アナログシンセ全盛の頃、一人の中学生が
秋葉原の楽器屋をうろついていた。
坊主頭で詰め襟の彼の目には、店頭に並ぶ
シンセサイザーがみな映画スターのように
輝いて映った。うとましがる店員の目を
ものともせず彼はシンセサイザーと戯れ、
何時間でも至福の時を味わうのだった。
更にそれでは飽きたらず、家に戻ると
ノートのはしに理想のシンセサイザーを
描いていた。
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それから約20年の後、アナログ
シンセサイザーの製作に打ち込む彼の
姿があった。コンピュータはあらゆる
分野に進出し、電子楽器もその恩恵を
受けて、より高性能に、より使いやすく
進歩を続けてはいたが、彼は忘れられ
なかったのだ。黒々とそびえる巨大シンセの
威圧感を。鈍く光るツマミ、赤く瞬くLED、
そして何より、高鳴る胸のときめきを。
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しかし、安易なアナログ回帰は彼の眼中に
なかった。アナログシンセサイザーの
ほとんどはムーグ・シンセサイザーを
手本としているが、その音づくりの仕組みは、
物事をいくつもの要素に分解して考える、
という一時代まえの還元主義的な産物だと
感じていたのだ。もし、今シンセサイザーを
創ろう、というのであれば、音とは何か、
音づくりとは何か、という問いにあらためて
取り組み直すのが自然だろうと思われた。
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そもそも音とはなんだろう。空気の振動。
周期的に気圧が変化して音が生じる。それが更に周期的に変化して、ビブラート、
あるいはリズムが生まれる。それらの
組み合わせでメロディーと呼べるものが生まれ、
やがて楽曲へと成長していく。そういった
幾重もの階層を持つ音宇宙、これをそのまま表現
できるシンセサイザーは作れないだろうか・・・・
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電子部品を、付けては削り、付けては削る、
という非合理的な試行錯誤が続き、回路は
植物のように空を目指して伸びていく。
それをFRPの甲殻が包んだとき、彼の脳裏に、
煮えきらない、濁った水色のイメージが浮かんだ。
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彼は名付けた。
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・・・ システム・ブルー ・・・
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