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「もののけ姫」が大ヒットした根拠

文責/叶 精二

※このレジュメは97年10月8日、「毎日新聞」学芸部記者某氏の取材に際して用意したものです。取材の要請内容は「もののけ姫」のヒットした要因について考えを聞かせて欲しいというものでした。記事は10月24日「記者の眼」欄に掲載されました。


1. 表層的な現象
 a.「50億円効果」タイアップ宣伝の効果
・製作費と宣伝費の完全分離、「乗り合わせ」の特殊な宣伝体制
・テレビメディアによる重複宣伝、過去の作品放映、特番ラッシュ(NHKも)
・日本生命の試写会展開(一般試写会総体の数は少ない)
・ブエナビスタの低価格ビデオ連続発売
・膨大な雑誌関連記事の掲載
 b. 宮崎作品の浸透、普遍的潜在的期待の効果
・テレビ放映、ビデオによるファンの拡大
・ファミリーピクチャーとしてのブランド化、キャラクター商品展開
・支持世代の多層化、子連れで親も楽しむ
・女性観客層(主婦層を開拓)の圧倒的支持
 c. リピーター
・繰り返しの鑑賞に耐える魅力
・口コミ展開(ハリウッドなど他作の貧困)
・違う人を連れて見に来る―「変移性集団顧客構造」
 d. 興行の活性化
・鈴木プロデューサー戦略による信頼と実績(スタート時で260館確保)
・都市対地方の成績の逆転現象(反応も違う?)
・地方興行館の頑張り

2. 内在的な現象(※重要)
 a.“同時代性”の捕捉―現象感応
・生命論(具体的には―神戸小学生殺傷事件、通り魔、ウサギ殺しなど)
・病者(具体的には―ハンセン氏病、AIDS、アトピーなど)
・環境保護(具体的には―諌早干潟、豊島産廃、長良川河口堰など)
・考古学、歴史学的発見(とことん暗い現実とのギャップを埋める?)
・政治的・経済的・精神的な“閉塞感との共存”という励まし的提言
 b. 期待はずれ―予定調和・精神感応の拒否
・アニメファン、映画ファンの期待を裏切る(価値感の相対化、感情移入拒否)
・「動き」ショック(「リミテッド・アニメ」慣れした特殊な感性)
・反オタクが普遍性を産む(オタクが基軸にならなかった→AC、アパシー)
 c. 遅効性の感動
・即効性の感動作―「ナウシカ」「トトロ」との決定的差異(反発派の論拠)
・多義性―反芻する“ひっかかり”シーンの洪水
・錯綜型の伝統(「市民ケーン」「天井桟敷の人々」「2001年宇宙の旅」など)
・解釈、論評(多くは低レベルの無責任評)の効果?

3. 作品そのものの力(詳細省略)
 a. 思想性
(1)縄文文化―照葉樹林文化
(2)アニミズムと汎神論
(3)“失われた可能性”(室町中期、蝦夷、タタラ製鉄、石火矢)
(4)その他
 b. 技術面(世界アニメーション映画誌上空前絶後の規模)
(1)キャラクターの緻密な演技
(2)非擬人化動物の演技
(3)すさまじい群衆シーンの描き分け
(4)ロングショットの多用(空間の創出)
(5)豪華な新技術(デジダル合成、自然なCG、トーンシェーダー)

1997.10.8.


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