Story #006:米国の最初の風景(4) |
ほんのわずかな時間、10分あまりで、Bernieの運転する車は、近所のショッピングモールに到着した。ショッピングモールは、かなり大きく感じた。さすがは、米国だなぁ・・・と感心したのだが、今、考えれば、たいして大きくもなく、よく言っても中の下というくらいのショッピングモールだった。レンタルビデオ店(Blockbusterと言う名前のレンタルビデオチェーン店)で、20分ほど借りるビデオを物色して、Bernieは4本のビデオを借りた。その店を出た直後、Bernieは、その店のそばにあるファーストフード店を指さして、「あれを知っている?日本にもあるか?」と聞いてきた。看板には、"TACO"と書いてあった。一瞬、「たこ焼きでも売っているのか?」と思った。今思い返せば、何とも間抜けた勘違いで、爆笑してしまいそうだ。TACOとは、TACOS(タコス)のことで、そこは、TACOSやBURRITOS(ブリト)などを売るファーストフード店(TACO BELL)だった。「知らない、見たことはない。」と、つたない英語で答えると、Bernieは、「食べてみるか?」と言ってきた。どんな物が出てくるのか?と不安があったが、好奇心の方が勝ったので、食べることにした。ただ、現金の持ち合わせがあまりなかったので、それだけが不安だった。店の中にはいると、いくらかの人たちが列をなしていて、カウンターの店員は、ぶっきらぼうにオーダーを取っていた。日本のファースト・フード店とは、だいぶ雰囲気が違う。ファーストフード店に関しては、また、別の項目で話すつもりなので、あまり詳しくは記さない。私は、すっかり気後れしてしまって、何をどうオーダーしていいのか、さっぱりわからず、半放心状態になっていたが、Bernieが適当にオーダーしてくれた。会計の時、慌てて、財布からお金を取り出そうとすると、Bernieが笑いながら、それを制してお金を払ってくれた。席につくと、Bernieは、どうやって食べるのかを教えてくれた。とはいえ、それほど難しいことはない。単に、タコスにチリソースをかけて、ほおばるだけ。ただ、いきなりほおばったら、気化したチリソースをまともに気管に吸い込んでしまったようで、むせてしまった。それを見ながら、Bernieは、本当に愉快そうに笑っていた。初めて食べたタコスは、なかなか、おいしかったと思う。その後、何度も食べたが、このときほど、おいしいとは思わなかった。これは、初めての食べ物を、初めての味わう感動の分が加算されていたのであろう。 家に戻ると、Bernieは、夕食の支度を始めた。この家では、Jeannieは、全くと言っていいほど、家事をせず、Bernieが、ほとんどの家事をしていた。この日の夕食メニューは、チキンBBQと、サラダ、付け合わせに、インゲンとコーンの缶詰を暖めた物、それに酸味のあるスライスされたパンだった。これを各自、皿に取って食べた。リビングで、JeannieとBernieは、長いカウチに座り、そのカウチにL字型になるように配置された、やや小ぶりのカウチに、Shihoが座り、私は、Jeannieたちから、少し離れた壁際の一人がけのカウチに座って、食事をした。この配置が、結局、この家を出るまでのみんなの定位置にだった。リビングには、大画面テレビがあり、ケーブルテレビがつながっていた。食事の最中、Jeannieは、頻繁にチャンネルを変えた。初めて見る、米国のTV番組・・・いや、本当は、日本でも、結構、米国のテレビ番組(ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティなど)流れているのだが、そのときは、そんな風に思っていた。もっとも、テレビの中でしゃべっている英語は、全くと言っていいほど、わからなかった・・・。時々、いくつかの単語が聞き取れる程度。それでも、ラジオと違って、画面がある分、おぼろげながら理解できないことはなかった。 食事を終わってから、しばらくすると、強烈な眠気が襲ってきた。カウチに座りながら、時々、眠りそうになった。時間は、まだ午後7時か、8時頃。そのたびに、Jeannieが「眠っちゃだめよ!」と言って、私を起こした。これは、何も、からかっているわけでも、意地悪しているわけでもない。時差ボケの解消のために、無理矢理にでも、夜の遅い時間まで起きていて、それから就寝し、朝、普通の時間に起きるようにすると、時差ボケ解消が楽になるからだ。そのうち、目覚まし?のために、ゲームをしようと、Jeannieが言った。羅ミーキューブという名前のゲームだった。・・・このゲームの名前、どこかで聞いたことがあると思ったら、だいぶ以前に、読んだゴルゴ13という超長期連載のアクション漫画のある1話に出てきたゲームだった(笑)少々のお金をかけてやったので、ゲームは白熱した。結局、午前1時半くらいまで、ゲームに興じた。私は、ほんのわずかだが勝ちになった。 その後、皆、自室へ引き上げて、私も自分の部屋に行ったが、かなりふらふらの状態だった。無理もない、前日、朝起きてから、34時間近く、ロクに眠ってない計算だった。しかし、自分の持ってきた物を整理・収納しておかないと、明日から困るかと思い、眠い目をこすりながら、音を立てないように作業を始めた。スーツケースから衣類、その他の物などを出して、ノートPCなどの機械類を取り出して組み立てた。だが、部屋の灯りは、机とベッドの間にあるコーヒーテーブルの上にあったスタンド1つのみで、かなり暗い。欧米人は、東洋人より明るさに関して、敏感だから照明が暗くていいのか、鈍感だから暗いのを気にしないのかわからないのだが、とにかく暗い。米国に来る前に、ネットで事前に「留学記」みたいなものを読みあさっているときに、照明に関しての注意を読んだことがあったが、まさにその通りであった。私は、米国来てから、今のアパートが9軒目の住処なのだが、玄関とかキッチンなどの一部を除いて、例外なく、部屋の天井に照明があることはなかった。結局、部屋に物を収納・整理し終えるのに、午前3時頃までかかってしまった。 ようやく、部屋が落ち着いたところで、パジャマに着替え、用意されたシーツをベットに敷くのももどかしく、ベッドに潜り込んだ。本当に長い長い一日だった。眠りにつく前、少しだけ思いを巡らせ、今日という日を、あとから、どんな思いで思い出すのかな?と考え、今日あったことを、しっかり記憶しておこうと思いながら、眠りに落ちていった。 |