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毎日映画コンクール



 執筆:鈴谷 了
 初出:96年 2月 1日



 このたび、95年度の毎日映画コンクールが発表され、1/31付の毎日新聞にその選評 が発表されました。

 なぜここでこれを取り上げるかというと、日本の主な映画賞の中で唯一アニメーションに 門戸を開いているのがこの賞だからです。

 賞は一般的な劇場アニメを対象にした「アニメーション映画賞」と、プライベート作品も 含めたものから選ばれる「大藤信郎賞」の二つがあります。

 大藤信郎とは、かつて切り紙アニメーションで世界的な名声を博したアニメーション作家 で、その没後に遺族が基金を提供して大藤信郎賞を毎日映画コンクールに創設したのがこの 映画賞でのアニメ表彰の始まりです。

 (ちなみに第一回受賞作は虫プロの処女作「ある街角の物語」)

 これはプライベート・商業作品を問わずに対象になっていて、商業作品からの受賞作とし ては「わんぱく王子の大蛇退治」「カリオストロの城」「ナウシカ」「銀河鉄道の夜」「ラ ピュタ」といったものがありました。

 88年度に『トトロ』が一般映画も含めた大賞を受賞したことがきっかけになり、その翌 年の89年度から大藤賞とは別に劇場アニメを対象にした「アニメーション映画賞」が創設 され、二本立ての体制で今日に至っています。

 ちなみにアニメーション映画賞の過去の受賞作は、『魔女の宅急便』『走れ!白いオオカ ミ』『老人Z』『紅の豚』『パトレイバー2』『ぽんぽこ』というラインナップです。(ア ニメージュ手帳に大藤賞しか記載がないのはその意味では片手落ち)


 で、95年度のアニメーション映画賞は『ユンカース・カム・ヒア』でした。『セラムン 』の佐藤順一氏が監督でもとTMNの木根が原作・音楽というこの映画を私は見に行かなか ったので、結果については何とも言い兼ねますが「穴だなぁ」というのが正直な感想でした 。

 で、選評によると審査委員による第一次投票では一位が『耳すま』で7票、二位が『ユン カース』で6票、三位が『攻殻機動隊』で3票だったそうです。(一人二票投票)で、上位 二作品による決選投票で一票差で決まったとのこと。「力作ぞろいだった」という選評をう かがわせる結果です。

 『セラムン』をやったという経歴が色物に見られなかった佐藤氏は実力を認められたとい うことになるのでしょうね。


 一方大藤賞は一次投票が『MEMORIES』が6票、『攻殻機動隊』が4票、決選投票 では7対2ということで決まったらしい。

 私たちは「賞」という権威づけがなければ映画が見られないような鑑賞者ではないけれど も、アニメーションに対して贈られる映画賞がこれしかないという意味でこの賞は注目に値 するものだと思います。


 で、アニメーション映画賞の創設以来大藤賞の位置づけがいささか曖昧になってきている のも事実です。一応大藤賞ではプライベート作品も対象になっていることと、アニメーショ ンのクリエイターに対する表彰という位置づけがなされているらしい(今回も「大友克洋の 製作総指揮」に対して賞を贈るという形になっている)ことが違いになっているようです。

 しかし、それならば「クリエイターに対する表彰」であることを明確化した方がいいよう にも思われます。


 ちなみに、今回(実写も含めた)監督部門において『攻殻機動隊』の押井守に一票が投じ られていました。「実写かアニメか」を問うことは少しずつ変わり始めているのかもしれま せん。


 で、この結果についてアニメ誌等のメディアではこれまたきわめて冷淡な扱いしかないと いうのも事実なのはいささか残念なことのように思われます。





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