番外1 BLiTZを作りたかった人たち


 戦場のヴァルキュリアの二大看板の一つが、ゲームシステムのBLiTZですが、私が始めにこのゲームのプロモーション映像を見たときに、このゲームにこのシステムがあれば…と思わせる、別のゲームがありました。

 結構有名なのでご存じの方も多いでしょう。工画堂スタジオのSLG、『パワードール』シリーズです。

 シリーズ初代に当たる"Power Dolls"が世に出たのは1994年。PC-9801/9821のご時世でしたが、卓越したゲームシステムと、パワーローダーと呼ばれたロボット、そしてDollsと呼ばれる女性パイロット達の優れたグラフィック・MIDIのサウンドは当時PCでしか実現できなかったもので、一世を風靡しました。

 そして、実はこの初代Power Dollsの優れたゲームシステムというものが、今のBLiTZを2D・HEX・ターンベースのSLGで、ほぼ実現していたものだったんですよね。

 まず、APの概念が既にありました。各ユニットは機体と武装に応じたAPを持ち、1HEX移動するといくつ、どの武器で射撃を行うといくつ、というように、APが減少していきます。APが0になったらそのターンの行動は終了。武装を軽くすればAPが上昇するとか、移動もただ突っ走ると被弾率が高い代わりに消費APが少なく、警戒しながら移動するとその逆、というような選択肢がありました。

 もうひとつ、既にあったのが迎撃の概念。名前は臨機射撃となっていましたが、ユニットがマシンガン系の武器を持っている場合、その射程内に敵ユニットが入ると、敵のターン中であっても自動的に射撃を行い、敵ユニットはそこで自動的に停止してしまいます。これを使って敵の足止めや、敵ターンでの敵撃破ができたのは、戦場のヴァルキュリアと同じです。

 オーダーはありませんでしたが、戦場の近くに味方の砲撃ユニットや爆撃機がいる場合は、APを消費して砲撃/爆撃要請を行うことができました。支援砲撃要請のオーダーと同じですね。エリアは決まっていましたが、弾頭により威力とエリアの広さが変わります。

 索敵の概念はちょっと異なりまして、機体による索敵能力に応じたエリアの敵が分かります。このあたりは視線が通れば何でも見えてしまう戦場のヴァルキュリアとは異なるところ。索敵専用の機体や武装がありました。

 逆になかったものとしては、CPの概念がなく、各ユニットは1ターン1回の移動のみだった、とか、移動がリアルタイムではなかった、とか、勿論3Dではなかった、なんてのがありますが、まあ元が当時のターン制SLGであることを考えると、納得できる部分です。

 というわけで、このゲーム、好評を受けて続編を重ねていきましたが、それに連れてデメリットも出てきてしまいました。

 まず、架空世界ではありますが、あくまで現代戦のバランスの延長線で考えられていたために、攻略法が限定されてしまいました。具体的には、とにかく先に敵を発見して先に撃破すること。その時点で最高の索敵能力を持つ、索敵専用の機体が、敵に見つかる前に敵を発見し、その情報をもとにして他のユニットが、敵に見つからないうちに長射程のカノン砲かミサイルで敵を撃破します。

 これを怠って敵に発見されるとえらいことになりまして、数が取り柄の敵ユニット達が、発見した味方ユニットに向けて撃てるだけのミサイルを撃ち込んでくる。このゲーム、基本的に防御・回避手段というのは限られていますので、ミサイルを10発近くも撃たれれば、大抵の味方ユニットは撃破されてしまいます。Power Dollesでは、撃破されたユニットの搭乗員はその後数ターン…ではなく、数ミッション!出撃できません。いきおい被撃破0を目指すことになるため、前述の攻略法になるわけです。

 この戦い方は、間違いなく現代戦では正解です。湾岸戦争でも、多国籍軍より索敵能力がはるかに劣ったイラク軍の機甲部隊は、防御態勢を取っていたにも関わらず、敵の姿を見ることもなく一方的に撃破されていきました。多国籍軍の被害は戦史希に見る少ない数です。ですが、ゲームとして延々これを続けるのが面白いかどうかとなると、話は別です。

 マシンガン系の武器の射程距離はカノン砲やミサイルより、射程においても威力においてもはるかに劣りますので、肝心の迎撃機会もほとんどなく、迎撃で倒し損ねることは、敵に見つかる=撃破されることを意味するので、積極的には使えません。優れたシステムも、使う場所を得てこそ役に立つというもの。

 勿論マンネリ化というところにメーカー側が気付いていないわけではなく、一部リアルタイム制を導入したり、舞台を未来からファンタジー世界に置き換えてみたり、3D化を試みたり、いろいろ試行錯誤はしましたが、やはり予算や開発リソースの関係で思い切ったことはできず、結局決め手となったものは、なかったのではないでしょうか。私も最近の続編はプレイしていないので、あまり突っ込んだことは言えませんが…

 というわけで、ここであえて、戦場のヴァルキュリアはパワードールの発展形である、と私は言ってしまうわけですが、では何が変わったのかと言いますと、グラフィック…は明かですのでおいといて、やはり、ゲーム性ではないでしょうか。

 先に述べた迎撃一つを取っても、迎撃で敵を倒すことができる一方、敵の迎撃の中をかいくぐって、突撃兵や対戦車兵は進むことができます。このバランスがなければ、戦場のヴァルキュリアは第一次大戦の塹壕戦の如く、お互いに土嚢を盾にして、距離を取って向かい合って撃ち合うだけの、バリエーションに乏しいゲームになっていたことでしょう。

 CPというルールも、戦術の幅を大きく広げました。制限はありますが、特定のユニットが単機独行する戦術を取ることが可能に。戦車という、強いけど使いにくいユニットの存在も大きいですね。CPは食うので使いすぎると前進速度が遅くなって敵に増援を呼ばれたりしますし、弱点を攻撃されるとあっさりやられたりします。一方で、何でもかんでも盛り込んだわけではなく、たとえば索敵は、偵察兵の方が有利だけど、各ミッションに偵察兵が必須、というほどではない、程度に簡略化して、プレイヤーの負担を減らしています。

 今までにあったいいシステムを取り入れた、新機軸を取り入れた、それだけでも素晴らしいのかもしれませんが、やはり名作となるには、それらの要素がうまくつながってこそ、です。ただのパワードールの延長線上、で終わらせなかったセガ開発チームのデザインセンスは流石の一言ですし、工画堂スタジオの方が、「パワードールでこれができれば…」と悔しがったのではないでしょうか。

 とはいっても、戦場のヴァルキュリアの方も次作が出るわけですから、安穏としているわけにはいきません。現在の戦場のヴァルキュリアにも、「アリシアにオーダーかけまくって云々」みたいな、安定ではありますがゲームバランスを崩しかねない攻略法があるわけですし、新機軸を求める声も出るでしょう。それらの問題に、開発チームはどう応えるか…期待しています。


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