考証4 戦車、あります。
戦場のヴァルキュリアでは、泣けるシーンというのがいくつもあります。ゲームをプレイしておそらく一番最初に見ることができるのが序章最後、その次に当たるのが2章のエーデルワイス号発進のシーンではないでしょうか。納屋の前の道に履帯(キャタピラ)の跡をつけながら走っていくエーデルワイス号の姿に涙した人は、私だけではないと思います。
ところがこと考証という視点から考えると、これにクレームがついてしまうのが現実の難しく、かつ悲しいところ。
何が問題かというと、まず軍隊ではない一庶民の家に戦車があることですが、これはこの家が、先の大戦の功労者で英雄でもある、ギュンター将軍の家、ということでなんとか説明できないことはない。そのエーデルワイスが動く、というのも、基本設計さえあれば、当時ほとんどの人が見たこともない飛行機すら作ってしまったり、一晩で戦車の潛水戦車化だの、煙幕弾の製造だのをやってしまう、イサラという鬼才エンジニアの存在に免じてなんとかしようとすればできそうです。
これらが問題ではない、というわけではありませんが、最大の問題点は、エーデルワイス号が戦力として存在することを、ブルールの人たちは知らなかった、そして、アリシア始めブルール自警団の人々は、エーデルワイス号の存在を前提としたブルール防衛を考えていなかった、ということです。
この裏付けは2章の随所に見ることができます。まずブルール自警団の面々は、帝国戦車を見るやいなや、もうだめだ〜と潰走してしまう。ウェルキンも、今の僕たちの武器では戦車に歯が立たない、と素直に言っています。この「僕たち」が、そのときその戦場にいた3人のみを指すのか、ブルール自警団全体を指すのかは明かではありませんが、その後にアリシアが考えた作戦が、街の正門で時間稼ぎをしてその間にできるだけの民間人を逃がす、という消極的なものであることから考えると、ブルールには戦車を含めた対戦車火器が一切存在しなかった、少なくともブルール自警団はそう考えていた、と考えるのが妥当でしょう。
ないときにはわらにでもすがりたくなるのが人の常。ブルールの郊外にギュンター将軍の家がある→その家にはかつて将軍が使っていた戦車がある、ということを、ブルールの人々、いや、ブルール自警団の中にでも、知っている人は、いなかったのでしょうか?ブルールは数千人程度の規模はある街です。先の大戦で戦車兵として従軍した人、軍事教練で戦車兵としての訓練を受けた人が何人かいれば、彼らでエーデルワイス号を動かす、という発想があってもいいはずです。なぜ、そうしなかったのでしょうか?
まず思いつくのは、そもそもブルールの人々は、エーデルワイス号がギュンター将軍の家にあることを知らなかった、というものですが、この可能性はまずないでしょう。納屋でずっと埃をかぶっていた、というなら話は別ですが、イサラはメンテナンスを欠かさず、エンジンの換装まで行っているんです。
車なんかもそうですが、全く走らせないで何年も置いておくと、駆動各部の潤滑が悪くなり、とてもじゃないけどメンテナンス万全という状態にはなりません。やはり定期的に走らせるのが一番なんです。ましてや特注戦車のエンジン換装ともなりますと、走らせてみないことには、どういう走行特性になるか、駆動部等、部品に負担がかからないか、等々、一切分かりません。
おそらくイサラの父、テイマー技師が、エーデルワイス号設計時に、この出力までのエンジンなら大丈夫、という設計資料を残しておいて、それに従ってイサラはエンジン換装を行ったものとは思いますが、かといって、テイマー技師の設計時に、そのエンジンが存在したかは分かりません。やはり、走行テストなし、というわけにはいかないでしょう。
戦車ですから、走れば大きな音を出しますし、2章のシーンにあるとおり、走ったところには履帯の跡がつきます。のどかな地方都市、音は遠くまで響いたでしょうし、履帯の跡も、いちいち消して行くわけには行きません。しかも、ただの戦車ではなく、先の大戦の英雄が乗った専用戦車。ブルールの人々の目や耳にとまり、噂になったことは間違いないでしょう。知らなかった、という可能性は低いと思います。
というところで、私が思いつく理由はこんなもの。ブルールの人々はエーデルワイス号を知っていましたが、それを「法的に」使うことができなかった。
これも具体的にはいくつかの方向性がありますが、ここでは一つあげましょう。「ギュンター家は政治的にはブルールに属せず、独立していた」というものです。昔の大貴族などで、国家から独立した私武装権や治外法権を、自領内に持っていた家があります。今でもイギリスの一部の大貴族では私武装権、つまり、国家とは別に私兵をもつ権利を保持していたりする家があるらしいですが、ギュンター家も、小さいながら、これを持っていた、というわけです。
とはいっても、特にギュンター家は貴族というわけではなさそうです。家も小さくはないですが、まあ地方の郊外にはありそうな程度の規模で、部屋数も少なそう。使用人も見る限りマーサ一人です。もしギュンター家が貴族であれば、少なくともウェルキンは義勇軍ではなく正規軍の方に属した可能性が高いでしょう。従って、この恩典は、先の大戦のギュンター将軍の活躍に基づいて、特別にガリア国家から与えられたもの、と考えた方が良さそうです。
この恩典に基づいて、ギュンター家は家の私物として、エーデルワイス号を所持し、また、維持することもできた。燃料や履帯等の消耗品の調達も、エンジン換装も…まあいちいちエンジンのパーツを発注して組み立てることも、イサラならできないことはないでしょうが…こんなことをやって周囲や国から怪しまれなかったのは、この恩典あってのことでしょう。
従って、いかに国家の一大事であろうとも、ガリア国家やブルール自警団は、ギュンター家の了解なしにはエーデルワイス号を使えなかった。勿論、ブルール自警団が、了解を取り付けようとしたこともあったのかもしれませんが、ギュンター将軍存命時は、これ以上の戦いを嫌った将軍が首を縦に振らなかったでしょうし、将軍が亡くなったあとは、権利を継承したウェルキンがが若年であることと、ランドグリーズの大学に行ってしまったこと、しかもウェルキン本人はエーデルワイス号が残っていることすら記憶にとどめていなかったことで、この話は放って置かれたのではないのでしょうか。
この考え方に基づくと、エーデルワイス号が義勇軍第7小隊に、ウェルキン・イサラとともに配属されたことも納得できます。本来でしたらエーデルワイスは高性能の戦車。おそらく…開戦時にダモンが乗っていた戦車より高性能。ダモンが自分用、あるいは正規軍用として欲しがってもおかしくないはずです。そういうことが起こらなかったのは、あくまでエーデルワイス号はギュンター家のもの、という恩典が生きていたからでしょう。
もっとも、こうなりますと、いい戦車を自分のものにできなかったひがみ根性で、ダモンは義勇軍中隊に無理難題を押しつけ続けていた…なんて考え方もできないことはありませんが。ウェルキンとイサラが両方戦死してギュンター家が断絶すれば、エーデルワイス号を国家が接収して、ダモンが使うこともできるでしょうし。
更に、2章でイサラが帝国軍兵士に対して「この家で勝手なまねはさせません」と言い放ったことも、この考察に基づきますと、更に重みが増します。ギュンターの名を持つ彼女には、実際に、家の中で私刑を執行する権利があったんです!…とはいってもこんなことはガリア国内で決めたこと、侵攻してきた帝国軍の兵士には、ぜ〜んぜん関係ないんですけどね。まあ、考証2に書いたとおり、銃弾にさらされることが人一倍危険な彼女に対して、あのような行動を取らせる心理的支柱には、なったとは思います。
そうなると、もう一つ気になることが。対戦車火器が全くないのに、ブルール自警団は街の防衛計画をどう考えていたのでしょうか?
一番あり得そうに思うのが、先の大戦後の厭戦気分で、帝国からのブルール防衛、ということ自体が真面目に検討されていなかった、ということ。軍事予算を削りたいガリア国家は、自衛権を持つことをいいことにブルールの防衛を自警団に丸投げします。ブルールはブルールで、街の予算がないので自警団の規模を小さくとどめ、新たな脅威である戦車に対する策は棚上げして済ませていた、というのが実態ではないでしょうか。
ブルール自警団の隊長が、19歳の、パン職人見習いに過ぎないアリシアに任されていたことも、その裏付けになります。先の大戦に従軍した経験豊富な兵士がブルールにもいるはず。ラルゴの口を借りるわけではありませんが、まともに防衛を考えるのであれば、そのような従軍経験豊富な年長の人間を自警団隊長に据えるのが本来のやり方です。にもかかわらず、兵士としての個人的な能力は高いにしても、経験の浅いアリシアが隊長になった背景には、先の大戦に従軍した人たちは「もう銃は取りたくない」と、自警団を若い人に投げてしまった実態があるのではないでしょうか。
自警団が実質青年団と化している、と考えれば、人気の高そうなアリシアが自警団長になってしまうこともあり得そうです。帝国の侵攻が近くなって、慌ててその他の人が銃を取った、というところでしょう。
1つ戻る
CplusAのほーむぺーじに戻る