでは大塚による描き下ろし王様イラストも多数掲載。

この本のタイトルにもなっている『王と鳥』は、1979年に完成したフランスのアニメーション映画。この映画は、1955年に日本でも公開された『やぶにらみの暴君』の改作(監督、脚本は同じくグリモーとプレヴェール)。この本は、2006年に高畑勲の字幕、スタジオジブリ洋画提供作品として、『王と鳥』が日本で初めて公開されるのを機に刊行される。

【目次】
 『王と鳥』監督ポール・グリモーの言葉
 『王と鳥』あらすじ
 『王と鳥』と日本人の特別な関係          叶 精二
 登場人物の寓意 タキカルディ王国にしないために  藤本一勇
 初めて人間の内面を描いたアニメーション      大塚康生
 考えを触発してくれる映画『王と鳥』        高畑 勲
 映画『王と鳥』情報


参考資料:2006年6月19日付「東京新聞」「こちら特報部」欄

仏の長編アニメ『王と鳥』  罠だらけ日本映した“予言”

 たかはた・いさお 1935年10月、三重県生まれ。日本のアニメ界を黎明(れいめい)期から支えてきた監督。代表的な監督・脚本作品に「じゃりン子チエ」「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」などがある。2004年10月、山田洋次監督らと護憲団体「映画人九条の会」を発足させた。

 ナチスから解放直後のフランスで作られた長編アニメ映画「王と鳥」(ポール・グリモー監督、ジャック・プレベール脚本)が来月下旬、日本で劇場初公開される。日本のアニメ界を代表する宮崎駿、高畑勲両監督の“運命”を決めた作品だ。キャッチコピーは「気をつけたまえ。この国は今、罠(わな)だらけだからな」。字幕翻訳を担った高畑監督は「この作品の警鐘は現代社会にも通じる」と話す。
 この作品を見た多くの人たちは「どこか、すっきりしない」と感想を漏らす。というのも勧善懲悪ではなく、お涙ちょうだい、またはヒーローものでもない。いわゆる左翼や反ファシズムの宣伝映画とも趣が異なる。
 「それがこの映画の最大の魅力だ」と高畑氏は言い切る。同氏は1955年、日本で未完成版が「やぶにらみの暴君」のタイトルで公開されて以来、この作品に取りつかれたという。
 「日本でヒットする映画の大半は観客が主人公に寄り添い、難局を切り抜け、最後はハッピーエンドで涙を流す。だが、そういかないのが現実の社会。現実を見つめる、客を突き放すのが、この作品。単調でない別の感動があるんです」
 グリモーらがアンデルセン童話の「羊飼いの娘と煙突掃除人」にヒントを得たというあらすじはこうだ。
 舞台はある王国の高層宮殿。王は孤独な独裁者だ。王の寝室には自らの肖像画と羊飼いの娘、煙突掃除人の青年の三枚の絵がある。
 王は絵の娘に恋をしていたが、ある夜、絵から抜け出た娘と青年は手を取り合って寝室を脱出する。肖像画の王は二人を追おうとするが、騒ぎで目を覚ました本物の王を落とし穴に落として、当人になりかわる。

■完全版劇場初公開 ジブリの原点

 娘と青年は指名手配され、警官や中層市民までもが追う。二人は味方の鳥に誘われ、階段を下り続け、太陽のない下層社会へ。そこで王に飼われていたライオンたちを鳥が引き連れ、逆襲に出る。王が操作する巨大ロボットを乗っ取るが、ロボットは宮殿を破壊し、廃虚でロボットが考え込むシーンで幕が下りる。
 作品制作の道のりも平たんではなかった。脚本を手がけたプレベールはシャンソンの「枯葉」でおなじみの国民詩人で、映画「霧の波止場」「天井桟敷の人々」の脚本でも知られる。
 しかし、47年に始まった制作は4年を経ても完成せず、費用も底を突き、プロデューサーは監督、脚本家の承認を得ぬまま、別スタッフで「やぶにらみの暴君」として発表。67年、グリモー監督が権利とネガフィルムを取り戻し、79年にタイトルも「王と鳥」に変え、完成させた。
 若い日にこれを見た宮崎駿監督は「最も影響を受けた作品」として評価、高畑氏も「もし、これを見なかったら、漫画映画の道に進むことなど、思いもしなかった」と振り返る。二人が属するスタジオジブリの原点と評されるゆえんだ。
 手法の魅力の一端を高畑氏は「高層宮殿と下層を階段で結ぶ構造の単純さと現実を表す詳細さ」と話す。
 「垂直の単純な構造は、いまの格差社会や米国のグローバリズムにも通じる。その一方、善玉の鳥がライオンを手なずけるのに詭弁(きべん)を弄(ろう)する。これも現代史を鮮明にしてはいないか」
 半世紀前に異国で制作された作品でありながら、高畑氏は現代の日本にも通じる点をこう指摘する。
 「作品を見る大半の人たちはおそらく社会の中間層の人たちだと思う。ただ、その位置を人々は普段は意識していない。でも、この作品はいまの縦型社会のどこに自分が位置しているかを自覚させる。かわいそうな青年と娘を懸賞金にひかれて追いかけ回す、というその体質まで含めて」

■「萌えブーム」到来も予告?

 さらに独裁者の王の姿にいまの日本人の精神性が映し出されているとも言う。
 「王は気に入らない者をすぐ落とし穴に落とす。そして、絵の中の女性だけを愛す。王の性格はコミュニケーションがとれず、異論を唱える人にはシカト(無視)しがちな日本人の姿に近い。それに絵の中の女性だけ、なんていうのは昨今の『萌(も)え』ブームにもつながっているのでは」
 作品はハッピーエンドで終わらない。「やぶにらみの暴君」と「王と鳥」の最大の違いは、この最後のシーンにあった。監督、脚本家の意思はこの部分へのこだわりにあったといっても過言ではないだろう。
 二人が異を唱えた「やぶにらみの暴君」のラストシーンは王が吹き飛ばされ、青年と娘、他の登場人物たちが仲良く記念撮影しようとする場面で終わる。だが、「王と鳥」では、廃虚とがれきの山に、ロダンの「考える人」のポーズで腰を下ろすロボットの姿で終幕している。
 高畑氏は「途中でも、鳥に導かれ蜂起したライオンたちを下層住民が『鳥たち万歳!』と歓呼する。これが政治のリアリズム。しかし、その中で一人の老女だけが正体を見抜いている。これもリアリズム。二人がハッピーエンドにしたくなかったのは、現代史の諸問題が解決されたように見せることに耐えられなかったからだろう」と解説する。
 高畑氏は自らの戦中、戦後経験に照らして、こう指摘する。「戦争(太平洋戦争)が終わったのが九歳のとき。住んでいた岡山もこの作品同様、大半が焦土でした。でも、その悲惨は同時に再建の前提だった。民主主義や平和憲法は新鮮だった。それがいま再び、逆回りして社会は重苦しい」
 独裁者が倒れても、それだけでは解決しないのが世界の実相だ。作品は「不条理」を描こうとしたのか。
 「見かけは不条理かもしれない。でも、作品からはそんな世界に対し、どんな姿勢を私たちが取るべきなのか考え続けるべきだ、というメッセージを受け取った」と高畑氏は語る。
 フランス哲学に詳しい東京大学の高橋哲哉教授は作品の感想をこう話す。
 「最初、画面の王宮をみて、都庁によく似ていて驚いた。その王宮の崩壊は、9・11のツインタワーの破壊、ソ連の崩壊、ヒルズ族の敗北など、いろんなものに例えられると思う。他者の犠牲の上にそびえる楼閣の危うさが示されている」
 さらにがれきで考えるロボットの意味について、高橋氏は「例えば、資本主義が勝利し、社会主義が負けたと言われた。でも、現実はそう単純ではない。抑圧の象徴である王宮を壊すことに意味はある。だが、人々ががれきの上でどう生きていくのか、その問いの重さこそ大切だ」と語る。
 作品は来月29日から東京・渋谷のシネマ・アンジェリカで公開され、ほぼ同時期、
「王と鳥 スタジオジブリの原点」(大月書店)が出版される。
 グリモー監督は生前の85年、広島での国際映画祭でこう語ったという。
 「私たちの諸々(もろもろ)の悪夢が現実にならないために、できる限りのことをしなければならないと思っています。(中略)一本のフィルムに終わりはないのです。まさに観客の心の内でこそ、それは歩み続け、種が一つでもあれば、その種が芽を出し始めるのですから」

<デスクメモ>
 映画人九条の会結成集会で、高畑氏は「泣ける映画」しか大ヒットしない現状と、戦時中の国民の精神状態との相似性を指摘する。「(観客は)ひたすら主人公を応援し、気持ちよく感動したがっている。目覚めた知性や理性はその『感動』の前には無力だ」。「主人公」が再び「国」になった時の危うさは。(透)


●各新聞・雑誌掲載 書評

「教職課程/10月号」(協同出版)2006年8月22日発行「BOOKS & DIALY」欄

幻の名作の寓意を読み解く

 今夏、華々しく宣伝された『ゲド戦記』のかげで、もう一つのスタジオジブリ提供アニメーション映画が公開された。それが本書のタイトルであるフランス製アニメ『王と鳥』(監督・ポール・グリモー/脚本・プレヴェール)である。この作品は1952年に『やぶにらみの暴君』として公開されるや高く評価され、日本でも高畑や宮崎駿に大きな影響を与えた。ところが、このヨーロッパ・アニメの名作は実は興行上の理由から未完成のままグリモー監督と脚本を担当した詩人プレヴェールの許諾を得ないで公開されたといういわくつきの作品だった。その後、グリモー監督が作品の権利を取り戻して1979年に完成させた完全版が、今回公開された『王と鳥』である。この名ばかり有名で実像の知られていなかった幻の名作を多角的に読み解くガイドブックが本書。
 冒頭カラー図版によって『王と鳥』のあらすじが紹介され、ジブリ作品を語らせるならこの人といわれる映像研究家の叶精二が、この作品が後のアニメーション文化に与えた影響を解説。続いて哲学研究、藤本一勇が作中人物の寓意を明らかにする。アニメーターの大塚康生が技術面の解説を行い、最後に『王と鳥』日本公開に当たって字幕も手がけた高畑勲が演出面の特徴を分析しながら日本の観客へのメッセージを語る、という、まさにいたれりつくせりの一冊である。ディズニーとそのまねごとに食傷気味のファンには、映画ともどもぜひお薦めしたい。

「日刊ゲンダイ」2006年8月25日付(24日発行)「新刊あらかると」欄 

 「その頃、私はタキカルディ王国の大宮殿のてっぺんに巣を構えていました。当時、王国に君臨していたのは、シャルル16世。良い王ではありませんでした……」
 「王と鳥」は1979年に完成したフランスのアニメ映画で、55年に日本で公開された「やぶにらみの暴君」の改作。若き日の高畑勲、宮崎駿に影響を与えたといわれる。7月にスタジオジブリが初めて劇場公開した本編の解説、登場人物に込められた寓意などを紹介。


「シネ・フロント」347 2006年8月合併号



●「王と鳥」公開記念 大塚康生氏特別インタビュー●

映画「王と鳥」公式URL
2006年7月29日公開

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