やれるだけの準備を終わって、いよいよホノルルに向けて出発する日が来た。 いろいろ練習してきたが果たして完走できるのかちょっと不安である。 特に 31km 以上走ったことのない僕としては最後の 10km は未体験ゾーンである。 まあ、あれこれ考えても仕方ないと覚悟を決めて出発した。
ホノルル到着は日本時間では夜中、ハワイでは朝。やっぱり眠い。 一応ツアーで行ったので、最初アロハ・タワーとかいう所に連れて行かれた。 ハワイに来たのは今回で二回目なのだが、こんなところは初めてだった。 一応由緒ある所らしい。ここのそばの建物でマラソンについての説明を聞いた。
今年からマラソンのスタート地点で防寒用に着る服をゴール地点に運ぶサービスは無くなってしまったらしい。 ということで、ゴミ袋を買って首の入る穴を開けてかぶれというアドバイスをもらった。 そんなことでいいのだろうか?寒さに耐えられるのだろうか?非常な不安に襲われた。その後、マラソンのコースの下見をするバスが出るというので、それに乗った。 最初アラモアナ公園そばの道からスタートする。
スタート地点となるアラモアナ公園付近
その後、まずホノルルの街を通り、ワイキキ海岸の脇を通ってカピオラニ公園のそばを抜ける。 カピオラニ公園のそばはワイキキ・ビーチで、公園の向こう側はすぐ海岸といった所である。 さらにダイヤモンドヘッドをちょっと上ってから海岸におり、後はハワイ・カイまでまっすぐ走る。 ここまでで 25km で、さらにハワイ・カイをぐるっと回ってからダイヤモンドヘッドまで同じ道を戻る。 最後はダイヤモンドヘッドの海側を抜けてカピオラニ公園に戻りゴールというコース。 途中バスの中でうとうとしながらも思ったのは、ダイヤモンドヘッドとハワイ・カイの間の往復と 最後のゴール直前のダイヤモンドヘッド越えはつらそうだということだった。ホテルに戻ってから、早速近くのカピオラニ公園を走ってみた。大きな公園で一周 3km ある。 日本では走るのに良い公園が近くになかったので、羨ましくなった。 まあ、これなら明日も走れるので、ちょっと安心した。
次の日は、マラソン当日にあわせた時間に走り始めた。 朝 5 時頃ホテルを出て走ってみた。 寒いかなと心配していたのだが、やっぱりハワイだけのことはある。 走っている時は特に寒さは感じなかった。 この日は雨がぱらついていたため、ちょっとだけ走るに留めた。 時差ぼけがずっと続いていて、ホテルに帰ると寝てしまう。 これでいったい良いのだろうか? 夕方になって、ゼッケンを取りにアウトリガーリーフというホテルまで行く。 ゼッケンをもらった途端、完走できるかどうか不安がよぎる。
日に日にマラソンに参加するためにホノルルに到着する人が増えているようで、街中をジョギングする姿もよく見かける。 この日はホノルルに来て初めて日本での日常の最大練習量の 6km を走った。 体調には支障はないが、ここ 1 週間運動不足なのが気になる。 いずれにせよ、明日が本番で、今更何を言ってもしょうがない。 カピオラニ公園ではすでにゴール付近のテントや横断幕の準備が始まっていた。
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この日はとにかく早く寝て本番に備えることにした。
おにぎりをくれるからと起きたのが午前 1 時前!こんなんでマラソンなんか走れるの?という時間だった。 午前 2 時半過ぎにはバスで出発し、3 時にはスタート地点についてしまった。 これから、スタート時間の 5 時まで何をして待ったらいいんだ? しかたなく、前日苦労して買っておいた黒いビニールの袋をかぶり、開けておいた穴 から頭だけ出して待っていることにする。それにしても、人が多い。 バスが次々と到着してどんどん人が増えて行く。 今年は 3 万 2 千人参加するそうで、しかもそのうち 2/3 が日本人だとしきりにアナウンスされていた。 いつの間にか人が混み合うような状態になってきて開始時間が迫ってきた。 目標タイム毎に並ぶ位置が違うので恐れ多くも 3 時間〜 4 時間の後ろの方に並んだ。 気合ぐらいは一人前にしておかないと・・・。 そして、花火の合図と共にスタート、と思ったら全然動かない。 1 分経って、やっとのろのろ動き出した。 数分してやっとゆっくり走り出し、まともに走れるようになってきたのは 5 分程度たった頃からだった。 最初は真っ暗なホノルル市街を走って行く。 人が多いので、思ったようなペースでは走れなかったりするが、快調に飛ばした。 まだ夜明け前なのに、沿道から声援を送ってくれる人たちが結構いる。 予定よりペースが遅れ気味なのがちょっと心配。
10km 位走るとゴールとなるカピオラニ公園が見えて来る。 その脇を回り込んでダイヤモンドヘッドを上りにかかる。 だが、ここで一応トイレに行っておこうと思ったのが間違いだった。 トイレにいったらたくさん人が待っていて 7〜8 分のロス。まずいと思ってペースを上げた。 ダイヤモンドヘッドの坂を登っている途中で夜が明けた。 まだまだこちらには余裕があるので、とにかくペースを上げて走った。 登り切るとあとはだらだらと下るだけで特に難所という感じはしなかった。 そして海岸近くのフリーウェーに入って 20km 地点を過ぎる。 そろそろ、ちょっと疲れがみえてきた。それにしても、この長い直線は何だ。 いったいいつまで走っていればいいのかと思うほど果てしなく続く。 折り返し地点のハワイ・カイはまだ見えない。水分を体が要求する度合いも 大きくなって来る。水をもらえるエイドステーションが恋しくなってくる。
ついにハワイ・カイに着いた。ぐるっと数キロ回って折り返す。やっとこれで あと 15km だ、と思った途端疲れが出てきた。でもまだ走れる。 本番までの事を考えないといけない今までと違ってとにかく力を出し切って走りきればいいのだからその点は楽である。 走っているといろんな格好をしている人がいる。 いずれにせよ、僕のペースは結構早めのようで、少しずつ抜かして行くのでいろいろな人を見た。 結構年を取っている人も多く、よく 30km もこのペースで走って来れたなという人たちをたくさん見かけた。 ちょっと感心してしまった。 ピンク色のバニーガールの格好をした女の子なんかもいた。 こんなバニーに抜かされたらショックだろうなと思いつつさっさと抜かしてしまう。 そのうち、妙に耳障りな音が前方から聞こえて来るので何かと思ったら、なんと着物姿で下駄履きの人がいた。 これには驚いた。今まで 30km ずっとその格好で走ってきたのか?足は大丈夫なのか?下駄も大丈夫なのか? 感心しながらも抜かす。反対側はまだ往路を走る(というより歩く)人たちがいっぱいいた。まだ、半分にも到達 していないはずなので、頑張れよ、と心の中で思いつつも、自分自身に全然余裕が無くなってきていることに気がつく。 やっぱり 30km も走るとそろそろ走るのが困難になってきた。 エイドステーションで補給するときには歩いて水分をとるようにしているのだが、段々その歩いている時間が長くなって来る。 そろそろ、自分の未体験ゾーンも近づいて来るし、走っているのが精いっぱいとなってきた。苦しい。
急にパワーがなくなってきた。走るのがつらい。こんな状況をどう説明すればいいのか。 もしかして、これが噂に聞く 35km の壁というやつなのか?気力があっても体が動かない。 ああ、足が動かなくなって行く。体に水分も何もかもが供給されていないようだ。 あ、ついに歩いてしまった。周りの人たちが抜かして行く。口惜しい。 なんで体が動かないんだ。だめだ歩くしかない。 歩いている人も結構いるが、これでは 5 時間以内は無理だ。あともう 7〜8km なのに。 と、これまた早足で僕を抜かした黒人の人が、僕を振り返っておまえの状態は俺にも 良く分っているんだという顔して "Goal is soon." と言って励ましてくれた。 こちらは笑顔を返すしか余裕は無かったが、嬉しかった。しかし、全然走ることができない。 体の耐久力をすべて使い果たしてしまったようだ。 いずれにせよ、最後まで歩いたのではあまりにも情けない。 試しに走ってみる。100m も走れず、また歩く。 しばらく歩いた後でまた走るが、すぐ歩きに戻ってしまう。
苦しい状態がもう 30 分も続いている。 しかもゴール直前のダイヤモンドヘッドの上り坂がさらに足に攻撃を加える。 沿道には日本の旅行会社の人と思われる人たちが盛んに声援を送っている。 しかし、その声も僕の足には届かない。 と、その声援の中に「バニーちゃん頑張って!」の声が。 え、まさかと後ろを振り返ると、さっき抜かしたバニーが迫って来るではないか。 ここで突然、自分のプライドが戻った。あんなバニーに負けていいのか? 足を必死に動かして、走り出した。しかし、バニーに抜かれて行く。 まずい、なんとしても追いつかなければ、と頑張る。 だんだん、走れるスピードが速くなって、追いついてきて抜きかえした。 ちょうど、坂をだいたい上り詰めたのでここでスパートをかける。 これで一気に走る体制に戻れた。 そして、下り坂。あと 2 マイル、あと 1 マイルと標識に書かれた数字が減っていく。 下りも終わり、ついにゴールのカピオラニ公園が見えてきた。 入口近くの標識の数字を見ると、え、まだ 1 マイル? さっき沿道の人があと半マイルだと言っていたのに? しかし、走り続ける。もうスピードは出ない。走るのがやっとである。 もう公園内の道をひたすら走る。 長い道がゴールまで 1km 近くまっすぐ続いているはずである。
ゴール直前の道(前日写したもの)
しかし沿道の人の拍手や "Good job!" の掛け声が嬉しい。 横断幕が見えてきてあれがゴールだ、と思って走ったら、そのむこうにさらに遠くに横断幕が。 そしてあと 1/2 マイルの表示。 よし、とにかく次の横断幕がゴールだ、と頑張る。 しかし、ちょっと様子が違う。近づいてみると、さらにそのむこうに横断幕が。 半分泣きたくなりながら、今度こそゴールだ、と必死に走る。 そして、やっとゴールが見えてきた。なんかとても感動してきた。 ああ、今まで必死に走ってきたのがついに報われるのか、と思いながら沿道の声援を受けつつ ついにゴール。もう足は棒のようでうまく動かない。でも気分は最高だ。
完走直後の姿です。ちょっとやつれてます (^_^;
走ってしばらくしてからは、もらったリンゴをかじりながら満足な気分に浸っていた。 以前日本で長距離を走った時から分っていたことだが、足は棒のようになっていて動かない。 しかし、特に体調が悪いということもなく、良い気分でゴールを迎えられた。 ただ、35km で歩き出してしまったのはまずかったらしい。 あそこは遅くてもいいから走り続けないといけないそうだ。 かなりのタイムロスになったはずと、一緒に行った友人が言っていた。 いずれにせよ、周りの人にはずいぶん力をもらった気がする。 戦術的なまずさから 4 時間半を切れなかったのは少し残念だが、初挑戦でしかも 2 ヶ月半の準備期間で完走したので良しとしたい。 声援を送ってくれた人、励ましてくれた人、ありがとう!