楽天 巻頭言 96年2月号


遠当ては世界を救う

新体道協会会長 青木宏之


 気ブームはどうやら全国的にすっかり行き渡り、定着したような感がある。

 1984年秋に筑波大学で「科学・技術と精神世界」という主題で日仏合同の国際会議が行われた。その時、「気」ということが話題に出てきた。それを聞いて諸外国から集まった学者たちは「気などと言うものはまやかしである。そのような会話がなされる国際会議などに私は出席していたくない」と、五日間の会議中、三日目で会議をキャンセルすると言い出す人達が出て、てんやわんやになった。なかでもフランス国営放送局の局長代理マリオディール女史や、フランス最大の隔月刊誌『ル・アクチュエル』の記者レオン・メルカデ氏らが急先鋒となって、このコンフェランスはインチキであるとたいへん激しい抗議をした。

 私もこの会議では発言したり演武を発表したりというような立場にいたし、た会議が始まる前からいろいろお手伝いもしていたので、その時、会議の主催者である竹本忠雄教授や湯浅泰雄教授が、私になんとか諸外国の人を気によって納得させて欲しい、離れているところから気合いによって人を飛ばすとか、人を動かすような技を見せてもらえないかと頼まれ、まあやってみましょう、ということになった。
Aoki's toate

 そこでステージの上に立ち、攻撃してくる人々を気合いだけで倒し、投げ、あるいは7、8人の人を気によってさまざまな動きをさせるというようなことを見せた。海外の学者たちはまったく心を奪われたかのように机にしがみついて、そのシーンを見ていた。
 それから彼らは私に解説を求めた。その時私は「みなさんがご覧になった通りです」とだけ答えた。それが結果的に非常に好評になり、その後、メルカデ氏が帰国してからル・アクチュエル誌に二度に亘って「気の戦い」というタイトルで大特集が組まれ、フランスに気ブームが起きた。さらにそれはアメリカに飛び火していった。
 ちなみに徹底的に気に疑いをもっていたマリオディール局長代理とメルカデ氏は、いったんこの疑いが晴れるや、ともにフランス新体道のメンバーとなり、その後会員として大いに活躍した。
 
 現在、気ということでは病気治療ということに非常に大きな関心が持たれているが、それは当然のことである。山本政則氏らの尽力により中国気功が日本でもたいへん流行し、多くの病める人々を救っていることはまことに大きな功績と言わざるを得ない。

 しかしながら、中国の諸気功治療師らも気功は日本の方にこそ優れたものがあると言うごとく、さまざまな日本古来の気の操作による治療法や修行法などがたくさんあることをわれわれは思い出すべきである。また、気という言葉は使われないにして世界中にそのような気による治療法が存在していることも確かである。

 さてここで気というものの働きを考えた場合、遠隔治療というのがある。これは距離の遠近の差はあれ、離れたところにいる人の病気を治療しようとするものである。そのようなものはないという人もいるかもしれないが、われわれの武道や新体道の世界ではそれがまったく常識で、離れている人に気を送ったり、それを感じたりしなければ稽古など成り立たない。

 武道の古い技に「遠当て」というのがあったと昔師匠から聴かされた。「遠当て」とは離れている人の精神や肉体の状態、脳の動くリズム、タイミングなどを見て、そこに激しい気合いを入れて倒したりする技である。誰も出来る人がいない絶えた技であったが、私は当時なんとかしてこの遠当てを復活させようと夢中だった。そしてついにそれらしき技を発見し完成させることが出来た。三十二年も前の話である。

 人の思いというものはある距離を飛んで行く。それは目に見える距離であるならばは
っきり方向を持って飛んで行くし、目に見えない場合には想念の波動となって送り手から受け手の方に達するものである。

 目の前にいる人が怒ったとしよう。そうするとその怒りが激しければこちらは胸がドキドキし、頭にカッと血が上ってくる。あるいは体がすくんでくる。また、非常に包容力のある温かい人がそばに来ると、その人の体から出る包容力や大きな愛情が気になってこちらが包まれるために、緊張がやわらぎ、疲れが取り除かれて行く。そして非常にラクになる。

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 遠い場合では、ずっとある人のことを思っている時、その人もまたこちらのことを思い浮かべるということがある。ある人のことを思っている時電話が鳴り、受話器を取るとその人だったということはざらにある話である。
 私は、肩が凝ってつらいとか、胃の調子が悪いとか、なにかお腹の具合が悪いとか言うような方には、面談していてその場で気持ち良くなるようにしてあげることがよくある。これも離れている人に気を発して相手に働きかけるという意味では遠当ての一種なのである。だから私たちが、離れている人が健康でしあわせに生きて行くことをもし願えば、その思いは飛んで行って相手の人をそのようにするであろう。これこそ本当の遠当てなのである。
 気というものは確かに空間を飛んで行く。そうするとわれわれの怒気や嫉妬や憎しみは空中を駆け巡り、その対象となった人々の心や体に当然悪い影響を与える。また相手がまったくそれを受け付けない場合にはそれが跳ね返ってきて自分の心や体を傷つける。

 そのようなことがおこるのは、人間の体が非常に優れた発信器であり、また受信器であるからである。そうすると人間の体から出た怒りや嫉妬や憎しみの気とか念波とか言われるものは、この宇宙全体を駆け巡っているとみて良いであろう。もしそうならば、われわれ一人一人が、愛の思い、やさしさ、いたわり、あるいはきれいな気持ちで普段生きていることが、この地球はもちろん宇宙全体を本当に清らかにするのではないだろうか。
 われわれの心の思いは放送局から発せられる電波のようにこの宇宙全体を駆け巡っているからである。心は無限に広がるという意味がそこにある。

 われわれには離れている人の脳の動きを読み取ることが出来るということと、それに合わせてあるタイミングで激しく気を発することによって人に強力に働きかけることが出来るのだということを、武道の遠当てでみなさんにお見せしてきた。これは、私たちが日々、本当に周りの人々の幸せや健康を願って生きて行くことによって、遠当てで人を倒したり投げ飛ばしたりするごとく、その人を元気にし、幸せにしてゆけるんだということを確信していただきたいからなのである。
 悪心を抱かないよう気をつけ、絶えず良い気を発して生きて行くことこそ、この世、そしてこの宇宙を救って行くのだということと、そしてこの宇宙とは他ならぬ自分自身だということを知って欲しいのである。

 今、さまざまな気グッズが出回っており、なかには気を悪用している業者もいるように見受けられるけれども、私たちはもっともっとこの気というものを深く捉え、大切に今日の気ブームを育てていきたいと思う。

新体道協会会報楽天96年2月号から転載


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