「ひみつの階段」の各エピソードの紹介をしています。紹介というよりほとんどあらすじになっちゃってます。ネタバレになりますが、まだ読んでいない方で、読もうかどうしようか迷っている方は、最初の方だけでも読んで雰囲気をつかんでください。つたない文章ですが、この世界の心地よさを少しでも伝えることができたら、うれしいです。(現在16話まで)

Episode 1 ひみつの階段Episode 14 わかれ道
Episode 2 インドの花嫁Episode 15 華胥の国に遊び
Episode 3 春の珍客Episode 16 学園祭にいこう
Episode 4 ねこの星座Episode 17 Diary〜ダイアリー〜
Episode 5 物語をきかせてEpisode 18 パズル
Episode 6 日曜日Episode 19 遠い約束
Episode 7 四月天使Episode 20 MAZE 迷路
Episode 8 魔法の庭Episode 21 もうひとつの学園祭にいこう
Episode 9 冒険はおわらないEpisode 22 li'l flowers
Episode 10 本日休館Episode 23 Tiny Tiny Girl
Episode 11 乙女は祈るEpisode 24 reunion
Episode 12 GIFTEpisode 25 ひみつの階段 男子校edition
Episode 13 See You




Episode 1 ひみつの階段

 古い校舎のある祥華女学院の高等部に入学した夏ちゃんは、ある日、渡り廊下の階段で足を踏み外して転んでしまいます。そのとき、「大丈夫?」と声をかけてくれた女の子。「よかった」とやさしく微笑んでくれたその娘の名前は知ってるはずなのに、名前もちゃんと呼んだはずなのに...あれ、誰だっけ。それより、ここって、こんな階段あったかなぁ...気がつくと、いつのまにか、さっき転んだ階段はなく、いつもの風景が広がっていました。今のは、いったい...

 出会ったのは、祥華では有名な「不思議」のひとつで、毎年何人かの生徒が出会っているそうです。夏ちゃんが転んだ階段も、何年も前に火事で焼け落ちてしまって、今はないのです。古い校舎や寄宿舎は、ふだん生徒たちが気づかないような不思議な暗がりを隠し持っていて、ときどき、夏ちゃんのように迷い込んでしまう生徒がでるそうです。

 夏ちゃんは、家から離れて寄宿舎生活を送っています。家族と離れて暮らすのは初めてなので、ちょっとホームシック気味。なにかと規則の多い寄宿舎生活ですが、同じ年頃の少女たちと送る共同生活は、少女小説の舞台のようで、楽しいことが多いのも本当です。

 夏ちゃんって、祥華の「不思議」と相性がいいのでしょうか。夜中にひとりで本を読んでいても、後ろから、ひょいと手が出てきて、ページをめくっていきます。おかげで、真夜中なのに寄宿舎中に響きわたる大声を出してしまいました。やれやれ。

 ある日、寄宿舎の自分の部屋の扉を開けると、そこには部屋の中には少女たちが座っていて、にこやかに微笑みかけています。少女たちは、みんな同じ年頃の祥華の生徒なのですが、それぞれ別々の時間を生きているというのです。こうやって、一緒にお茶会を楽しんで、そして、それぞれの時間へ戻っていくのです。センチメンタルな気持ちになっている女の子は、ここに引き寄せられてしまうらしいですね。

 少女時代のきらきら光る宝石のような日々を抱えながら、祥華女学院では今日もどこかで不思議なことが起こっていることでしょう。



Episode 2 インドの花嫁

「今宵は、みなさまおまちかね、真夜中のお茶会。厳しかった中間考査も規律週間のことは、ぱーっと忘れて、おおいに羽をのばし楽しもうではありませんか」と、毬絵がお茶会の開会を宣言した。

 消灯時間が過ぎた後に、寮監の先生の目を盗んで開く真夜中のお茶会の楽しさは、寄宿舎生活を送ったことのある女の子じゃないとわかんないよね。とっておきのお茶とケーキを囲みながら、いつまでも続くみんなとのとりとめのないおしゃべりの数々。

 「まるでセーラの屋根裏部屋みたい」って夏ちゃんが言ったら、「小公女」ってすかさず答えたのは、毬絵だった。そして、毬絵は「あたいはインド人のお嫁さんになるのがちっちゃい頃の夢だったよ」だって。え、毬絵って、そんなに少女趣味だったっけ。ちょっと、ええっと、かなり意外。今の毬絵からは、ちょっと想像できないな...なんて言ったら、毬絵、怒るかな。

 トントントントン。。。 これは、見回りが来っていう隣の部屋からの合図。うそっ、昨日の今日で! みんな、早くテーブルを片付けるのよ。
------------------------------
 毬絵が、「小公女」に出てくるインド人のお嫁さんになりたいと思っていたのは、そう昔のことではないのです。

 毬絵は、父親の転勤先についていくことを嫌って、祥華女学院の中等部に編入しました。でも、なかなかみんなにとけ込むことができません。でも、本当は毬絵の方が心のに壁を作って、みんなと打ち解けようとしないというのが原因でした。

 祥華への編入をすすめた毬絵のおばさんも祥華の卒業生で、ここで過ごした日々は宝石のようだといいます。でも、心を閉ざした毬絵には、目の前の宝石には気づくことができません。毬絵は「小公女」を読んでは、これが物語だったら、いつかだれかがやって来て、私をここから救い出してくれるのにと、物語の世界へと逃げ込んでいました。

 そんなとき、校舎が見せた幻によって、毬絵は時を越え、将来出逢う宝石の一粒と交錯し、すれ違いざまに、毬絵に魔法をかけていってくれたのです。そうだ、私が本当にほしかったものは...

 それが今では、毬絵はみんなを率先して、学校生活、寄宿舎生活を謳歌しています。素晴らしき哉、宝石の日々。



Episode 3 春の珍客

 今回は、いつもクールな三島さんの登場です。同室の竹井が、おじいさんのお葬式で実家へ帰ってしまったので、久しぶりの一人暮らしを満喫しようというところから、お話は始まります。寄宿舎の夜の点呼の途中、渡り廊下を毬絵たちが歩いているのを見かけます。点呼の後に、寄宿舎の外を歩いているなんて、うるさい滋バアに見つかったら大変です。私には関係ないやと、点呼を終えて自分の部屋に帰ってきたら、いつものように竹井が部屋にいてにこやかに迎えてくれました。あれ、なにか大切なことを忘れてしまったような...竹井の「まあ、春だしね」という言葉のとおり、そういう季節なのかもしれません。

 翌日、ノンフィクション派の三島とファンタジー好きの毬絵は、図書室のカウンター越しに、お互いの読書傾向について火花を散らします。そうです、三島と毬絵は、どうも馬が合わないというか、いわゆる天敵同士という感じです。三島が、毬絵に昨日の夜渡り廊下を歩いていただろう言うと、毬絵はちゃんと部屋にいた、証人もいると言い返します。じゃあ、昨日のは幽霊? もちろん、現実派の三島は一笑に付すのですが。

 自宅通学組で、寄宿舎生活に強い憧れと幻想を抱いている黄菜ちゃんが、こっそりと寄宿舎にお泊まりにやってきました。授業が終わると、さっそくお茶会が始まります。黄菜ちゃんがはしゃいでいるのはもちろんですが、竹井も彼女に合わせて、妙に盛り上がっています。ふたりで、「ごきげんよう。本日はお招きありがとう」、「ようこそごきげんよう。どうぞお座りになって」なーんて、制服のスカートのすそをお上品に持ち上げながら御挨拶したりしています。

「寄宿舎なんて、窮屈なだけだろ」という三島に対して、黄菜ちゃんは「こんなふうに寄宿舎で、たくさんの友達に囲まれて暮らせるのは、今だけのことなんだもの」とうれしそうに語ります。ひとり自分の部屋に帰ろうとする三島に竹井は「あんたも宴を楽しみなさい。そうやって目隠ししてると損しちゃうよ」と引き止めます。

最後は、恒例の寄宿舎きもだめしツアーです。寝静まった寄宿舎の中をみんなで歩いていきます。すると、渡り廊下を大勢の生徒たちが歩いています。え、あれは幽霊?! ううん、幽霊なんかじゃなくて、きっと「みんなが寝静まった真夜中に学校が見てる夢」だったのかも。

そして、きもだめしツアーの最後に待っていたものは...



Episode 4 ねこの星座

  さて、夏休みです。寄宿生も次々と帰省していきます。だけど、実家に帰らない寄宿生もいます。同室の毬絵やしーちゃんや直ちゃんも帰ってしまったというのに、夏ちゃんは補習授業で居残りです。補習組の中には、なかよしの黄菜ちゃんも一緒です。あらあら、そんなところまで、なかよくしなくてもいいのにね。あれ、あそこにいるのは、三島。三島も補習なの?どうやら夏ちゃんたちとは違って、成績が悪くって居残っているのではないって? ひとそれぞれ事情というものがあるのね。

 夏ちゃんが部屋に帰ると、だれかが帰ってきている様子です。毬絵のベッドに誰かが寝ています。えーっ、毬絵、髪切っちゃったの?! ん? よく見ると、小学生くらいの男の子でした。でも、毬絵にすっごく似てるんですけど。男の子は、毬絵の従兄弟で、「しばらくよろしく」と、寄宿舎に居候するつもりのようです。え〜、ダメだって、ここ男子禁制なんだから。うるさい先輩に見つかったら、大変。

 ダニエルと名乗った男の子は、寄宿舎に住み着いている猫の「かんぴょう」ともすっかり仲良くなってしまいました。かんぴょうは、祥華の不思議の一つで、見える人にしか見えない不思議な猫です。じゃ、男の子にもかんぴょうが見えるってことは、祥華の寄宿舎に気に入られたってことかな。

 男の子は、三島とキャッチボールをしたり、夜には屋上で夏ちゃんと満天の星空を見ながら「ねこの星座」を勝手に作ったり、楽しい時を過ごします。毬絵が迎えに来たときには、夏ちゃんに裏切られたような気がして傷ついたりしましたが、最後は夏ちゃんと仲直りして家に帰っていきました。

めでたしめでたしと言いたいところなのですが、明日は補修最終日でテストがあるのでした。三島先生、お願い〜。教え方はやさしくはないけど、ちゃんとつきあってくれる三島っていいヤツだ。



Episode 5 物語をきかせて

祥華には、あの「階段」をはじめ、いろいろな不思議なことが起こります。そのいくつかは、生徒たちの口から口へと代々語り継がれてきました。祥華のそういった奇談を集め、探究することを目的とするクラブ、それが「奇談倶楽部」です。奇談倶楽部は、祥華の卒業生で、今は寄宿舎の舎監をやっている山口先生が高等部1年の時に、創立したクラブです。

 初代部長となった山口は、上級生で生徒会の真木さんも引き込んで、校舎と寄宿舎の中を駆け回りながら、元気いっぱい、奇談倶楽部の活動に張り切っています。ただし、本人は明るすぎる性格故か、今まで、祥華の不思議な出来事に遭遇したことがなく、ちょっぴり残念そうです。

 奇談倶楽部の会報の原稿を抱えて、寄宿舎から校舎と走る山口。どかーんと、誰かとぶつかった拍子に、空に舞う大事な原稿。慌てて散らばった原稿をかき集めて、再び走り出す山口。後に残されたのは、山口とぶつかった(ぶつけられた)安藤さん。この安藤さんこそ、将来の人気少女小説家・杏堂みゆきさんなのです。この頃から、小説を書いてはいましたが、人に読んでもらうなんて気持ちはありませんでした。

 実は、このあわてんぼの山口との衝突が、将来の杏堂みゆきを産むきっかけとなるのですが、さてさて、どんなことが起こったのでしょうね。山口も念願の「階段」をクリアして、大満足ですね。



Episode 6 日曜日

いったいどうしたの、夏ちゃん。その、顔の大きなばんそうこう...

 木から落ちた...

 今から思うと、煮魚(鱚)がケチのつきはじめだったのよね。寄宿舎の金曜の夕食メニュー。でも、私としては、その時どうしてもフライドチキンな気分だったの。ね、わかるでしょ。

 で、二階の自分の部屋に入ろうとして木に登ったと。

 そこまではよかったんだけど。

 で、落ちたと。

 うん。

 落っこちたおかげで、滋バアに見つかって、反省文の山と寄宿舎の掃除に、週末の外出禁止。おまけに、フライドチキンは没収。とってもとほほな気分なの。

 えー、じゃあ、週末に一緒に買い物行く約束はー?

 ごめーん、黄菜ちゃん。そういうわけだから、私、日曜日行けなくなってしまったの。ジュエル文庫の新刊と、家庭科の実習で使うワンピの生地を、黄菜ちゃん、おねがいぃ。

 ・・・あー、反省文のネタも尽きた尽きたぁ。何かっていうと、反省文反省文。だいたい、ちっとも反省してないんだから、反省文の文章が浮かんでこないのも当たり前よね。ああ、いったい、もう、なんて書けばいいんだ〜

 さあ、掃除掃除。トイレの掃除にお風呂の掃除。お次は、玄関ホール。よーし、どうせ掃除するんだ、ここはひとつ花でも降らせちゃおうか。

 寄宿舎の乙女たちの日常は、何はなくとも、楽しく過ぎていくのです。



Episode 7 四月天使

 いい? あんたはね、祥華のプリマヴェーラと呼ばれる、いわば全生徒の憧れなのよ!? イメージを損なう言動は慎んでもらうわよッ!

 目前に迫った花祭りの準備にドタバタと文字どおり校舎の中を走り回っている生徒会長の花野は、私にこう言い放った。

 花祭りは、寄宿舎の周りに咲き誇る満開の桜の下で、寄宿生達が開くお花見の会のこと。お茶にお菓子に歌詠み会。歌に寄せて忍ぶ想いを憧れの先輩にそっと手渡したり、なんて女子校らしいこともあるの。

 祥華のプリマヴェーラかぁ。花野が一生懸命なのはわかるけど。でもね、その呼び方もちょっと重たくなってきちゃったなぁ。私って、いったい何だろう。

 そんなことを思いながら、長い髪をばっさりと切って、私なりに抵抗してみたけれど。やっぱり必要とされているのは外見だけなのかな…

 そんなことを考えながら歩いているときに、人伝に手渡された花野からの伝言メモ。

 花は散っても桜は桜...かぁ。ありがとう、花野。



Episode 8 魔法の庭

 夏ちゃんと三島が祥華女学院前でバスを降りて、校門のところまで来たとき、ひとりの少女がぐったりと倒れかかってきました。これはたいへんと、二人は彼女を抱きかかえるようにして、寄宿舎の中に運び入れました。と・こ・ろ・が、気がつくと彼女はいなくて、夏ちゃんと三島が仲のいい恋人同士のように腕を組んでいました。あれ?

 部屋のドアを開けると、「夏ちゃん、何か連れて来ちゃったみたいだね」と、しーちゃんが一言。しーちゃんは、そういうのが見える人なんです。夏ちゃんは、自縛霊だーって、大騒ぎですが、他のみんなは真剣に取り合ってくれません。

 次の日、夏ちゃんは忘れ物を取りに、自分の部屋の扉を開けたところ、前にも体験した「お茶会」になっていました。気がつくと、昨日の自縛霊さんも立っています。自縛霊さんは、自分は自縛霊じゃないっていってますけど、じゃ、いったい何者なんでしょう。彼女も昔は、夏ちゃんのように、素敵な「少女の時間」を持っていたといいます。でも、彼女の「少女の時間」は、なぜかあまりにも短かったらしいのです。

 彼女は、この学院に何か大切なものを探しに来たのだそうです。でも、彼女にもそれがいったい何だったのか、わからなくなってしまったようです。覚えているのは、カラスウリの花が咲いていたことだけ。でも、学校の中にはカラスウリなんて花は咲いてないぞ。う〜ん。

 次の朝、夏ちゃんは、ユリコ(自縛霊さんのお名前ね)の呼ぶ声に起こされてしまいました。まだ、夜も明け切らぬほどの時間です。庭に出ると、どうでしょう、レースのような白い花をつけたカラスウリがありました。ついに、彼女は、魔法の庭で忘れ物を見つけることができたようです。そして、彼女は満足そうに微笑んで、旅立っていきました。

 それにしても、夏ちゃんと三島って、どんな用で一緒に外出してたんでしょうね。



Episode 9 冒険はおわらない

 明日は祥華の創立祭です。夜になって、校舎に明かりが灯っても、明日の準備はまだまだ続きます。毬絵は夏ちゃんが星の王子様を演じる音楽劇の伴奏をすることになっているので、これから講堂でリハーサルです。

 そんな最中、舎監の山口先生のところに、ひょっこりと懐かしい顔が訪ねてきました。祥華の生徒たちの間でも人気の少女小説家、杏堂みゆきさんです。杏堂さんは、祥華の卒業生で、山口先生とは同級生でした。

 あれ?杏堂さん、杏堂センセ、締め切りで来れないっていってたんじゃあ...ええええ〜っ、登場人物が行方不明? いなくなっちゃたって?! あのミナが! でも、逃げ出すって、どこに?

 かすかに開いたドアの向こう側をひとりの少女が横切りました。

 ...だれ? ミナ、ミナね! ちょっと待って! どこへ行ってしまったの.... あ、舞台の上。あの傲岸不遜な態度は、ミナだ。 ねぇ、逃げないで。 もういいの。 帰っておいで、もうひとりの私。

 結局、杏堂さんは、校舎がかけた魔法に心癒やされ、元気を取り戻すことができました。逃げ出すことは、いつでも悪いことじゃない。だれにでも、心を休ませる場所、癒せるオアシスのような場所があったほうがいい。そこで元気になって、そして、また明日に立ち向かうのだ。

 卒業生の心のケアまでしてしまう祥華の校舎って...人間できてますね



Episode 10 本日休館

 くらっと、来た。だめだ。よりによって、アイツの前で。薄れゆく意識の中で毬絵は、天敵・三島の勝ち誇ったような微笑みを見たように感じた...  毬絵は寄宿舎の浴場からあがろうとした時に、のぼせてしまって、意識を失い、倒れてしまいました。

 ああ、もう明日から生きていけないーっ(って、毬絵、おおげさだよぉ)

 次の日、予想通り、三島には案の定からかわれるし、おまけに、その時にひいたらしい風邪がひどくって、午後は授業を早退して、寄宿舎で休むはめになってしまいました。

 目を覚ますと、見知らぬ生徒がやってきて、元気よく「おみまいだよー」って言って、りんごをくれました。廊下に出ると、寄宿舎には誰もいなくって、いつもとは違ってとても静かです。そのとき、さっきの少女がまたやってきて、リンゴを毬絵に手渡して、こう言いました。  寄宿舎にだれもいないのは、本日休館だから。そして、休館の日には、休んでいる生徒しか来れないの。  え、それって、どういうことなの...

 誰もいなくなった寄宿舎の中を毬絵が歩いていくと、ひとりの無愛想な中学部の生徒に出会いました。あれ、この子はどこかでみたような...この子も「休館日」なのかなぁ。

 天敵同士の毬絵と三島の間を、時を超えて行き来したリンゴ。もしかして、それって毒リンゴだったりして...(くすくす)



Episode 11 乙女は祈る

 い、いきなり、プロポーズしたって?! しかも、あのピカリに!

 そりゃあ、顧問ひとりに、部員ひとりの囲碁同好会で、仲がいいのは知ってるけどさ。もっと、世間を見た方がいいんじゃないの? よりによって、若ハゲのピカリとは。え、髪の毛の量と人格は関係ないって? ピカリといると、長年連れ添った夫婦のような気がするって? う〜ん。

 で、「一時的な感情にまどわされず、学業に励みなさい」って、生徒指導室でお説教くらったわけね。 生徒の中には、やっかみ半分で、嫌がらせをするのもいるし、事はだんだん大きくなって行くなぁ。

 それにしても、許せないのは、ピカリだ。噂が広がって、まゆりが面倒なことに巻き込まれてるっていうのに、あの煮え切らない態度はなんだ。子供の片恋と、さっさとあしらってしまえばいいものを。でも...まさか...まさかね。

 このお話は、舎監の山口先生や少女小説家の杏堂みゆきさんが祥華の生徒だったころより、ずっと前のお話です。そして、まゆりは今でも「伝説の少女」として語り継がれています。

 あれ、今回は、おせっかいやきの校舎は何もしなかったのかな。



Episode 12 GIFT

祥華女学院には、日頃お世話になっている上級生に対して、下級生が奉仕するという“GIFT”という麗しい伝統があります。今回、中等科2年の竹井と三島も指名されたのです。竹井は、郵便物や宅配便を運んだり、買い出しにふとん干しと、お姉さま方のために、忙しく走り回る、忙しい日々を過ごしています。

竹井は頑張りすぎちゃうところがあるんです。勉強も頑張って、クラス委員長もやって、人に頼りにされると断れなくて。でも、一部のクラスメートは、そんな竹井のことをよくは思っていないようです。自分の悪口を聞いてしまった竹井は、すこし落ち込んでしまいます。

そんなとき、竹井を一番近くで見てくれている三島の言葉が、竹井の疲れた心を癒してくれました。さすが、三島。

竹井は自分がおせっかいだと煙たがられていると思っています。そんな竹井に、先輩は、 「いつも素直で明るくて元気なところが、竹井の才能(GIFT)なんだよ」と言ってくれました。

竹井は、おせっかいだと言われるかもしれないけど、誰かのやさしい手でありたいと思うのでした。

上級生のお姉さま方も、そんな竹井のことを知っているから、GIFTに選んだのでしょうね。



Episode 13 See You

 あの娘は、私が音楽室の窓際で物思いにふけっていると、なぜだか現れる。私が、この1年間、離婚のことで悩んだり、つらかったりしているときには、私の心を読んだかの如くふっとね。

 彼女はうちの学校の生徒なのだけど、学年もクラスも知らない。彼女の雰囲気がやけに大人びているせいか、誰だか知らない気軽さもあってか、私的な人生相談をしている。これは、先生失格かなともおもうけど、そのせいで、ずいぶん助かったのも本当。彼女と話すと、くじけそうになる心が軽くなって、前に向かって進んでいける気がしたもの。だから、頑張れたのかもしれない。

 そして、今は晴れて自由の身だ。さて、どういう人生を送ろうか。

 そんなとき、彼女がふと、「先生みたいな人が寄宿舎の舎監先生だったらいいのに」って言った。

 舎監か、いい響きね。私がもう少し年をとったら舎監も悪くないかな。 どうせなら、思いっきり厳しい頑固で昔気質なオールドミスになってやるの。わくわくするわ。

 教室に向かう先生の後姿を見ながら、「またね(See You)」と彼女は手を振った。 再会のその時まで、しばらくのさようなら。



Episode 14 わかれ道

「バニラの匂いがする白いエプロンが似合いそうな感じ」って、言われちゃった。

久しぶりの同窓会。みさとは会社の研修でロンドン、八木ちゃんはスポーツライターでカナダ、亜矢子は祥華で熱血教師、今泉は南の島で豪遊、安藤さんは小説家の先生、志保はだんなさんと塾の経営かぁ。みんな、あの頃ただの好きにしかすぎなかったものを、確実に手にしているんだ。それに比べて、私は、家事や子育てに追われている毎日。なんだか、私だけ、おいてけぼりをくらってしまったような気がするなぁ。

家に帰って、昔の日記を読み返していたら、あの頃のことがよみがえってきた。あの頃は、まだみんなが同じスタートラインに立っていて、対等だった。あぁ、あの頃に、帰りたいな。帰りたい。そうだ、帰らなくっちゃ。
・・・
ぱたん 誰かが読んでいた日記をいきなり閉じた。 なにすんのよ と、言いかけて、なんだか様子の違うまわりを、そして自分を、改めて見てみる。

ははーん。そういうことか。 ここは懐かしい祥華の図書室。ここにいるのは、もうさっきまでの私じゃない。あの頃の私なんだ。
図書室を出ようとしたとき、誰かとぶつかりそうになる。 あ、やばい。亜矢子だ。そういや、亜矢子は祥華で先生やってるんだっけ。 だめだめ、この時代じゃない。もっと昔に時間をさかのぼらなくっちゃ。
私たちが、まだ対等で平等でいられた頃に。
ここもだめ。もっとよ、もっと。
私たちが、まだ対等で平等でいられた頃に。
この言葉が、呪文のように頭の中で何回も何回も繰り返される。
どこまで遡らなくちゃいけないのだろう。

そんなとき、私を呼ぶ声がした。
「ああ、追いついた」
って...げぇっ、なんで亜矢子がここにいるのよ。

亜矢子が先生らしく私に説教を始めた。それはそうかもしれないけど。
でもね、でもね。ここにいた頃は、私の前には、さまざまな道がひらけていたんだもの。だけどね、今じゃ私、つまんない家事に毎日あくせくしている専業主婦になっちゃったんだもの。ここなら、ここでなら、私は自分の未来を自由に選択することができるのよ。
そんな気持ちを亜矢子に一気にぶつけたら、亜矢子に私のすごろくはもう上がっちゃったのかって、聞かれちゃった。
そうね、まだ先は、長いんだよね。今も、これからもわかれ道はたくさんあるんだよね。
なんか、みんなの話聞いてるうちに、今まで自分が積み重ねてきた人生を全部ごみばこに捨ててしまうところだったわ。私も前を向いて進んでいかなくっちゃ。

ありがとう、亜矢子。



Episode 15 華胥の国に遊び

私は“見える人”みたいだ。
今も、廊下の真ん中に大きな桜の木が生えていて、新入生の私たちを祝福するように花びらを舞わせている。なのに、だれも気付かない。

「佐伯さ〜ん、アレが見えてるんだ」
振り向くと、そこには奇談倶楽部の部長の下心いっぱいの笑顔が。
「私、奇談倶楽部には入部しませんから」と、問われる前から秒で返す。
“不思議”はどちらかというと苦手だ。何が起こるか分からない学園生活より、穏やかに普通に暮らしたいもの。

他にも“見える”人を見つけた。2年生の風間夏さん。みんなが見えない猫と遊び、“あっち側”のお茶会に参加する。とても自然体で、いつも幸せそうににこにこしている。この人は不思議もひっくるめて、学園生活を楽しんでいるんだな。よし、この人についていこう。そういうわけで、私は、夏先輩がいる合唱部に入部することにした。

奇談倶楽部の部長さんは勧誘をあきらめてくれたみたい。最後に、部室に誘ってくれて、「祥華の古い学び舎には精霊が宿っているの。私たちの毎日の生活の中には、小さな魔法がちりばめられていて。そうやって見守られて過ごした日々は、記憶の中にいつまでもあかりをともしているんじゃないかな」と熱く語る部長。

私たちを見守ってくれる精霊。そう考えれば怖くないかも。
夏先輩もいるしね。

------------------------------
奇談倶楽部の部長さんは、学校の聖霊に見守られているかのような、小さな魔法に満ちた学園生活をこよなく愛しているのです。でもその想いは、どうやら片思いっぽくて、彼女はなかなか“不思議“と出会うことができません。しょうがないので、不思議ハンターというストーカーみたいなこと(失礼)をやっているみたい。

佐伯さんや夏ちゃんみたいに、何度も不思議を体験する人もいるのよねー。そんな魔法を見ることができるなんて、なんてうらやましい。部長さんの気持ちもよく分かる。うんうん。

今回は、新入生の佐伯さんが、これでもかこれでもかと“不思議”に出会うお話でした。不思議探知機として佐伯さんを勧誘しようとした部長さんの野望はかないませんでしたが、卒業までには彼女が不思議と出会えるといいなと祈っています。



Episode 16 学園祭にいこう

お兄ちゃんが、ひとり浮かれまくっている。 黄菜の祥華の友だちが、お兄ちゃんが通う一高の文化祭に遊びに来てくれることが決まったから。ん、やっぱり、目当ては鞠絵か。こら、写真にキスしようとしないで、汚いなぁ。

そして当日。学園祭には、夏ちゃん、鞠絵、竹井、さやちゃんと、用心棒役の三島がやってきました。むさくるしい男子校にこれだけの女の子が来たものだから、どこへ行っても注目の的。ちやほやちやほやして、声をかけられまくり。

用心棒できたはずなのに、食べ物目当ての三島はまっすぐ食堂へ。おいおい。

お兄ちゃんが案内してくれたんだけど、さすが男子校。どこへ行っても、むさいし、しかもくっさーい。年頃の女の子にはきつい。

鞠絵が男子高生にしつこくからまれたりしたけど、さっそうと現れた王子さま(?)によって救出されて、よかった。

みんなの結論は、「三島が一番かっこよかった」だって。