はじめに
アニメーション映画
『王立宇宙軍』
が公開されてからすでに7年が過ぎた。この間、この映画の制作集団であるガイナックスは『トップをねらえ!』や『ふしぎの海のナディア』といった話題作を世に送り、それらの作品についてはさまざまなレベルで−上はまじめな論文から下は面妖本まで−語られてきた。それに比べると、『王立宇宙軍』についてはこれまで十分な論及がなされてきたとはいいがたい。いまだに商業誌にすら「見所は作画」といった紹介がなされている。またここ数年同人誌界に定着しつつある「王立本」もしくは「ガイナックス本」においては「青春群像ドラマ」という方向付けがメインとなっている。これはこれで一つの捉えかたであるし、この映画に素直に感情移入できた若い視聴者の見方を否定するつもりはない。ただ、深い味わいを持つこの映画について「映画」「映像」として論じたものがこれまであまりに少なかったのは事実であろう。
論及が少なかった理由は大体想像できる。ヒロインがいわゆる「宗教女」でしかも可愛げがない。そのうえこ難しい文明論めいたものまで出てくる。物語としては「落ちこぼれ集団のサクセスストーリー」という「よくある」話でさしてどうこう論じる筋合いのものでもなかろう。−というのが公開当時よく見られた反応ではなかろうか。しかしとかくストーリーの巧拙や表層的な「テーマ」を論じていれば事足れりとすることが、映像に対る言質を著しく低いものにしているのである。
そこで以下に展開する文では直接テーマやストーリーに論及する事を極力避けてある。従来と違った視点でこの映画を読者に眺めてもらえれば、筆者の意図は達せられた事になる。
なお、作品のテキストはLDボックス「王立宇宙軍メモリアルボックス」(バンダイ)による。また、台詞や場面の引用に当たっては大体の経過時間を分単位で示すことにする。(ビデオのカウンターによるものなのであくまでも目安と考えていただきたい)
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