SRLL資料室

はじめに

2003年のハムフェアで、CubeSatという1辺が10cmの小さな人工衛星が宇宙に飛び出し、アマチュア無線の帯域で電波を出している事を知りました。日本からは東大東工大がCubeSatプロジェクトに参加していて、それぞれXI-VとCUTE-Iという衛星を打ち上げています。

どちらもAX.25というアマチュア無線家にはおなじみのプロトコルでデータ送信をしているのですが、CUTE-IはSRLL(Simple Radio Link Layer)という独自のプロトコルでもデータ送信を行っています。

SRLLに関しては以前から知ってはいたのですが、資料も乏しく、装置を作ろうとまでは思っていませんでした。

ところが、ハムフェアの展示では結構お手軽に作れそうだったので、作ってみようと思った次第です。

SRLLは物理層にBell202準拠しているので、パケット通信でおなじみのモデムチップが使えます。CUTE-IのページではTCM3105の例が載っていました。また、モデムチップで復調した信号をH8/3048でデコードするためのプログラムも掲載されていました。ところが、 掲載されている回路図はそのままでは秋月のH8/3048ボードに適用できず、自分のような電気回路にあまり詳しくない人間にはなかなか理解できません。そこで、CUTE-Iチームに質問を投げたら丁寧な回答があり、ようやく理解できました。

はじめはTCM3105で作成したのですが、その後MSM6947、MX614、AM7911と色々なチップを使って作成しました。

ここでは、その自作した受信装置に関して、残しておこうと思います。

まずは共通点から。作成したデコーダの写真にはどの石でのものでもLEDが写っていますが、上から電源、デコード、同期、DCDです。このうちデコードと同期はAKI-H8マザーボードと同じ接続になっています。 また、配線図に載っているLEDがDCDです。(CUTE-Iのページにもあるとおり、AKI-H8マザーボードを使うと デコードと同期のLEDはマザーボードに実装されていますので、簡単に作成ができます。)

また、送信に関する配線も行っていますが、作成時点では送信のプログラムが公開されておらず、動作の確認が出来ない状態です。近日中にプログラムが公開されるとの事なので、公開されたら試そうと思っています。

以下、それぞれのチップに関する記述です。

TCM3105(1号機 2003/09完成)

 
TCM3105はTIのモデムチップで、現在では製造中止になっています。今は無きタスコのTNCでは結構採用されていて、自作TNCにも多く採用されました。自分も自作するためにいくつかストックしていたので、それを使って作成してみたわけです。

このチップの良い所は5V単一で動作する所です。後述するMSM6947は5Vと12V、AM7911は±5Vを必要とするのでちょっと面倒です。

逆に悪い所は調整がシビアな所で、昔TNCを作ったときも苦労しました。 また、水晶もちょっと入手しにくい周波数のものを使用する必要があります。もっとも、この石を持って入れば保有している場合が多いと思うのですが。

配線図中、CLKから2SC1815に抵抗を通してつながっていて、TRSに接続されていますが、これは反転させているだけなので、HC04でも大丈夫です。自分は抵抗入りトランジスタを使用しました。

配線図

ページの最初に戻る

TCM3105を使った受信装置

 

MSM6947(2号機 2003/10完成)

 
MSM6947は沖電気のモデムチップです。このチップ、現在でも生産しているようで、秋葉原でも入手が出来ました(2003年5月頃)。このチップはタスコのTNC-20やAIWAのAPX-25など、多くのTNCに使用されました。また、自作TNCにも結構採用されています。自分も、TNCの基板を持っていて、これに使用するために確保してあったので、これを使って作成してみたわけです。

このチップの良いところは、調整が不要というところです。写真を見ると、VRが1個見えますが、これは送信のレベルを調整する物で、受信に関しては調整箇所がありません。

逆に悪い所は、+12Vが必要なところです。写真ではH8ボードの下になっていますが、MAX622Aを使用して5Vから12Vを発生させています。AKI-H8マザーボードを使用する場合は12Vもありますので問題ないと思います。 また、DC-DCを使っても良いと思います。TDKの小型のものであれば簡単に実装出来ると思います。

配線図

ページの最初に戻る

 

 

MX614(3号機 2004/2完成)

 
MX614に関してはあまり知りませんでした。というのも、自分がパケット通信に夢中だった頃にはこのチップは無かったからです。ですが、CUTE-Iチームでも使っているそうで、CUTE-IのページにはMX614の写真が載っています。

MX614はCML社の石です。現在は製造中止でFX614を勧めているようです。FX614も同じピンアサインのようで、置き換える事ができるようです。

で、これを使って作りたいと思って入手方法を問い合わせたのですが、1個1,500円、1ロット単位の購入(10個)で、15,000円もかかるので、これは無理とあきらめていた所、 なんと東工大のCUTE-Iチームの方から分けてもらえたので作ってみました。(その後の情報(JAMSAT-BB)では、TAPRのWebページから購入できるとのことです。)

このチップの良い所は5Vのみで動作し、しかも調整が不要という所です。

悪い所は特に見あたりません。

配線図

 

ページの最初に戻る

 

AM7911(4号機 2004/2完成)

 
AM7911はAMD多機能モデムチップです。Bell202だけでなく、300bpsのBell103、CCITT V.21、1200bpsのCCITT V.23も可能です。パケット通信の世界でも、タスコのTNC-24やPK-88JなどHFまで対応したTNCに採用されていました。現在では製造していないようです。

SRLL受信に限って言えば、このチップの良い所は見あたりません。色々なプロトコルに対応していても、SRLLはBell202ですから・・・

逆に悪い所は、-5Vを必要とする所、外付けの部品が多い事などがあります。MSM6947のように+12Vであればそれほど問題にはならないと思いますが、-5Vというのはちょっと作りにくい電圧です。

ですが、JAMSATで過去に頒布されたことがあるようで、JAMSAT関係では保有している人も多いと思い、作成してみたわけです。

-5Vは写真ではH8ボードの下になっていて見えませんが、TDKのCRZ0505NCというDC-DCを使用し+5Vから発生しています。昔のTNCの回路図を見ると、555(556)から作っていました。

配線図

AM7910も同じピンアサインのようで、そのまま置き換えられると思います。

ページの最初に戻る

作成したデコーダは全て同じ大きさに作ってあり、かつコネクタの位置も同じ所にしてあります。これは同じケースに収められるようにするためです。 また、ハンディ機で野外に持って行けるようにDC-DCやMAX662Aを使用し、他の電圧を生成しています。

今後の展開としては送信できるようにすることです。それにはCUTE-Iチームから送受信のプログラムが公開されることを待ち、試してみようと思っています。

このページを公開した後、CUTE-Iのページからリンクを張ってもらいました。(2004/03/14)

ご質問、ご意見等はtvn[at]yk.rim.or.jpまでお願いします。

自称 SRLL愛好会 JH1TVN


戻る