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空談寸評特別篇

 

押井作品いろいろ



『サンサーラ・ナーガ』


ファミコン用ゲーム/1990



へーげる奥田


 私はそれほど多くのロールプレイングゲームをプレイしてきた訳ではない。ゲームにはたぶんゲームの世界の評論法みたいなものがあるのだろうが、あいにくとゲーム批評のようなものも読んだことはなく、この『サンサーラナーガ』が業界でどのような評価を受けていたのかも知らない。まあ、この時代のゲーム機はまだいわゆる「ファミコン」が主流であり、専門誌も数えるほどしかなかった筈だ。しかしもし、今あるようなゲーム評論誌があったとしたら、たぶん相当ワルグチを書かれていたのではあるまいか。

 また現在は押井守作品について語る者も多くなったが、数ある押井作品群にあって、おそらくこれは(初期のテレビシリーズ等を除けば)もっとも未体験者の多い押井作品ではなかろうかと思う。

 しかし、ある意味このゲームは押井守の世界観や作品観を最も典型的に展開している作品と言える。リリースはたしかビクター音産で、さらに私のおぼろげな記憶を信じるならばこれはビクター音産のファミコンゲーム市場参入の第一作であるはずだ。キャラクターデザインとして、当時からアスキー系ゲーム関連漫画で定評のあった桜玉吉を登用するあたり、おそらく会社側もかなり意欲と期待をもって進めたプロジェクトだったろうと思う。押井守もおそらくこれに応え(ようとしたのかどうかはよくわからないが)、少なくとも押井守側としても初のゲーム制作であるところからか、入るかぎりの「押井的要素」を詰め込んだといったところなのだろうか。

 とにかくこのゲーム、一般的な「善意のゲーム」とは違うのだ。

 大抵のゲームでは、最低限のシステムは信頼することができる。街ゆく人々は話しかければ応えてくれるし、持っている道具やお金が勝手になくなってしまうこともない。ところがこの『サンサーラナーガ』の場合、何だか周りの人間がぜんぜん信用できないのだ。親切そうに話しかけてきて一緒に宿に泊まろうなどという申し出をうかつに受けると金を持ち逃げされるし、故郷に戻れば有無を言わさず袋叩きにされ、(主人公の性別による手加減等一切ナシで)パンツ一枚にされて放り出されるというシビアな状況である。武器はしばらく使っているといきなり壊れてしまうわゲーム冒頭でいきなり最強の武器や防具が店で売られているわどんなにレベルを上げても絶対に勝てないモンスターやら出るわ、なんかマニアが趣味で作ったという感じなのである。

 まあ、押井守の趣味炸裂作品といえばそれまでなのだが、しかし問題はそういう部分ではない。やはりその「世界構造に対する言及」という部分こそ、この作品の核心と言ってよいだろう。世界がいかなる姿をしているのか、いかなる意味をもっているのか。それに言及していくプロセスに、プレイヤーは存在論的な異化感覚を感じずにはおれない。

 昨今、かつての各種ゲーム機についてエミュレータが多く出回っている。何らかの形で再会できたら……とひそかに思っているのだが、今の私にあのゲームをもう一度クリアする気力と時間があるかどうかはむずかしいところだ。




1999/12



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